星の見えない雲の下で
あれから少し経った。魔力高循環状態はまだまだ良く分からない。それより、吸魔族化した魔物の問題が一向に良くならない。
今日も魔物を狩った。あの時のような感情は、あの時のような感覚は感じられない。
「そんなに焦ることないってステラさん言ってたろー?」
「だけど、またアイツのような者が現れたらと思うと焦らずにはいられないんだよ」
「そもそも、ステラさんからそれ聞くまで魔力なんたら状態?なんて、知らなかったんだし、一朝一夕で伸びるようなもんでも無いんだ。強くなる道に近道は無い、僕と同じくらいによく分かってるだろ?」
「…まぁ、そうだな」
「とりあえず今日は帰ろうぜ」
「そうしよう……」
─────
「もうすぐで森を抜けるな」
「あぁ、今日は天気も悪いしさっさと帰ろうぜ〜」
「そうだな」
ん?気配が──
「やぁ、少し道を聞きたいんだけど、良いかな?」
「ああ、良いです…よ…?」
コイツの…この目はっ!!!
「おっと、バレちゃったか」
ブレイも気づいたらしく、ワタシ達は大きく距離をとる。圧倒的な存在感を感じる。コイツは駄目だ。本能が、言っている。敵わない。
「キミらをどうこうしようって訳じゃあないよ?現に殺意とか感じないでしょ?」
確かに殺意やそれに類する感情は感じられない。だが、コイツは違う。自然災害と同じように、気まぐれに人を殺せる。そんな感じがする。
「まー本当は、道なんて知ってるし聞かなくても良かったんだけど、ほら、ボクって方向音痴っていうヤツだからさ。一応ね?でも、怖いなぁ。そんなに殺意を出さないでよ。キミらが何したって無駄なんだからさ、困っちゃうよ」
「な、何が……目的、だ」
必死に言葉を絞り出す。
「んー?目的っていう目的もあんまり無いんだけど、強いて言うならお腹空いたんだよね。だからそこの国、貰っちゃおうと思って」
「な……」
「あー、後ボクの自己紹介してなかったよね。ごめんごめん、ボクの名前はルイン。そこにいる、ヴァエルの父親にして、雷帝と呼ばれている吸魔族だ。よろしくね?」
コイツが、あの…。
「そうそう、ヴァエルは魔力高循環状態になれないーって悩んでるんだってね。ほら、今怖いでしょ?死にたくないでしょ?だったらさあ、できるんじゃないの、今」
魔法の放出もままならない。心のどこかで敵わないと悟ったから。ワタシに必要なのは『ちょうどいい恐怖』だったのか。ワタシが思っているほど、ワタシは強くなかった。
「…………」
「あれ、無理なの?おっかしいなぁ。あー、乗り越えられる試練じゃないと無理なのかなぁ…ボクの娘なんだから、できると思ったんだけどなぁ。母親が駄目だったかなぁ?ま、いいや。期待してたんだけど、無理なものは仕方ないよね」
そう言った直後、ワタシの目の前に現れる。
「廃棄処分、かな」
「待てよ」
「おっと」
ワタシに振りかざされた手に剣が振られる。
「おお、キミ、素質あるねぇ。ボクを怖がらないなんて」
「ヴァエル、急いでステラさんに」
「…分かった」
「行かせると思うのかい?」
「──いいや。行く必要がねぇ」
「ステラさん!」
「ステラ!」
ようやく、体が言う事をまともに聞くようになった。やっぱりワタシは、まだまだなんだな。
「で、なんでてめぇがここにいる?」
「お腹空いたんだよ、人もお腹空くでしょ?その時にふらっとお店に寄るみたいな感覚だよ」
「理解はできる。だが、その対象が私らだから駄目なんだ」
「人様は食べちゃいけないって?傲慢だねぇ」
「この世界で生きていくなら、自分の種族以外に理不尽を強要するのは当たり前なはずだろ。傲慢上等だよ。……………ヴァエル、ブレイ、逃げろ。私は多分死ぬ」
ルインはruin。ステラはstella。ブレイはbladeとbraveから。ヴァエルはvampire、jewelから。




