Re32 魔法少女の茶会
「さてと、ピンクの悪魔、貴女は今日からこの部屋を使いなさい」
「この部屋……ですか」
魔王の城に連れ去られた私に用意されたのは一人暮らしするには困らない程度、ほどほどな大きさの部屋だった。
ただ私としては部屋の広さより装飾の方が気になる、というか、嫌だ。
「なんかその、すっごくピンクでフリフリしてて、ぬいぐるみとかやたらあってファンシーなんですが」
「貴女好みでしょ?」
「何処がっ?!」
え、私この人達になんだと思われてるの?
「ピンクの悪魔ですよ私!」
「ついに自分で言ったわね……でもそんなファンシーなカラーと恰好しておいてまさか好きじゃないなんてことないでしょ?」
「え、全然好きじゃないです」
私が即答すると、時音さんは顔面蒼白だった。
「なん……なんで? だって貴女如何にも魔法少女ですって見た目で……え?」
「むぅ……」
まあ、気持ちはわかるけれど、それ言い出したら彼女達だって同じ恰好してるのに。
「聞いてたのと大分違うわね……」
「聞いてたの?」
それはなんだろう、どういう意味だろう。
「まあ、その辺は後で話すわ。それより、部屋の紹介はこの辺にして、早速会ってもらうわよ」
「え、まさか」
それって魔王と?
「そのまさかよ。貴女を真央に合わせる為に、ここまで連れて来たのだから」
「うわぁ……」
ホントにトントン拍子に話が進むなぁ、私の異世界転生、冒険感無くて、なんか出張先で仕事だけバリバリこなしてく感じだ。
「露骨に嫌そうな顔してないで、行くわよ」
「はい……」
もう魔王と会っちゃうのか私。まだ四天王も倒してないし……いや、魔法少女四人には勝ったけど。勝った後に降参してるから、イマイチ勝った感じしないけど。
なんにしても、魔王に会うプロセスというか、そういうのをきちんと踏んでない感じがする。私の冒険は特急列車だ。
「さて、この部屋だけど、まず注意しておくわ」
時音さんの案内でしばらく歩くと、ついに魔王のいる部屋についたみたいなんだけど、注意事項があるらしい。
なんだろう、怒らせるとちねられるのかな。
「真央はイカれてるから『あ、コイツやべぇ奴だな』と思っても戦闘行為に移ったりしないで」
「え? ヤバいヤツなのにですか?」
「貴女ね……そういう所よ……」
なんだろう、私ってもしかして戦闘狂か何かと思われてる?
「貴女、ゴブリンも殺さない博愛主義者だったんじゃないの?」
「博愛じゃなくてただ公平でありたいだけですよ。悪いことしてたら人でも魔物でもアオミドロでも撃ちます」
「微生物に魔術ぶっ放すのは止めなさい……?」
時音さんはそう言うけど、別にオーバーキルしたい訳じゃない。
素手で潰せない小さい奴は魔術で焼くしかないと思うだけで。
「兎に角、真央には貴女と争う意思はないわ。今日は交渉とかですらない、ただのお茶会よ」
「お茶会……?」
それは何だろう。ワルプルギスとかそういう奴だろうか。
「そうよ。ただお喋りしながら、お菓子とお茶を楽しむだけ。いいわね?」
「……まあ、そういう事なら」
私はとりあえず、渋々ながら納得した。
私だって流石に、この場所で全魔法少女相手に戦う程馬鹿じゃない。
「真央、入るわよ」
時音さんが少し大きめな声で語り掛けると、中から「どうぞ」と大人の女性の声がした。
「こんにちは、メグル。私がこの城の主、魔王と呼ばれる魔法少女よ」
そう言って私に微笑んだのは二十代くらいの美しい女性だった。
ここまで皆(時音さんはギリギリ?)少女っていう見た目だったのに、この魔王は一人だけ大人びている。
ただ見た目だけだと落ち着いた印象のある大人のお姉さんって感じで、別にイカれてる感じとかはしない。
「どうぞ座って? 今日は貴女と一対一で話したくて、他の子には外して貰ってるの」
「え……いいんですか?」
私がつい、そう尋ねると、魔王は楽しそうに笑った。
「うふ、良いわよ。貴女が私を殺すというなら、私も貴方を殺すだけでしょ?」
「あ、はい……」
なるほど、これは頭がおかしい。
戦力的に圧倒的に有利なのに、その有利を手放すばかりか、殺し合いになったらそれはそれで楽しいって顔をしてる。
「それに、あの子達個人に勝てても、複数人に勝てない段階で、私より格下でしょ」
「なっ……」
なんか今、ちょっとムカっと来ること言われなかった?
