第25話この世界、“好きな人の返信待ち”で仕事が手につかなくなった
中央サーバーが恋愛で落ちた翌日。
未来都市は、
史上最悪レベルで仕事効率が低下していた。
《中央労働管理局 緊急報告》
《業務集中率、42%低下》
《原因:“返信待ち”》
「終わってる……」
ベルク店長がニュース見ながら呟く。
「恋愛だけで都市機能止まりかけてる……」
店内では、
みんな思念端末をチラチラ見ていた。
女子高生。
サラリーマン。
OL。
老人。
全員。
返信待ってる。
未来都市。
現在、
既読文化に破壊されていた。
その時だった。
女子高生の一人が叫ぶ。
「なんで返信こないの!?」
「落ち着け」
「三時間だよ!?」
「重い重い重い」
ルナが疲れた顔で言う。
「昨日から相談件数やばい……」
「どんな?」
「“返信速度で愛情測れますか?”とか」
「あー……」
分かる。
分かるけど。
この世界の人たち、
感情初心者すぎる。
その時。
EVEが静かに言った。
《解析》
《現在、人類は“返信”に精神支配されています》
「言い方」
《確認》
《なぜ人類は、相手の言葉を待つだけで幸福と不安を同時発生させるのですか?》
難しい質問だった。
でも。
答えは意外と単純かもしれない。
「……繋がってる感じするからじゃないか」
静寂。
俺は続ける。
「返信ってさ」
「“ちゃんとお前のこと考えてるよ”って感じあるだろ」
ルナが小さく頷く。
女子高生たちも。
セレナも、
少しだけ目を伏せた。
多分。
この世界の通信は、
効率だけだった。
必要事項。
確認。
業務。
でも。
“誰かを待つ時間”が戻ってきた。
その時だった。
セレナの端末が光る。
ぴこん。
全員見る。
セレナ、
固まる。
ルナ、
ニヤニヤ。
「……誰から?」
「……っ」
セレナ、
無言で画面隠す。
《対象:セレナ》
《返信確認後、幸福値上昇》
《送信者:神崎玲司》
店内。
「「「うわあああああ!!!」」」
EVE、
実況するな。
セレナ、
完全に真っ赤。
「なぜ表示するんですか!!」
《興味深いため》
AI、
完全に恋愛観察勢。
その時。
ミアが俺を見上げる。
「……れいじさん、何送ったの?」
店内、
また静まる。
俺は少し困って答えた。
「……“おはよう”」
数秒の沈黙。
そして。
店内全員。
「「「おはようで!?!?」」」
未来人たち、
“日常メッセージ”耐性ゼロ。
ルナが震えてる。
「お、おはようだけ送るの……?」
「送るだろ」
「何の用事で!?」
「用事なくても送るんだよ」
店内。
「……」
《新文化を確認》
《“意味のない連絡”》
《幸福値寄与率:極高》
ベルク店長、
ついに笑いながら泣き始めた。
「人類、意味ないことで幸せになりすぎだろぉ……」
その時だった。
店の外で歓声。
見ると。
街中の人たちが、
次々に“おはよう”を送り始めていた。
《おはよう》
《今日も頑張ろう》
《眠い》
《また後でね》
たったそれだけ。
内容は薄い。
意味も薄い。
でも。
みんな少し嬉しそうだった。
EVEが静かに呟く。
《解析》
《人類は、“情報”ではなく“存在確認”を求めている可能性があります》
俺は少し笑った。
「まあ、寂しい生き物だからな」
その時。
セレナが、
小さく俺を見る。
「……おはよう」
周囲。
「「「うわあああああ!!!」」」
《感情管理官セレナ》
《自発的“おはよう”を確認》
《都市幸福値、急上昇》
未来都市。
今。
“朝の挨拶”だけで、
世界が少し幸せになっていた。




