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交換屋さん  作者: 穂村
3/4

ある道を外した若者の話

解説編製作中です。

残り数話で終わります。

 もう、うんざりだった。何人の人の命を奪ってきただろうか。こんな社会に制裁を。それがはじめは私たちのモットーだった。

 そもそも一年前のあの法律。それが私たちを縛るようになったのがデモをするきっかけとなった。

「国家が私たちの著作権を持つ?何を言ってるんだ。バカなことを言うな。」

 本当におかしなことだ。なんで作品などの所有を表す権利を人間につけて、それをあろうことか国家が管理するのだ。間違っている。間違っている。

 

 連日デモ行進を行なった。

 私たちの権利を返せ。権利という名前に縛るな。私たちは物なんかじゃない。返せ、返せ。

 それが私たちのスローガンだった。当時の私はその団体の中での一つの班の長だった。

「班長今日もお疲れ様です。」

 行動を終えた後、毎回私のところに暖かいスープを持ってきてくれた女の子が1人いた。その子の名前は奈美。データによるとまだ高校生であった。

「どうしてこの団体に入ろうと思ったんだい。」

 と私は聞いたことがある。彼女の答えはこうだった。

「だって私たちは皆それぞれ自分の意思があるじゃないですか。こんな社会間違ってますもん。」

 その意見には私も賛同だった。そうだ、私たちは自由であるはずなのにどうして国家に阻害されるのだ。

 私たちの権利を返せ。権利という名前に縛るな。私たちは物なんかじゃない。返せ、返せ。

 そんなある日のデモのことだった。私たちはいつものように抗議運動を行っていた。

「権利を返せ。返せ。あれ、なんで前の方が止まっているんだ。」

「あの、すみません。先頭の方でなにか謎の集団が立ちふさがっているようで。」

「謎の集団?」

 報告を受けた私はデモ車からただちに降りて先頭の方へと向かった。

 先頭にいたのは本当に見た目からは何もわからない【謎の集団】としか呼びようがないものだった。私が着くと、先頭グループにいた奈美がやってきて、 

「なんだかリーダーを出せ。話はそれからだ、しか言わなくて。申し訳ないです。」

 と伝えてきた。

「いやいや、わかった。ちょっと待っててくれ。」

 私がその集団の前に立つと、その集団のリーダーのような男がやってきた。

「君がこの行進のリーダーか。」

「いかにもその通り。あなたたちは誰なんですか。」

「私たちは、この前国際社会で定められた人間管理法を円滑に実行するために、世界政府から派遣された国際人権軍である。私たちの役目は法律に否定的な思想を持つ反社会的な者達を取り締まることだ。」

「国際人権軍……。」

 ふざけるな。と言いたかった。なにが人権だ。お前らが私たちを縛るせいで自由がなくなってしまっているのではないか。しかし私はその言葉を発することはなかった。なかったというよりできなかった。

 目の前で仲間が、拘束されていく。

「な、なにを…。」

 反抗しようとするが言葉が続かない。やめて。助けてという声が聞こえる。しかし誰も抵抗することができない。

「放して、放してよ。」

 奈美の声が少し後ろから聞こえる。せめて、せめて彼女だけでも。

 そう振り返ったとき、奈美の胸から何かがはじけ飛んだ。


「反逆者には、制裁を。」


 そのあとの記憶はない。いや確かにそのあと私はあの団体から脱退し、裏の世界に入った。無我夢中に人を傷つけた。それが正義であるかのように。それがあの時の復讐であるかのように。


 そして私は今、公園のベンチに座っていた。疲れなどないと思っていたが、座った瞬間に自分が精神的にも、肉体的にもまいっていたことに気づく。

「いったい、俺はなんのために今を生きているのかな。」

 あの活動をしていた時の自分は、いつか自分たちの意見が届くことを心の支えとして生きていた。

 今の自分は何を糧に動いているのだろうか。

「あの時、あの瞬間をやり直せるのなら………。」


「それがお前の望みかい。」


 顔を見上げると夏に近いのに、なぜか長いコートを着ている男が立っていた。

「誰だ、お前は。」

 そういうと、その男は私の質問に答えることなく、

「おまえの望みを私はかなえられる。お前は何でも失える覚悟はできているか。」

 と尋ねてくる。


 男が言っていることは微塵もわからないし、そもそも理解をしようとすら思わなかった。たかがこんな世迷言だ。どうせなら乗ってやろう。

「あぁ、わかった。ならあの時をやり直させてくれ。」





「われわれの行動に逆らうというのか。」

「あぁ、そうだ。お前たちは間違っているもの。なにが正義だ。お前たちの掲げる正義は間違っている。」

 目の前の女が、腰から鋭い輝きをもつなにかを取り出そうとする。

 バババンという銃声が響く。鉛弾が目の前の女を貫く。

「デモ行進班長、名前は東奈美か。まだ若いというのに。暴力をふるって解決する輩が正義を語るなどなんと浅はかなことだろうか。」

 男はその女の身分証明書をそっと戻す。

 昔自分もこんなことをしていたような気がしたが、そんな思いは一瞬で消えた。


(#3 時間を戻した男の重い代償)

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