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食い違い

「君たちは?」

 尋ねてきた相手に、アデルが先頭に立って答える。

「俺たち3人はパディントン探偵局の者だ。こっちの1人は、連邦特務捜査局の人間だけどな」

「ふむ」

 相手は煙草をくわえたまま、ゆっくりと馬を歩かせ、近付いて来る。

「つまり、私を逮捕しようと?」

「話が早くて助かるぜ、セオドア・スティルマン上院議員殿」

 アデルは馬を止め、腰に提げていたライフルを構える。

「そこで止まってもらっていいか?」

「承知した」

 アデルに言われた通りに、スティルマン議員は馬を止め、地面に降りる。

「何故私がここに来ると分かったのかね?」

「単純な話だ。十中八九、あんたはメキシコに行くって読んでたからな。そこへ向かうルートで待ち構えてりゃ、あんたの方からやって来る。

 それに人目に付くサンクリストやフランコビルを離れ、人っ子一人見当たらないこの荒野まで来れば、流石にあんたの警戒も緩む。そうだろ?」

「なるほど、理に適っている。見付かるべくして見付かってしまった、と言うわけか」

 スティルマン議員は煙草を捨て、両手を挙げた。

「次は? 手を頭の後ろで組んで、うつ伏せになった方がいいかね?」

「いや、そこまでしなくていい。手は縛らせてもらうが」

「痛くないように頼む。長年書類にサインばかりしていたせいか、手首が腱鞘炎気味でね」

 何の抵抗もせず、淡々と従うスティルマン議員に、アデルは疑い深く尋ねる。

「まさか、あきらめたのか? カネ持って高飛びしようってつもりだったんだろ?」

「そのつもりだったが、捕まったと言うならば仕方が無い。荒事は苦手でね」

「仕事がすぐ済んで助かるけどな、こっちは。

 さて、と。拘束したし、仕事の方はもう終わったも同然だ。そこで議員先生、あんたに聞きたいことが一つあるんだが」

「何かね?」

 アデルも馬を降り、ライフルを構えたまま、もう一つの目的について話を切り出した。

「F資金のことだ」

「えふしきん? 何だね、それは」

「あんたがヘクター・フィッシャー氏から南北戦争の勃発直前に受け継いだ、巨額の資金のことだ。

 知らないとは言わせないぜ、議員先生?」

「……」

 スティルマン議員は首をひねり、こう返す。

「そうまで大仰に見栄を切ってもらって大変申し訳無いのだが、……見当が付かない」

「う、ウソつくんじゃねえ!」

 ロバートが馬上から怒鳴るが、スティルマン議員は肩をすくめるばかりである。

「ウソではなく、本当に何のことだか分からない。

 そもそもフィッシャーと言う人物すら、私は聞いたことが無いのだが」

「え?」

 スティルマン議員の言葉に、サムが目を丸くする。

「せ、1861年に、あなたが彼から政治基盤を受け継いだと、あの、資料には……」

「うん? ……ああ、なるほど。概ね事情が分かった。

 君たちは大きな勘違いをしているようだし、その資料とやらも、修正することをお勧めする」

 スティルマン議員は大きくため息をつき、こう続けた。

「確かに私はさる人物から政治基盤を受け継ぎ、政治家となった。

 ただしそれは1861年ではなく、1871年だ。そもそも受け継いだのはフィッシャー氏からではなく、そのフィッシャー氏から受け継いだであろう人物、即ち私の伯父であるセオドア・ショーン・スティルマンからだ。

 ちなみに私の名前は、セオドア・パーシー・スティルマンだ。名前のせいで、よく伯父と間違われたよ。今もそうだがね」


 ともかくアデルたちは、スティルマン議員をフランコビルまで連れ戻し、詳しい事情を――汚職事件の方である――尋ねることにした。

「動機? 単純にカネを必要としていたからだ。

 実は大統領の座を狙っていてね、出来る限り資金が欲しかったんだ。既にN準州の件などで実績は十分に挙げていたし、後は実弾をバラ撒いて党や財界の支持を得て……、と言うつもりだったんだが、残念ながら反対勢力に嗅ぎつけられたらしい。新聞社や司法当局にリークされて、こうして逃げ回る羽目になってしまった。

 正直、ここ数日は逃げることも嫌になってきていたんだ。だから君たちに、穏便に捕まえてもらって、感謝しているくらいだ」

「そりゃどうも」

 アデルはぶっきらぼうに礼を述べつつ、もう一つの件についても再度、スティルマン議員に尋ねた。

「で、さっきの話の続きなんだが、つまりもしF資金を受け継いだとするなら、あんたじゃなく伯父さんの方なんだな?」

「恐らくそうだろう。少なくとも私は、伯父からそんな話を聞いたことは、一度も無いがね」

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