「べ、別に勝てないわけじゃないですけど。ただ、リスクを避けただけで……」
「私なら戦う事にリスクなんてないけど?」
「……むぅ」
な、なんだろう、この人喧嘩腰じゃない?
「なんて、煽るのはこのくらいにしましょうか。私だって一応、貴女の事は認めているのよ。最強の魔法少女さん」
「何の話ですか?」
最強の魔法少女になんてなった記憶、ないんですけど。
「貴女、ノモルワを倒したんでしょう?」
「……え?」
なんでこの人がそのことを知ってるの?
「何でって顔ね。憶測だけで言えば、理由はあの神がこのタイミングで遣わせたってことかしらね」
そう言って魔王はクッキーを手に取って握りつぶした。え、何、怖い。
「貴女、この世界に百年に一度魔法少女が現れるのはご存じかしら」
「はい」
「今回は誰が来たかは知ってる?」
「……はい?」
何言ってるんだろうこの人、頭大丈夫だろうか。
「私ですよね」
「いいえ、違うわ」
「……はい?」
どういう事だろう。私がここ最近で一番新しい魔法少女だよね?
「ふふっ。実はね? 貴方はこの年二人目の魔法少女なのよ」
「え?」
そんな馬鹿なことある? だってそれじゃあ……魔法少女の人数が……。
「空間操作って魔法は便利でね、異世界にも行けるのよ」
「何の話ですか?」
「大事な話よ」
そう言って砕いたクッキーを口に流し込む魔王。食べ方が悪趣味だなぁ。
「私はね、この年に現れた魔法少女の一人目をひそかにこの城に転移させて、仲間にしたの」
「へ、へぇ」
それはいつの事だろう、私が来るちょっと前とかかな?
ていうかさらにもう一人仲間居るとかシャレにならない。勝てるかなぁこの戦力差で。
「もう一ヵ月も前ね。そしてその子を空間転移で私達の世界に戻した」
「そんなことが――」
「できるわ。そしてそれには理由があったの。その子はある魔法少女の話をしてくれたわ」
そう言って魔王は紅茶を啜ると、話を続けた。
「その子には大好きな先輩魔法少女が居て、その先輩をどうしても殺して自分のモノにしたい。それほど愛してるってね」
「……え?」
それって、どこかで聞いたような。
「でももう先輩には会えない。悲しい、悔しい、そう言ってわんわん泣くものだから、ふふっ。とっても使い勝手がよさそうでしょ? ついね、役に立ったらその子を殺させてあげるって言っちゃったのよ」
「…………それって、まさか」
私が時音さんに使った魔法、触れた相手を即死させる魔法の元の所有者……。
「えぇ、羽生四離ちゃんだったかしら。貴女の可愛い可愛い後輩ちゃんよ」
「っ……」
あの子は確か、ノモルワとの最後の戦いの前、私を先に行かせる為に決死の覚悟で敵の大群に突撃して道を開いてくれた。
そして、その時に……。
「あの子がこっちに来て、直ぐにその話を聞いて、そのまま送り返したの。条件はノモルワを殺した、最強の魔法少女を殺すことよ」
「なん……何を言って……」
四離ちゃんに人を……魔法少女を殺させようとした?
この……魔王が?
「でも、いやあ、以外と言うか、わかってはいたと言うか。四離ちゃんから聞いた通り、お強い先輩はノモルワを本当に倒して、そして相討ち、瀕死の重傷を負ったって言うじゃない?」
「え?」
相討ち……瀕死の重傷?
私は……死んだ……よね?
