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目を閉じれば  作者: さち
第2章 動き出した時間
19/33

取り戻せるもの



寝れば現実から逃げることができる

日を追う毎に

傷ついたあの日からは遠ざかっていく

幸せだった日々からも遠ざかっていく



でもどれだけ時が経っても

この胸に残された傷は消えない

時間が解決してくれる?

そんなわけがない

記憶がなくなるわけじゃない




自分の頭は便利なのか不便なのか

人生の中のエピソード記憶は

ほとんどと言っていいほど覚えていた

正直、テストのときは役に立つ

何だっけ?と思ったら

教科書の何ページに書いてあって

あの時先生はこう言ってたなという

どうでもいいことから

答えを導き出せることが多いから


けれど、それのせいで

心に負った傷は癒えることを知らない

むしろ、どんどん深まっていく

癒えない傷口をまた

別な記憶で傷つけられていく


永遠に解決することができなくなった

人間関係のもつれが

後々、新しい人に出会ったときにも

影響していった



人生という道を

必死で歩いていた

けれど、

虐待、いじめ、裏切り

他にも様々な傷がつけられていく度

自分自身の力で立ち上がることに嫌気が差し立ち上がることさえやめてしまった

そして、それは

見て見ぬふりをされるだけではなく

踏みつけられていくのだ


誰もが無視をする中で

立ち止まって手を差し伸べてくれたのは

葉山先生、

臣史くんだった


立ち上がるために手を貸してくれた

そして、歩くために腕を引っ張ってくれた

「ある一線は超えない」

「一人でも強くなれるまで」

その条件付きで


それでも貴方は何があっても見捨てなかった

立ち止まったら、隣で待っててくれる

泣いたらその涙を拭いてくれる


失ったものも

「ゆっくり取り戻していけばいい」

そう言ってくれた



笑うことも

泣くことも

楽しい、嬉しい、辛い、苦しいって感情も


一個、一個取り戻していく度に

貴方は頭を撫でてくれて笑ってくれた


他の人は

感情がほとんどないことも

生きていくうちにちょっとずれてしまった考え方も

気味悪がっていた


作り笑いだけがどんどん得意になっていってしまって気づく人なんていなかった

臣史くん、貴方だけだよ

「無理して、笑わなくていい

それじゃ、自分の心が死んでくだけだよ」


そう言われて、ドキッとした


なんで、バレた?

誰にもバレたことないのに

どうして…


「気づくよ

あずさちゃんがどんな子か

色々話をきいて分かってきたつもり

無理して笑ってるときいつもそういう目してる」

「どんな目?」

「死にそうな目」

「え…?」

「そのうちわかるよ」

「……?」

「今はいいの」


まだ取り戻せていないものがある

そのとき思った

何が足りない?何が違う?

そこでまた悩みはじめていた


でも自分が悩んでいることも

貴方は嬉しそうだった



「なんか、嬉しいんだよな

そうやって、死ぬことじゃなくて、

生きていく上でどうしたらいいのか真剣に悩んでるの、初めてみたから」



そうか

今、確かに自分は

死ぬことじゃなくて

生きていく上でどうしたらいいか

悩んでいたのか



なんかむず痒いな

自分、生きようとしてるんだ

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