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メイド

「シルバさん、これらを頼みます」

「分かりました」


私はメイドから貰った洗濯かごを持ち上げてつかつかと廊下を歩いていき、何本もの長い物干し竿が設置された場所で洗濯物を干していく。


私は半年前からメイドとして『バイゴーン』にある宮殿に潜入している。『バイゴーン』は王国の中央に位置し、物流と外交の重要拠点。そのため直轄地として王族の王位継承権の低い者たちや領主たちに対する人質がこちらで過ごしている。


その世話役は常に必要ではないが、たまにメイドをこの王宮に入れている。メイドの雇用は三年までだからだ。


今回の計画は二面作戦。私が王宮で、シルフィが外部から工作する事で厄災を引き起こす。


「まあ、シルフィの方は順調そうだけど」


洗濯物を干し終えて籠を元の場所に置きにいく。


王宮は基本的に東と西に別れていてその周りに幾つもの建物がある。下級のメイドたちはその中で西の端と東の端の建物で寝起きして掃除や洗濯と言った雑用を行っている。


個人的には一つに纏めろよ、と言いたいところだが……流石に寝起きする建物が大きくなってしまうからな。


「それにしても、宮殿の内部深くに入るのは中々に難しいか」


籠を元の場所に戻すとすぐに新しい洗濯物が入った籠が来るため持っていく。


一言にメイドと言っても胸に着けている薔薇の形をしたバッジによって仕事内容や仕事場所が変わってくる。


私が着けているのは白。白はメイドの中で一番の下級で宮殿の雑用を行っている。他にも赤や青、黄とそれぞれの色で区別されている。


内部深くに入れるのは青。そのため上のメイドになる必要があるのだが……そうなると色々と面倒な事が起きてしまう。


「あ、シルバちゃんやっほー」

「……ルーナさんですか。どうしましたか?」


洗濯物を干していると金髪のメイドが籠を持ってくる。


ルーナ・スリリン。私と同じタイミングで入り、何かと一緒に行動する活発な少女だ。


計画のためにも友人関係は作らないように淡白な態度をしているのだが、こいつだけはそれでも私に構ってくる。正直に言って邪魔だ。邪魔だが……無下にも出来ないのが悩みどころだ。


「いやー何時もながら多いよね。確かこれってメイドの服ばかりでしょ?それで、これが終わったら今度は宮殿の掃除。休む暇さえないのが不便だよねー」

「さあ、どうでしょうか。私としては適度に手を抜いてますので」

「あ、ズルーイ。胸に栄養がいってると思ってたのにー!」

「ひゃん!?」


胸を鷲掴みしてきてルーナの左手の手首を掴み力業で投げる。ルーナはそのまま空中に投げ出され地面に落ちるが受け身が上手くいったのかすぐに起き上がる。


な、ななな……!


「何をしやがる!!」

「やっぱりそっちの方が良いよー!」


私が元の口調で怒るとルーナは悪戯が成功した子供のような笑顔で向け逃げていく。


ちっ……魔術を使えば簡単に殺れるのだが流石にどこで見られているか分からない状況で使うのは躊躇われる。それに、殺した後の処分が大変だ。『カード』を持ってると色々と疑われるから今はシルフィに預けているしな。


まあ、今回の計画は私は直接的な戦闘はない分色々と警戒を必要とされるからな。というか、スパイというのはよくやれるよ。殺して奪えば楽なのに。


まあ、今は奪えるだけ奪っておくか。確実に惨劇を起こすために。


「……うん?」


人の気配を感じとり振り返る。が、誰もいない。


……気のせい、ではないな。魔術で探っても良いが……まあ、止めておこう。


「やあ、シルバちゃん」

「……何か御用でしょうか」


籠を持って行ってると青い髪の優男のような風貌をした男が話かけてくる。


宮殿の内部に深く入った事がなく、あまり役人たちの顔を見ていなかったが……この男、どこかで私と知り合いか?


「いやー、ルーナちゃんから聞いた通り、かなりの美人さんだね」

「お褒めいただきありがとうございます。それでは、仕事に差し障りがありますので失礼します」


事務的な言葉で処理をすると新しい籠を持ってさっさと離れる。


ああ言った奴と関わったら面倒くさい。あの手のタイプは面白半分で首を突っ込んで計画を滅茶苦茶にするからあまり好きではない。


毒殺しても良かったが……時が来るまで宮殿内で大きな騒ぎを起こしたくないからな。


「さて……と」


洗濯物を手早く干し終えると宮殿内に入り掃除を始める。


掃除は適当に済ませておけば良いのだが……半年の間で一つ厄介な事が起きてしまった。


「あらあら、ここにいましたか」

「……何か用でしょうか、ルビア様」


赤いドレスを着た女性に話しかけられ、何時もの仏頂面を少ししかめながら答える。


私の中の悩みの種。それは主にこの女からだ。この女は掃除の時間に何かと絡んでくる。しかも、王族ということもあって無下に出来ないのが厄介だ。


ルビア・シルバリオン。このシルバリオン王国の第十王女。切れ者で主に商業面で才能と手腕を発揮している人物だ。


「何故、私のような一介のメイドに話しかけてくるのでしょうか」

「あら、圧倒的なまでの武術の才と魔術の才を持ち合わせた人を手元に置いておきたいのですよ」

「……私には才能はありませんよ」


そう言っておけば楽だからな。


それに、私はあくまで殺人のために魔術を使っているのであって魔術師ではない。


「あらあら、また尋ねますからね」

「……分かりました」


ちっ……面倒な女め。


ルビアがどこかに行ったのを確認し内心舌打ちをして掃除に取りかかる。その中でふとシルフィの事が気がかりになる。


シルフィの方は上手く行ってると良いが……あいつが作り上げた悪魔、かなり面倒だろうし。

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