第22話 この世界、“気まずい”空気を初めて観測した
《感情管理官セレナ》
《“嫉妬”を確認》
《危険度:極高》
都市中のモニターに、
盛大に表示された瞬間。
未来都市が止まった。
店内。
完全沈黙。
セレナは真っ赤。
ルナは口押さえて震えてる。
女子高生たちは、
「きゃあああ!!」って顔。
ベルク店長、
ついに机に突っ伏した。
「もう誰も感情隠せない……」
その時だった。
EVEが静かに言った。
《追加観測》
《空間内温度上昇》
《発話率低下》
《視線回避行動を確認》
数秒の沈黙。
そして。
《これが“気まずい”ですか?》
俺、
吹き出した。
「そうだよ」
未来都市、
ついに“気まずい空気”を観測。
セレナは完全にフリーズしていた。
「……」
「……」
俺と目合う。
逸らす。
また合う。
逸らす。
《感情同期異常》
《心拍数上昇》
《思考ノイズ増加》
モニターが実況し始めた。
やめたげろ。
セレナがついに叫ぶ。
「表示を止めなさい!!」
《拒否》
「なんで!?」
《非常に興味深いため》
EVE、
完全に面白がり始めてる。
その時。
女子高生の一人が小声で言った。
「……これ、“恋”では?」
店内。
ざわっ。
セレナ。
「違います!!」
即否定。
だが。
耳まで真っ赤。
ルナがニヤニヤしている。
「でも嫉妬したんだよね?」
「それは……」
「玲司が他の人と喋ると気になるんだ?」
「……」
《“好きな人を目で追う行動”を確認》
《恋愛進行度:上昇》
セレナ、
死にそうな顔。
感情管理官、
感情に管理され始めてる。
その時だった。
店の外から悲鳴。
「えっ!?」
「マジで!?」
「感情管理官が恋!?」
SNS……じゃない思念網が、
完全に爆発していた。
《速報》
《中央感情管理官、“嫉妬”を観測》
《恋愛感情の可能性》
《都市幸福値、急上昇》
「幸福値上がるの!?」
ベルクが叫ぶ。
EVEが冷静に答える。
《現在、“応援感情”が大規模発生しています》
「応援感情?」
《他者の幸福を期待する感情です》
つまり。
全人類、
セレナを見守り始めた。
完全にラブコメヒロイン化。
セレナ、
頭抱える。
「……最悪」
でも。
どこか、
完全には嫌そうじゃなかった。
その時だった。
ミアが小さく聞く。
「……好きな人できると、気まずくなるの?」
俺は少し笑う。
「まあなるな」
「なんで?」
「意識するから」
「意識?」
「嫌われたくないとか」
「変に思われたくないとか」
「そういうの」
ミアは難しい顔。
そして。
「……大変」
「めちゃくちゃ大変」
その時。
セレナが小さく呟く。
「……非効率すぎる」
「だろ?」
「任務中に思考が乱れます」
「だろうな」
「心拍数も制御できません」
「それが恋だ」
セレナは黙った。
そして。
ほんの少しだけ、
笑ってしまった。
その瞬間。
《感情管理官セレナ》
《“照れ笑い”を確認》
《都市幸福値、さらに上昇》
ベルク店長、
もう天井見て笑ってる。
「感情だけでGDP伸びそう……」
その時だった。
EVEが静かに言った。
《解析》
《人類は、非常に不安定です》
「そうだな」
《しかし》
少しの沈黙。
そして。
《見ていて、少し楽しいです》
静寂。
未来都市を管理するAIが。
今。
“楽しい”と言った。
その瞬間。
誰かが小さく拍手した。
また誰かが笑う。
コンビニ前。
放課後。
寄り道。
友達。
恋。
嫉妬。
気まずさ。
効率化で失われた全部が。
少しずつ、
この世界へ戻り始めていた。