「そこでね、ほら、報酬とお仕事の条件が一致しちゃったのね。ノモルワを殺した魔法少女を殺せば、貴女を殺すチャンスを上げるって言う報酬だもの。そのノモルワを倒したのが貴女なら。ねぇ?」
そう言って、くつくつと笑う魔王を見て、怒りが湧く。
「私は、ノモルワに殺されました」
「違うわ。重傷を負って、瀕死の所をあの子に殺されたのよ」
「違う!!」
そんなことあるはずがない。だって、神様だってそんなことは言わなかった。
それにあの子が、本当に私を殺すなんて……そんなこと、あるはずがない。
「違わないわ。貴女は後輩ちゃんに殺されたのよ」
「あの子はそんなことしない! 確かに私を殺したいくらい愛してる変な子だけど! それでもそれは愛情表現の範疇で、ただの言葉の綾って言うか……あの子はちゃんと魔法少女として――」
「そうね、貴女の後輩ちゃんは、貴女を憎くて殺した訳では無いわね」
「え?」
魔王はそういうと、立ち上がった。
「あの子はね。貴女の為に死んだわ。そして貴女はあの子の意思を背負って、世界の為に戦った」
言いながら、魔王はこちらに歩いてくる。
「でもね、世界はそうじゃないの。他の魔法少女は貴女がノモルワを倒して貴女もまた倒れた時、誰一人として救おうとはしなかったわ」
「だって私は死んで……」
「違うわ、しばらくは生きていたのよ、まあ、瀕死だったけれど」
私には、反論の余地はない。死んだのは事実だけど、意識を失って、どのタイミングで死んだのか。それは私にはわからない。もしかしたら彼女の、瀕死だったと言う話は、本当かもしれない。という思いが消えてくれない。
「でもある一人の魔法少女が言ったわ。彼女には死んでもらった方が良いってね」
「どういう、意味ですか」
私を見下ろす魔王に、問いかける。
「簡単よ。皆を守るために戦って死んだ英雄が居た方が、都合が良かったのよ」
「そんな……そんなのって」
そんなこと……あるだろうか。都合がいいって、何に?
「そのある魔法少女はね、貴女の事が羨ましかったの。強くて、可愛くて、当たり前のように皆に好かれる貴女が、とっても羨ましくて、憎らしかった。でも、それでも貴女の傍に彼女は居たわ。えぇ、いつかその人気を、力を、自分のモノにしたくてね」
「それ……って……」
私は、その人物に心当たりがあった。
最後まで私の傍にいた、私の先輩で……私に魔法少女らしさをよく語っていた、あの人。
「桜花さん……」
「そうそう、そんな名前だったわ。彼女は貴女に死んでもらった後、貴女の先輩であり、また意思を継ぐものとして上手くやってるそうよ? よかったわね?」
「そんな……」
私、先輩に嫌われてた?
私によく「魔法少女らしくない」って注意しては「魔法少女らしさとは」ってお約束とか、色々教えてくれて、好かれるように努力しろって、言ってた先輩が。
魔法少女なんて力で正義を押し通すだけの存在だって、大分穿った見方をしながら、それでも、だからこそ、魔法少女らしさ、お約束とかを守って花のある立ち居振る舞いで支持を得ることも必要だって……言ってたのに?
そんな理由で、私を……。
「貴女は先輩に裏切られて、そんな貴女の先輩を見た後輩ちゃんは、せめて先輩を自分の手で殺して、誰も貴女を守ってくれない世界より、こっちの世界で自分が貴女を大切にしようって、そう思ったそうよ。あぁ、これ私の計画にもかかわってるのよ? だって――」
「…………」
四離ちゃんの考えはわかった。でも、なんで……なんで私を……。
「ふむ。一応、言っておくけれど。あの子が殺さなくても貴女は死んでたわ。あの子が貴女を殺したのは、私が貴女を殺したら貴女の生殺与奪権を上げるって言ったからよ。自分で始末すれば、その後は貴女を殺すのは自分の権利。誰も貴女を殺せない。そう思っての事よ? 責めたら可哀そうだわ」
「……そう、ですね」
本当は、私を回復して欲しかったとか、思わなくもないけど。
でも、私を見殺しにした人たちの居る世界で生きていくのもそれはそれでしんどそうだ。
「随分聞き分けいいのね。反発すると思ったわ」
「まあ、四離ちゃんが私欲の為に人を殺してないってわかったので」
「桜花はいいの?」
「まあ、悲しいですけど……人ってそういうものですよね」
「貴女って結構達観してるって言うか、ちょっと怖いわね」
そう言われても、こっちが素だからなぁって思ってしまう。
魔法少女らしくって言うのは先輩にそうあるべきだって教わって、そうしていただけで……私本来の、昔の性格は天然入り気味かつ割とドライな性格だ。
「裏切られて憎いと思わない?」
