表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/16

カウボーイだった男の哀愁

 アデルたちがフランコビルに着いてから、5日後。

 いかにも神経の細そうな、蒼い顔をした中年の男が、大きなスーツケースを両手にそれぞれ1つずつ提げて、駅から現れた。

「……」

 神経質じみた仕草で辺りを確かめつつ、男は駅を離れ、そのまま南へと歩いて行く。

 1時間ほどかけ、男は「ダンカン牧場」と看板がかけられた、小さな家の前に着いた。

「ふう、ふう……、失礼、ボビー・ダンカンさんはいらっしゃるか?」

 トントンとドアをノックし、少ししてその向こうから、陽気そうな男の声が返って来た。

「ちょっと待ってくれー、すぐ開ける」

 その言葉通りドアが開き、中から赤ら顔の、やはり陽気そうに見える男が現れた。

「ん? ……おお、テディ! テディじゃねえか!」

「ん、ん……、ゴホン、ゴホン」

 テディと呼ばれた男は辺りを見回しつつ、空咳をする。

「その、……あまり、大声を出さないでくれ、ボブ」

「あ……? どうしたんだ、テディ? 前にも増して顔が真っ青だぞ」

「血色の良い君がうらやましいよ。……いや、その、……君は最近、新聞を読んだか?」

「新聞?」

 テディに尋ねられ、ボブはげらげらと笑って返した。

「おいおい、俺が文字嫌いなの、忘れちまったのか? あんなもん、暖炉の火を点けるのにしか使ったこと無えや」

「覚えている。だから君のところに来たんだ。『最近の』私の事情を、きっと君は知らないでいてくれているだろうと思って」

「あん?」

 きょとんとしているボブに、テディはもう一度辺りを見回してから、こう続けた。

「中に入っていいか? 外では話せないんだ」

「おう、むさ苦しくて上院議員殿にゃ似合わんところだが、それでもいいなら」

「助かる」

 家の中に通されるなり、テディは持っていたかばんをテーブルの上に置き、片方を開けた。

「おいおい、大げさなかばんだなぁ。一体何が入って……」

 笑いかけたボブの顔が、凍ったように固まる。

 開かれたかばんの中には300人のリンカーンが、ぎゅうぎゅう詰めになって眠っていたからだ。

「お、お、おっ、おい、テディ、な、なんだ、それっ」

「見ての通り100ドル紙幣が300枚、つまり3万ドルだ。もう一つのかばんにも、同じくらい詰め込んでいる。

 ボブ、詳しいことは一切聞かないと、約束してくれないか?」

「おっ、おう。い、いいぜ」

 ガタガタと震えつつも、ボブは首を縦に振った。

「本当に助かる。ありがとう、ボブ。

 馬を1頭買いたいんだが、いくらになる?」

「馬だって? 競馬にでも出すのか?」

「いや、私が乗るんだ」

「お前が?」

 ボブは首にかけていたバンダナで額の汗をごしごしと拭いつつ、呆れた目を向ける。

「お前が馬に乗ってたのなんて戦争前の、まだハナたれのガキだった頃の話じゃねえか。一体どうし、……あー、いや、聞かん。聞かんぞ」

「ありがとう。できれば脚が長持ちする馬がいいんだが……」

「あるぜ。値段は400ドルってところだ」

「そうか。かなりの距離を歩かせるから、食糧も用意して欲しいんだ。人と馬、両方の」

 そう頼んできたテディに、ボブは神妙な顔を返した。

「テディ。お前まさか、メキシコにでも高飛びするのか? そのカネ、ヤバいヤツなのか?」

「……」

 何も答えず、押し黙ったテディを見て、ボブは深くうなずいた。

「……いや、聞くなって話だったよな。答えなくていい。

 分かった、1週間分でいいか?」

「ああ、助かる。調達にどれくらいかかる?」

「2時間もありゃ十分だ。総額、しめて……」

 言いかけたボブに、テディはかばんの中のドル紙幣を乱雑につかみ、そのまま渡そうとした。

「2000ドルはあるだろう。これで頼む」

「お、多すぎるって! 500くらいで……」「いや」

 テディは金を無理矢理、ボブに押し付ける。

「迷惑料も込みだ。恐らくこの後、面倒臭い連中が大勢押しかけて、君に根掘り葉掘り聞いてくるだろうから」

「……」

 まだ渋るような表情を浮かべていたが、ボブはテディから金を受け取った。


 そして2時間後、確かにボブは、馬と食糧とを調達してきてくれた。

「本当にありがとう、ボブ。それじゃ、元気で」

「おう。お前も、元気でな」

「ああ。……じゃあ」

 テディはひらりと馬に乗り、そのままダンカン牧場を後にした。

「……」

 牧場からさらに南下し、周囲が見渡す限りの荒野となったところで、テディは懐から煙草を取り出した。

(……何年ぶり、いや、何十年ぶりだろうか。

 こうして何も無い、誰もいないところでただ一人、静かに煙草を吸うのは)

 ライターで火を点け、口にくわえ、ゆっくりと吸い込む。

「ふう……」

 テディは吐き出した紫煙が風に飛ばされるのをぼんやりと眺め――その向こうに、馬に乗った人影が4つ、近付いて来ていることに気付いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