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Re31 魔法少女の引力

「何だろう、あれ」

 精霊国を出て数刻、そろそろ帝国領に差し掛かる辺りで、まだ遠い帝都のある辺りに複数の黒煙が上がっているのが見えた。

「ふむ、あの手の煙は人のする何かだろう。自然現象の煙でああはならん」

「うーん……」

 でもあれって帝都のある方角だよね。そして時音さんのあの言葉、もしかして。

「帝都が襲われてる……?」

「だろうな。まあ何者にかは分らんがな」

 確かにそうだ。大体、魔王軍との戦線は実際は冷戦状態。ほとんど闘いなんて無いって話だったし、実際そういう様子だった。

 それじゃあ本格的に先端が開かれたのだろうか……でも何か……それも違う気がする。

 でも結局考えても分かることなんて無い。とにかく今は一刻も早く向かうしかない。

「アルク、もしかしたら帝都に入ったら戦闘になるかもしれないから、プリンセスフォームになってもいいかな」

「うむ。我は構わないぞ。また生身で魔法少女と戦わされるのも嫌だしな」

「う、うん……」

 なんか理由があんまりな気がするけど、まあいいや。

『プリンセスフォームッ!』

 とりあえずそれっぽく叫んでみて変身しておく。なんか最近これを忘れて変身した気がしないでもないけど、一応やっておかないとそれっぽくないからね。

『一々言わなくていいなら言わない方が恥をかかないと思うが』

「恥とか言わないで……」

 そうストレートに言われると恥ずかしさより悲しさが増すよ。

「それじゃあ、速度上げるよ!」

 先ほどまでより数倍早い速度で帝都に突っ込む。

 そしてある程度近づいた段階で、あまり見たくないものが視えてしまった。

「うわ……また魔法少女……」

 今度のは黒ベースの紅いフリルをあしらったタイプの服を着た魔法少女だ。

 髪は金髪のツインテールに赤のメッシュと中々イカしたスタイル。瞳は釣り目気味な赤と金のオッドアイ。容姿は少女らしい華奢な体つきにほんのり丸みのある顔立ちだけど、髪と目の印象強すぎて丸さなんて感じない。むしろ割と尖ってる、なんか怖い。

 私がそんな彼女を観察していると、彼女もこちらに気づいて振り返った。

「うん? あらあらあら、てめぇはピンクの悪魔様じゃーありませんか」

「あの、そのどこぞの暴食の球体みたいな呼び名止めて欲しいなぁ」

「カ〇ビィって呼んでやった方がいいってことかぁ?」

「むしろストレートになってるから」

 私そんなに丸く無いし、食べないよ。ホントだよ。

「まあ、てめぇが悪魔なのは変わりねぇですけど?」

「私そんなに悪どいかなぁ」

 いや、まあ実際今まで結構な実力行使してるから、暴力的ではあるけども。悪魔的ではないよね?

『まあ脅迫とかするしな』

「アルク?!」

 なんてことだ仲間に裏切られるとは。

「ケケケ! だよなぁ? そうですよなぁ?」

「……っていうか、その喋り方なに?」

「キャラ付けですわ?」

「あれ、なんか今知らない誰かが頭に過ったんだけど」

 なんだろう、今の若草色の悪魔は。

「さあさあ、命の奪い合いを始めようぜぇ!!」

「えぇ……やらなきゃダメかなぁ」

「この景色を見ても、そんな風に言えるって、てめぇ結構図太いな」

 む、失礼な。太くないよ。

『メグル、そういう意味ではないと思うぞ』

「うっ、わ、わかってるよ。でも……」

 この景色、確かに酷いものだ。

 帝都のあちこちから巨大な黒煙が立ち上り、建物はほとんどが崩壊していて、住民の泣き叫ぶ声、助けを求める声が止まない。

「一応聞かせて。これは貴女がやったの?」

「たりめぇでしょう? てめぇはこれ見て私がただの観客だとでも考えてんですか?」

「……ううん。一応、聞いただけ」

 またこうやって、魔法少女の力を悪用するなんて。

 彼女たちの目的って一体何なの。

 こんなことをしてまで叶えたいそれは、本当に、他の人の命を、想いを踏みにじるだけの価値があるの?

