消えも癒えもしない傷
帰り道
精神的にも肉体的にも
もう十分というほど
弱りきっていた
ある道を
自転車で通った
まだ全然先にいるはずの
人の後ろ姿
その後ろ姿は
見間違えるはずがなくて
けれどその後ろ姿で
8歳のあの日の出来事が一瞬で
フラッシュバックする
突き飛ばされロッカーに当たった背中
痛みで崩れ落ちた自分に
見せたこともない冷たい目で見下ろし
殴りかかろうとした
あの人が
涼が
目の前にいる
息がつまった
一瞬で異常なほどに早まった心臓が送り出す血液が
鼓動とともに
どくん、どくんと
耳の内側に強く打ち付けられる
思わず右手で胸を押さえる
その人が振り返ろうとした
吐き気と
自分のその不安と恐怖を押し殺し
思い切りペダルを踏みつける
そのあとも無心で家まで
自転車を漕いでたどり着いた
「ただいま…」
お弁当箱と水筒を机に置き
二階へ駆けあがる
扉を閉めた
その場で崩れ落ちる
冷や汗が背中を伝い
吐き気が込み上げる
いつまでも
裏切られたことの苦しみと
捨てられたことの悲しみから
抜け出せない
決して消えてはくれない記憶
それを乗り越えられない自分
それが嫌で
自分を必要だと言ってくれる人がいないことを良いことに
何度も何度も
命を投げ出そうとした自分
水を張ったバケツに
腕を突っ込んだときのように
ぶら下げた縄に首を通したときのように
首にカッターを当て
ぷつりと血が伝ったときのように
孤独と絶望という名の
暗闇に覆われる
そこには
痛み、苦しみ、悲しみしか
存在していない
嫌だとどれだけ嘆いても
結局、自分の心はそこに帰るしかなかった
それさえ受け入れたくなくて
考えること感じることを放棄し
綺麗に澄んでいる
夕焼け空に照らされながら
何も写さない濁った目
そこから流れるなんの感情も籠っていない涙が頬を伝った




