覚悟
町の人達に見つからないようにガルドの街に帰る。いつもなら堂々と正門から入るが今回は赤ちゃんがいる。空飛ぶ赤ん坊が街の中に入ったなんてことになったら大変だ。
昼頃の時間にギルドに帰ってきた。いつもなら森でまだ監視依頼を行っている時間帯だ。ギルドの中はがらんどうで、冒険者たちは依頼を達成しに行ったか森で素材を集めているのだろう。
透明人間の特権で裏口から入ってそのままギルドマスターの部屋へ向かう。赤ちゃんは抱いたままだ。森であんなに泣いていたのに抱っこしたらずっと静かなまま。そうしてギルドマスターの部屋のドアをノックする。このときのノックのリズムを少し変える。これが僕が来たという合図だ。
『入っていいぞ』
言われた通りドアを開けて入る。ギルドマスターはそこにいた。今日はゼタさんはいない。なんか目を見開いてる。視線の先はーーー赤ちゃん?
「お、お前」
ギルドマスターがぷるぷると手を震わせてこちらを指差す。
「空飛ぶ赤ん坊になっちまったのか!?」
違う。
「なんだ拾った子供か」
がっはっはっと笑うギルドマスター。誤解が解けて良かった。しかし、そのあと訝しげな声をあげる。
「しっかしなんで森の中にこの赤ん坊が捨ててあったんだかなぁ?この近くにあったっつー手紙からしてもしぶしぶ捨てたって感じだし、普通孤児院に預けるはずなんだが・・・」
『訳ありってことになるんですかね?』
「そうだな、その線が一番強いだろう。で、どうすんだ?」
『どうする、とは?』
「ああ?んなもん簡単だろ?」
ため息をついて言う。
「その赤ん坊、お前が育てるっつったってどうやって育てるつもりだ?その体のせいでその赤ん坊には見えねぇんだろ?」
そうだ。僕は見えない人間だ。唯一触ることだけで僕がここにいるとわかる。そんな僕に子育てなんか出来るのか?
『それは』
「無理なら孤児院に預けろ。訳ありでも知らぬ存ぜぬで通しゃ良い。だがーー」
ギルドマスターは一層目を鋭くして言う。
「ガキを育てるっつーのは冒険者にとって大変なことになる。何せ冒険者は死と隣り合わせだ。子供の食い扶持稼ぐために依頼受けてそのまま帰ってこずその子供がスラムでくたばってる何て話はごまんとある。そんくらいあっさりだ。それでも良いんだな?」
その話は恐ろしいと思った。親を待ち続けた子供が親の死を知ることもできずに自分も死ぬ。冒険者の子育ては、とても辛いだろう。でも、
『やります』
「ほう」
『だって、頼まれてしまったんです。《願われて》しまったんです。だから、僕は』
『この子を育てたい』
「それが、お前の本心か?」
『はい』
「そうかー」
ギルドマスターはふぅ、とため息をついて
「なら勝手にしろ。だが、責任は取れよ」
『はい!』
こうして僕は、一児の父となりました。




