【結】
「ふふっ、こんなところに居たぁ……サイトちゃん、かくれんぼなのぉ?でもぉ、そんな奴らなんかと遊んで、シャラをひとりぼっちにするなんて酷くない?」
そう言ってにっこり笑うシャラの笑顔は、まさにヒロインという完璧な可愛らしさだ。クリスタル王子たちも、とっさに私を後ろに隠しながらも、吹き飛んだ扉のこととシャラの屈託ない笑顔に戸惑っているのが分かる。
「誰だ、君は。一体この力は……」
呟くように言う王子。カラントが盾になるかのように王子の前に立った瞬間、彼の訝しげな声が聞こえた。
「何だ?この歪んだ魔力は……?ぐっ、ぐあぁ!?」
「ガリオルド!お前、一体何をしている!!」
突然のカラントの悲鳴と、王子が大きく声を張り上げているのが聞こえた。王子の後ろから見ると、なんと騎士のガリオルドの剣がカラントの身体を貫いていたのだ。
ガリオルドは王子の方を見てにやりと笑い、カラントから引き抜いた剣で自分の首を斬りつけそのままどさりと倒れた。
「カラント!大丈夫か!」
「……ははっ!クリスタル大丈夫だ、急所は外れた…まだ生きてるよ!しかし、あいつがユーリンをやったのか、凄い闇の魔力だ。この力でガリオルドも操ったらしいな……」
血が流れる脇腹を押さえながら、カラントが立ち上がる。その目はシャラを睨みつけたままだ。
「サイトちゃん……そんな奴らと居ないでこっちにおいでよ。シャラ、寂しいよ?」
「駄目だ!この子をお前の元になど行かせない!この魔物め!」
クリスタル王子はそう叫び、私を強く抱きしめた。その瞬間、シャラのピンクの瞳が暗黒に染まった。
「やめろぉぉお!穢らわしい!!私のサイトちゃんに触るなぁぁぁ!」
「クリスタル!攻撃が来るぞ!気をつけろ!!」
カラントが叫び、王子は防護の魔法陣を張った。それはシャラが放った魔力を咄嗟に弾いたようだが、微かに王子が震えるのを感じた。顔を見るとかなり青ざめている。魔力をかなり削られたようだ。
シャラがゆっくり近寄ってくる。いつものあの可愛らしい笑顔ではない。暗黒の瞳に、異常に吊り上がった唇。
「ね、サイトちゃんを離して?そしたら、苦しまないようにしてあげるから。」
「クリスタル!俺が時間を稼ぐ!お前の光の矢をあいつに放て!」
カラントが魔力を最大限に高めているのを感じる。部屋の中が彼の光の力で満たされ、シャラの闇の魔力を少しずつ押し返しているようだ。
「ぐぅっ……サイトちゃん、サイトちゃぁん……」
「……令嬢。貴女の力も貸して貰えるかな?今触れていて分かった。貴女も光の属性を持っているはずだ。」
「分かりました。私も協力します。」
シャラはこのゲームのヒロインとはいえ、何人もの命を奪ったらしい魔物のような相手だ。もうここで倒すしかない。
「サイトチャァァァァァンンン!」
シャラが甲高い声で叫び、私たちに向かって飛びかかってきた。ギュンと長く伸びた爪で魔法陣の保護をきり裂こうとしたが、片手の爪が嫌な音を立てて、王子の魔法陣の前にカラントが発生させた魔法の障壁に食い込んだ。
シャラの爪がギリギリと嫌な音を立てているが、障壁に強く食い込んだ爪を抜くこともできず、その場に留まらされている。
「よし!捕まえた!やれ、クリスタル!」
カラントはそう叫んだ瞬間吹き飛ばされるように倒れた。シャラが反対側の手の爪を長く伸ばし、彼の喉を切り裂いたのだ。
「カラント!ぐっ…!令嬢、いくぞ!」
王子は倒れたカラントの姿を横目で捉えながら、光の魔力の矢の照準をシャラの頭部に合わせた。
「ぎゃあああぁぁぁあ!」
私たちが力を合わせて放った大きな光の矢がシャラの片目を貫いた。そしてその閃光の中に飲み込まれるように彼女の姿は消滅した。辺りをただよっていた闇の魔力も完全に消えている。
「ハァ、ハァ…やったか?」
王子は私を抱きしめたまま、周りを見回した。
そこにはこと切れたふたりの姿と、私たちだけしか居なかった。
