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メイド姉妹

ふーむ……何か変な気分だ。


翌朝、日が明けるよりも早く目が覚めてベッドから起きていつの間にか置かれていたメイド服に着替える。


ルビアは途中で快楽に頭が絶えられなくなって気絶してしまったが、大丈夫だったろうか。まあ、癖になってしまったら困るのだが。


あれは所謂女性専門の娼婦の元に態々出向いて実際に経験し獲得した技術だ。持っておいて良かった。


「ルビア様は……まあ、寝てますか」


ベッド布団に潜り込んで寝ているルビアに目を向けていると背後から物音が聞こえ、同時に殺意を感じ取る。


反転することなく水の魔術で飛んでくるものを防ぎ、振り返る。


「手荒い歓迎ですね。背後からナイフを投げてくるなんて」

「水の魔術の完全無詠唱、姫様が目をつけただけの事はあるか。しかも、寝技上手ときた。中々に使える人材らしい」

「ですがお姉様、彼女はエルフ。警戒するに越した事はありませんわ」

「そうだな、ソプラ。姫様が引き入れたがボクらは認めているわけではない」

「そうですわ、テールお姉様。お姫様が選んだ人物だけれどここまで怪しい人物をお姫様に近寄らせたくありませんわ」


扉の前に立っているのは二人の獣人だった。


一人は切り揃えられた朱色の髪に少年にも見える中性的な顔立ちをした少女。頭に猫の耳を生やし、燕尾服を着た姿がよく似合っている。


もう一人はウェーブのかかった空色の髪を伸ばした少女。赤髪の少女と比べて背が低く、右目が青で左目が金の非対称の目が特徴的。


どちらも胸に着けている薔薇の色は青。ルビアの側近か。まあ、私の服に着けられている薔薇の色もいつの間にか青になってるけど。


赤髪がテール、空髪がソプラね。実力は……まあ、とんとんと言ったところでしょうか。少なくとも、私が負ける要素はない。


「それで、どうしますか?私を排除しますか?」

「あら、分かってるようですわよお姉様」

「分かってくれてたんだね。それは助かるよ。ボクらも悪魔ではないからね、彼女から手を引くのなら手出ししないよ」


そういってテールがニコニコとした笑顔で近づいてくる。少し目を逸らすとソプラがナイフを投擲する構えをとっている。


ふむ、テールが私の身体を拘束してそこにナイフを投げつけて滅多刺しにするつもりなんだろうけど……。


「浅はか」

「なっ!?」


テールに一足で肉薄すると同時に手刀を突きだす。テールは顔を逸らして突きを躱し拳を打ち上げる。


咄嗟に身体を反って攻撃を躱し、後ろに回転して距離をとる。それと同時に眼前にナイフが迫る。


すぐに水の膜を貼りナイフを防ぐとすかさずテールの蹴りが振り下ろされる。


それを受け止めるとテールが驚愕に目を見開く。


「言った筈です。浅はかだと」


足を引っ張り接近させて顔を掴み、氷の魔術で顔面を凍らせる。


流石に呼吸器と目は凍らせてないが、その五月蠅い口は塞がらせてもらう。


「お姉様!?貴様、よくも!?」

「攻撃時に意識を逸らすな。特に、後衛職は常に警戒しておけ」


意識を逸らしたソプラの背後に回り込み首筋に手刀を当てて気絶させる。


やれやれ……自分の主につく虫を踏み潰したくなるのは分かるが、実力差を考えて攻撃してきてもらいたいところだ。


「それで、貴女は見ているだけですか?」

「ええ。私はあくまで貴女の実力を見たかったので」


起き上がったルビアを見て僅かに嫌悪感が湧き上がる。


この女、寝ていると見せかけていた。しかも、かなり私を一度は確実に騙すレベルの技量だ。


私の戦う姿を見て興奮していなければ私でも分からなかったかもしれない。


「全く……ここまで強いとはね」

「予想外ですわ」


テールはポケットから取り出した石を当てて氷を溶かし、ソプラは何事も無かったように起き上がる。