『弱肉強食は世の理だがな』

「……そういう問題じゃないよ」

『そうか? 我とてお前が強者だからこうして共にいるのだぞ。お前が弱者なら、最初の出会いで殺していた』

「……アルクはそれでもいいよ。でも、私達魔法少女は、違う」

 例え話し合いで解決できなくても、力を行使することになっても、それでも、最後には皆の笑顔の為になることだって、そう信じてるからするんだ。

 こんなの、おかしいよ。

「もーさぁ、相談は終わりましたかぁ? さっさと殺し合い致しましょーう?」

「うん……そうだね、それしか、無さそうだし」

 彼女に話し合う余地がないのは、見たらわかる。こんな酷いことをしてさっきからヘラヘラ笑ってて、しかも悲鳴が聞こえる度にそっちを見て、ニヤニヤ笑ってるような、とても腹立たしい笑顔だから。

 彼女には今まで相対した魔法少女達とは全く違った雰囲気がある。

 人を好んで苦しめて、それが目的と言わんばかりに愉悦を感じている顔。

「ぶっ飛ばす……」

『またキレたか……』

 私はほぼすべての魔力でまずストックになる魔力の結晶を生成、即座に再利用で消費した魔力を再回復した。

 そして今度は再利用で今まで使った魔術から身体強化をフルで発動。

 戦闘用にいつも使う準備だけど、今回は手加減はしない、最初から全力だ。

「一発で落とす……」

「へぇ……?」

 私は余裕綽々と、笑い続ける少女に掴みかかった。

 時音さんに使ったのと同じように即死魔法で一気に落とすつもりだった。

「あぁ、そりゃ悪手ですわ」

「なっ!」

 彼女を掴む寸前、私は何かに引っ張られるように地面に打ち付けられた。

「がっ……」

「ははは、ご愁傷さまですわぁ」

「ぐぁ……うぅ……何……これ……」

 体が地面に張り付いて全く動かない。というより、それでもなお思いきり引っ張られている感覚は消えず、体が軋む。

「ぐぅっ!」

「ハハハハッ! こんな雑魚に負けたとか、他の連中無能すぎんだろぉ!」

「っ!!」

 これは一体どういう事だろう……そもそも、私の速度は時間が停止する程の速度まで加速していたハズ。

 なのに彼女が普通に動いて見える、そしてこの状況……。

「わかんねぇんですの? あっははは! 傑作だなぁおい!!」

 上から見下ろすようにしていた彼女が、今度は降りてきて、ゲラゲラと笑う。

「これはなぁ、魔法だよ。てめぇを殺すのに、結構有用な、なぁ」

「魔……法……?」

 これが彼女の魔法? 引き寄せる力……引力?

「それで引っ張られると思うように速度が上がらないだろぉ。お前の時間停止の種は時音との闘いを見てて分かったしなぁ。あぁでも、今は時音と同じような停止法も取れんのかなぁ? まあそれやっても? わたくし様には攻撃届かねぇんだけどさぁ!」

「うっ……うぅ!」

 確かに時間停止とか、超速度での接近は出来なかったけど、でもこの射程なら、他に攻撃手段はいくらでもある。

 例えばそう、再利用による記録された魔術の使用とか。

「魔導砲……シュート!!」

「はい残念」

「なぁっ?!」

 今度は魔導砲がぐにゃりと曲がって空に向かったかと思うと、私の体も空へ吸い込まれるように上がった。

「これでジ・エンドだ。お疲れさまですわぁ!」

『マズいぞメグル! 後ろだ!!』

「え?」

 アルクに言われた通り振り返ると、そこには巨大な黒い何かがあった。

 そこに魔導砲が歪んだ形で吸い込まれて行くのが見える。

「……! これってもしかして!!」

「おぉん? 気づいたんですかぁ?」

 これってもしかして、ブラックホール?!