私は王子の顔を見上げた。王子は何かの破片が当たったのか、額から血を流しており、それを手で拭っていた。
「王子、よろしければこちらをお使いください。」
私はポケットに入れていたハンカチを王子に手渡した。彼は微かに微笑んでそれを受け取った。
王子の目に額の血が少し落ちたらしい。汚してすまないと言いながら彼はそのハンカチで血を拭った。そして私の手を取り、手の甲に優しく口づけを落とした。
私はときめくより先に、不思議な気持ちに襲われていた。
本来のゲームのストーリーなら、このクリスタル王子とシャラが結ばれてハッピーエンドになるはずだったのに。
そしてあのシャラが、突然目の前から居なくなった。
彼女は強引でむちゃくちゃだったけど、私から見ると妹みたいで可愛いなと思う時もあった。そこにもなんとなく呆気ないものを感じた。
*
あれから一年以上が過ぎて、このゲームから抜け出す方法が見つからないままに学園の卒業式を迎えた。あの事件の時に一旦退学していた子たちが戻ってきたり、新入生も迎えて、楽しく穏やかな一年だった。
驚いたことに私はクリスタル王子に求婚され、それを受け入れることにした。その後の王子との親しい交流で、私もいつのまにか彼を愛してしまったし、どうやらこの世界から戻る方法も見つかりそうにない。ならもう開き直るしかないじゃない?王子オタの妹に知られたら殺されそうだけど。
すまん、妹よ。どうやら私の運命の相手はあんたの推しのクリスタル王子だった。元気にしているかな?あれから一年以上経ってるから、さすがに中学は卒業してるよね?高校には行けたのだろうか。そして、まだこのゲームをプレイしているのかしら。
そして、いよいよ結婚式当日になった。
元の世界では彼氏を作る暇も無く仕事ばかりしていて、一生着ることもないだろうと思っていた美しいウェディングドレス。
優しい王と王妃に見守られて、多くの参列する人々の笑顔の中、この世界の父である貴族とバージンロードを歩くなんて人生になるとは夢にも思わなかった。
静かに愛を誓う言葉を交わした後の、永遠の誓いのキス。
目を閉じようとしたまさにその直前、笑顔で近づいてくる王子の顔が突然奇妙に歪んだ。
「え……?何…?……嘘……」
王子の片目から見覚えのある鋭く長い爪が突き出していた。そしてそれはまるで、ゲームの画面のようなこの世界の空間を大きく引き裂いたかのようにも見えた。
妙に現実感の無い光景。これは一体何が起こってるの?
私の目の前で愛しい笑顔を見せていた王子は、私の足元に血を流して倒れていた。その美しい顔を無惨に引き裂かれた彼は、二度と微笑むことはできないだろう。
そして、つい先程まで王子が立っていたその場所には、以前のように屈託のない笑顔を浮かべたシャラが立っている。彼女は愛らしく首を傾げるようにして言った。
「サイトちゃん。誓いのキスはもうしたでしょ?」
……ああ、そうか。そういうことだったのか。
このゲームは、シャラに最初に出会った時点でもう完結していたんだ。全てが反転したこの世界で、本来のゲームの通りになるようにと、私が余計なことをしていなければ、皆は死なずに済んだのかもしれない。
そんな後悔とともに、シャラの愛らしい笑顔を見つめながら、私の意識は闇に飲み込まれてゆく。これが夢なら、早く覚めて……!!!
『この夢のように輝く世界で運命の君とともに幸せに生きるのは私だけ』
〜end〜
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「何よ、この裏モードって!『ゆめきみ』の世界観完全にぶっ壊してるじゃない!都市伝説級のレアだっていうからプレイしたけど、シャラはヤンデレでなんか気持ち悪いし、私の王子が死ぬってもう最低の最悪……あーもうこのゲームやる気なくなった!!それにしても西都ちゃん、どこ行ったんだろ?今日は仕事休みのはずなのに、紗良をひとりぼっちにするなんて酷くない?」
【完】