まあ、殺害目的でやっているわけではなかったし、獣人の耐久力は並外れているからな、すぐに起き上がるか。


その後、朝食のサンドイッチを手早く食べて掃除を始める。


ルビアの自室は広く、使用人の部屋を含めて十個もある。その殆どが外交的な資料の模写であり、その多くの資料が外国のものばかりだ。


「一つ言っておく、新人」

「なんでしょうか」


積み上げられた資料の模写をナンバリングや内容ごとに本棚や箱に詰めていく。隣で作業しているテールが話しかけてくる。


声が柔らかい。警戒を解いている、ということか?


「いい加減、その口調は止めろ。精巧な作り物は好きではない」

「……まあ、私が好きでやっているので気にしないで下さい」

「ふん……まあ、それなら良いか。それと、妹にはちょっかいをかけない方が良い。ボクは問題ないけど、妹は君を毛嫌いしているからね」

「分かりました」


むしろ、嫌ってくれている方が助かるのだけど。


爽やかな笑顔を向けてくるテールを半眼で睨めつけながら資料を整理していく。


けど、外国の資料か。法国や帝国、他の小国や連合のものもあな。覚えていたら、私の計画にでも組み込んでみても良さそうだ。


資金は潤沢にあるし、鉱山運営でもしてみようか?いや、それだと契約とかが大変だし、別に良いか。


鉱山の鉱物に関連する資料を元の位置に戻す。


惨劇のトリガーはどこにでもある。特に、この宮殿には特大のトリガーが幾つもある。同時に起動すれば、国内の情勢が一気に混乱するくらいには強烈だ。


そして、既に一つの芽は芽生えている。私の計画とは違う芽だが、計画には支障はない。それに、私達の計画も準備が整ってきている。後はあいつらがこの街に来れば良いだけの話た。


目に見えない惨劇と目に見える惨劇、どっちがマシなのかは分からないけどね。


「新人、ボクは別の部屋の片付けを行うからこっちは頼んだよ」

「分かりました」


テールが部屋から出ていくのを確認すると、部屋の脇から黒い靄が吹き出す。


「【遮音】【施錠】」


靄が形になっていくのを確認して二つの結界を張る。


内部の音を消す結界と侵入を防ぐ結界。こういうことが出来るのが『結界魔術』の利点だよな。


靄が形となると毒々しい紫色の髪をした女……サキュが現れて現状の説明を始める。


サキュが現れた、となれば王族の改造を終えたのか。本来なら私がここに住んでいる王族の一人を捕えて悪魔に作り変えるつもりだったが、嬉しい誤算だな。


「お姉様、第九王女ミラージュの改造が終わったよ。これで計画は一歩前進する?」

「ああ。これで、少しばかりは計画は進む」


それにしても、ミラージュか。あの小娘を悪魔にするとは、中々に皮肉が効いてるな。


ミラージュ・シルバリオン。名義上は第九王女だがその名前は王女よりも騎士として名が知られている。その第九王女を悪魔にする、というのは中々に面白い。


あの小娘は個人的には一目見ただけで個人的に気に入っていた。彼女はそこら辺の凡人とは一線を画す実力と狂気を宿している。シルフィよりも私よりだから、というのもあるだろう。


「それで、他には何かないか?」

「それは……その……彼女、かなり酷い暴行を加えられていました」

「……詳しく」


サキュは目を泳がせながら私にミラージュの現状を話す。 


……なるほど。そうなると、彼女は功績を積み重ねているがそれは押し付けられたものをこなしているから、というのが大きいかもしれないな。


「とりあえず、喉を治しておけ。それと、何があっても耳を傾けさせるな。計画が変な方向に曲がってしまうから軌道修正が不可能だ」

「わかったー!」


サキュが黒い靄に変わり霧散すると指を弾いて結界を解除する。


悪魔化を進行させるのは別に良いが……タイミングだけは気にしないといけない。連中という観客がいなければこの喜劇には価値がない。

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