「マズイ! 空間固定!」

 操子ちゃんの魔法を使って、何とかブラックホール周辺の空間を固定しようと試みたけど、どうやら無駄なようだ、空間そのものが歪んでいるように見える。

 こちらも必死に逆方向に逃げようとはしてるけど、焼け石に水と言うか、多少吸い込まれるのを遅らせる程度にしかなってない。

 その間にも、地上のあらゆるものが、吸い込まれて行く。

 その中には、当然人の姿も……。

「させない! 空間転移!!」

 私は空間を固定するのは諦めて、ブラックホールを他の空間に……被害が出ないであろう異空間に送った。

「操子の魔法か……チッ……面倒だなぁ」

 ブラックホールを消すのと同時に空中に引き寄せられて落ちていく物の中で、人だけは空間転移を利用して地上に、安全な地域に転移させた。

「まあでも? お前が勝てないのは変わらないけどなぁ」

「……そうかな、種がわかったら、そうでもないと思うけど」

「攻撃は届かねぇよ?」

「その都度重力の穴を消すよ」

「ははは、やっぱりわかってねぇなぁ」

「何が」

「最初の魔法、地上に貼り付けにしたときに穴があったかよ?」

「……」

 そういえば無かった。彼女の魔法はブラックホールを作ることではない……?

 もっと単純に重力の操作とか?

 だとすると……。

「こんなこともできるんですのよぉ?」

「うっ……!」

 今度は地上では無く、周囲の建物に吸い寄せられる。

 大きな建物に吸い寄せられて激突し、次は小さな建物、噴水後、銅像、他にも様々な物に吸われ、激突し、それを繰り返す。

「がぁっ」

「ハハハ! バッカみてぇ! 飛ぶの下手糞な新米みてぇでさぁ!」

 どれも重力の穴とかは見えない、せいぜいできるのは吸い寄せられている物体を消すくらいだけど……。

「あぁん? 詰まんねぇことし始めたなぁ。んじゃやーめた。次いこう」

「次?」

 私は引き寄せられている途中で止められて一瞬バランスを崩したけど直ぐに発て直し飛ぼうとした。彼女の魔法にも射程があるかもしれない、まずは距離を取ってそれから……。

「って、嘘?!」

 距離を取ろうと空に上がると、今度は建物や瓦礫が空に飛びあがる。

 でも今度は何かに吸い寄せられている感じはない……どうして……。

『メグル! こっちに来るぞ!』

「え……」

 周囲を警戒すると、私が思っていたのと違う……魔法少女ではない物が接近していた。

「なんで家が……ってそうか!!」

 今度は私自身が強力な引力を発生させているんだ。

 こんな使い方まで出来るって……。

「ちょっとこれズルくない?!」

 私の魔法も大概ズルいけど、これはもっと酷い気がする。

 魔導砲は重力で捻じ曲がるし、移動もかなり制限される。攻撃は四方八方からやって来たり逆に自分が突っ込まされたり。

 攻撃に防御に妨害にと、兎に角強い。

 とりあえず全速移動で避け続けてるけど、ここを魔術で狙われたら厳しいものがある。

「これ迎撃しようにも、魔術が私に向かって飛んで来たら最悪だよね……」

 せめて私の魔法範囲で彼女の魔法を発動して貰えたら、コピーして再利用出来るんだけど、でも、しても勝てそうにないなぁ。

 時音さんの魔法で時間を停止する? でも時間停止しても重力って発動しっぱなしだよね、多分。星の引力にも引かれ続けてる感じするからあの重力も多分有効だと思うし。

 でも今なら、せいぜい私が引力を発しているだけだし、止めちゃえば何とか近づけるか。

 よし。

「再利用……時間停止!」

 これで彼女の動きは止まった、新しく魔法や魔術は飛んでこないから今のうちに……って!

「また地面に引き寄せられてる?!」

 しかも今度はさっきまで私を追って飛んできてた物体が山ほど私と一緒に地面に落ちていく。当然このまま行ったらぺしゃんこな私だけど、かといってこれらの物質を魔術で砕こうにも狙い通りには飛ばないだろう。