「思わないですね。そういうこともあるかなぁって。あ、当然ショックですけど」
「そうは見えないわね……」
私の頬を撫でながらじっと顔を見つめて来る。え、怖い。
「世界を守るために戦ったのよ? 裏切られたのよ? 復讐したいって、思わないの?」
「思いませんよ? だって、私は――」
私は……別に。別に……。
「感謝されたくて、裏切られたくなくて、信頼されたくて、愛されたくて、大切にされたくて、守られたくて、敬われたくて、どんな利益の為でもなく、ただ、守りたいから戦っただけですから」
「……ふうん……」
私の頬をまた撫でて、ジッと、ただ見つめる。
「……嘘ね」
「え」
別に、嘘は言ってない。言ってないのに。
「というより、本当のことを言ってないわね。貴女」
「……そんなこと」
無い、とは言い切れない。多分、さっきの私は魔法少女の私の答え、だから。
「本当は違うでしょう。貴女はただ、他人に期待していないだけだわ」
「…………」
困った、割と図星だった。
「そう、ですね。私、期待して無いです。裏切られてもやっぱりかーとしか思わないし、殺されても、そういうこともあるよねぇって思います」
「そうね、見返りが要らない正義、それも事実。貴女はそうなんでしょう。でも、今回のことを受け入れられた本質はそこじゃない。貴女はそもそも裏切られること、殺されるのも、何とも思ってないのよね。自分が何をしてきたかとか、善行をしてきたからとか、何も関係なく、ただ、人を『そういうもの』だって認識してるから」
「そうだと思います」
少なからずショックこそあったけど、裏切りも殺されたことも、案外受け入れられてしまったのは、きっとそういうところなんだろうなぁ。
「それだけに面白いわね。そんな貴女が後輩が自分を殺したと思った時だけは動揺してたのは」
「あぁ……そうですね」
アレは確かに、ちょっとだけ自分でもびっくりかも。
「四離ちゃんはいい子ですから。そうですね。私が四離ちゃんに殺されたのがショックっていうより、四離ちゃんが人を殺したって言うのがショックだったのかも」
「貴女、変わってるわね」
「何故でしょう、よく言われます」
まあ、私がどうなろうと、別にいいんだけど、四離ちゃんが殺人なんて、嫌だなって思った。
そう言う意味では私、あの子には期待してるのかな。人の善性みたいなもの。
「とまあ、貴女がノモルワを倒したって知ったのは、その後輩ちゃん情報ってわけね」
「あ、そんな話でしたね?」
なんか凄く遠回りした気がする。まあたまにはいいかな?
「そして貴女がここに居るのは、神がその力を私を倒すために使って欲しかったからよ」
「……むぅ?」
それはまた、どういうことだろう。
「神様にとって私ってすっごく邪魔な存在なの。だから優秀な魔法少女が死ぬ度にここに送って来る。まあ、当然と言えば当然よね。自分が使わせた遣いが世界を好きにしようって言うんだから、神様責任よねぇこれ」
「はぁ」
それはまあ、送り出した側の管理責任とか問いたい感じではあるかも?
「だから、ノモルワを倒す程の魔法少女なら死んだら確実にここに送られると思ったのよ」
「それで四離ちゃんに殺すように言ったんですか」
「そうよ。結果大成功なわけだけど……あんな何にもない草原に出されたのは意外だったわねぇ」
そう言って笑う魔王を見て、私は自分の行動を監視されていたのを悟った。
「ずっと見てたんですか」
「えぇ、みていたわ。魔法でね。ゴブリンと戦って、悪魔を倒して、投獄されて、ふふっ。面白かったわ」
むぅ、なんて悪趣味な。覗かれていたとは。
「でも、なんで私を、魔法少女を転生させようとしたんですか。貴女にとっては不利になる行為だと思いますけど」
「あぁ……それ?」
私の質問に、魔王は天井を見上げた。
「私ね、神を殺したいの」
「……ふぁっ?!」
な。なんかとんでもないこと言い出したなぁ、この人。
「そ、その壮大な野望の話……長くなります?」
「なるわ」
「じゃあ次週の課題でいいですか?」
「また妙な事言うわね貴女……」
いや、だって、ねぇ。
「ここまでで結構尺使ってるので、二部構成ということで」
「それ、お約束かしら」
「まあ、そんなところです。良い感じの場所で引っ張っておこうかと」
「……そう」
思ったよりこの魔王、話が出来る相手でビックリだ。
頭のオカシイ人だって聞いてたし、そうだと思ったけど、意外と理性的?
「それじゃあ、次週に続くってことでいいのかしら」
「よろしくお願いします」
こうして私と魔王のお茶会は、来週に続くことになった。
ご読了ありがとうございました!