 さてどうしようと考えていると、とっさに良いことを思いついた。

「空間転移っと」

 私は空間転移の魔法を使って私と名前も知らないけど、多分流未さんに聞いた残りの魔法少女、曾代淳子な気がする子をアルクと初めて遭遇した山の火口に飛ばしてみた。

「よかった、やっぱり重力発生にも範囲があったんだね」

 帝都から離れたここでは彼女の強力な重力は発生していない。

 ここにあるのは停止した彼女と私だけだ。

「これは勝ったよね」

『あぁ、勝ったな』

 やっぱり私の魔法の方がインチキだったようだ。他者の魔法まで使えるとかかなりズルイもんね。

「でもどうしよう、この子無茶苦茶好戦的だから、時間停止解いたら絶対戦闘になるし、かといって殺すのもなぁ」

『ぶっ飛ばすのでは無かったのか?』

「いやあ、そう、なんだけど」

 確かにあの時はちょっと怒ってそう言ったけど、でも無抵抗の相手を殺すのって凄く気が引ける。

『お前にもそういう理性があったのだな……』

「え。なんか最近アルクが辛辣なんだけど……」

 私何かしたかなぁ。

『何をしたわけではないが……こうしているとお前の気持ちがわかるだろう。なんというか、お前結構怖いぞ』

「えぇ……」

 こんなピンクのフリフリ美少女を捕まえて怖いとは何事だろう。

 ちょっと数十万の軍隊を圧倒出来て、魔法も多彩なチート能力なだけで、怖くないよ。

「うーん、魔王の所に送り返したいけど、場所が分からないと転移させられないしなぁ」

 まさか異空間に仕舞うわけにもいかないよね。

「って……うん? この魔力って……?」

 彼女の扱いについて色々悩んでいると、かなり膨大な魔力が近くにあることに気づいた。

 そしてこの気配には凄く覚えがある。

「時音さんかぁ……」

 この状態で時間操作ができる魔法少女まで来るとか凄くしんどい。

 もし淳子ちゃんの時間停止を解除されたら、二対一になったら勝ち目なんて無い。

「よし、殺そう」

『お前本当に物騒だな……』

 そう思い一歩踏み出そうとした瞬間、気づいた。

 体が動かない。時間停止じゃない、これ、空間固定だ。

 大体、何で今までこれだけ膨大な魔力を持っている相手に気づかなかったのか、しかも相手はあの時音さんだ。もしかしたら時間停止とか加速で急に現れたと言う事もあるかもしれないけど、それにしたって転移してここまで来た私達を何処から追って来たのか。

 それを考えたらある一つの結論に至った。

「操子ちゃん?」

 空を見上げると、そこには時音さんと操子ちゃんが居た。

 彼女が転移で時音さんを連れて来たようだ。

でも転移先が分かったのはなんでだろう。もしかしてこの魔法、同系統の魔法を使われると移動先とか分かるのかな? それとも彼女個人の特殊能力?

 まあどっちにしても、これはマズイ。

 これだと転移で逃げるのも無理、時間操作も無理、淳子ちゃんが動き出したら重力まで使われて勝ち目なんて無いだろう。

 ならやるしかない。

「これで即死――」

 淳子ちゃんの元に転移して直接即死を使おうかと思ったんだけど、これは操子ちゃんの転移で彼女を逃がされて失敗、そのまま時音さんに時間停止を解除されてしまった。

「ふぃー、助かりましたわぁ」

「貴女本当に攻撃することばっかり考えてるわね、だからこんな風に負けそうになるのよ」

「ふんっ。そもそもてめぇらが魔法をコピーされなきゃ勝ってたっつぅんですわ」

「命の恩人にそれは無いんじゃないかしら?」

 なんか時音さんと淳子ちゃんが言い争い始めたけど、操子ちゃんは黙ったままだ。

 あの子あんなに大人しかったっけ。

「それよりよぉ、コイツどーすんですの?」

「そうね。真央には連れて来いって言われているわ」

「ふぅん。殺してかぁ?」

「生かしてよ」

「付いてくるか? コイツ」

「来るでしょう。このまま魔法少女三人相手なんてしたくないわよね?」

 む、そこでこっちに振るかぁ。

「まあ、そうですね」

「貴女も真央に聞きたい事とか、あるでしょ? ここらでもういっそ、会いに来てもいいんじゃない?」

「むぅ……」

 なんかこんな形で出向くと、いかにも負けましたって感じで嫌なんだけど。

「それしかないか……」

 流石にこの人数相手にしたら絶対負ける。

 各魔法少女の魔法は相殺できるけど、それは相手も同じことだ。

 そうなればこちらが使えない重力魔法と、時音さんの高魔力攻撃がとても厳しい。

「じゃあ、決まりね。操子、転移させなさい」

「……あぁ」

 こうして、私は残念ながら数の暴力で負け。

 何だか随分早い気がする魔王城到達を果たすことになってしまいました。


ご読了ありがとうございました!

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