流れ星
「……………」
心のどこかで、ステラが死ぬことなんてないと思っていた。でも、ステラ本人が死ぬだろうと言った。あの人はそんなつまらない嘘を言う人ではないのは分かっている。
「一回ボクに負けて、せっかく生き延びられたのに、その命を粗末に扱うの?可愛い教え子にそんなに、かっこつけたかったかい?」
「そんなところだな。さっさと、逃げろよ。今のお前らじゃどうにもならねぇ」
何も言えない。何も出来ない。弱いことは、なんて不自由なんだ、なんて悔しいんだ。そう、思い知った。
ワタシとブレイはそこから国へと逃げた。ステラが生きて帰ってくる未来なんて無いはずなのに、そう願うことしか出来なかった。
─────
「行ったか」
「ボクは優しいからね。待ってあげたんだ、感謝の一つくらい寄越すべきじゃない?」
「笑えねぇ冗談だ。ヴァエルは同族、ブレイは体質の関係で美味いと感じねぇから、見逃したんだろ」
「ははっ、そうだね。美味しくない食べ物なんて、見逃しても損なんて無い。…あぁ、そういえばボクがあげた魔力の調子はどうだい?気に入ってくれてると嬉しいんだけど」
「おかげさまで最悪だ。こんなもん押し付けやがって」
「それは良かった。でも、それはそっちにも悪いところはあるんだよ?今に至るまで、ずっとボクの魔力を拒み続けている。だから体に適応しないで、不完全な半人半魔になってる。知ってるし、分かってるだろ?不完全な生物は魔力が回復しない、っていうこと」
「身に染みて感じてるよ。元の魔力量が多くて助かったな」
「良くもまぁあの子らにばれずにやれたものだ。褒めてあげようか」
「気持ちわりぃ……なぁっ!」
「おっと」
ステラは先制攻撃を仕掛ける。しかし、あっさりと避けられてしまう。
「お行儀が悪いなぁ」
「敵を前にして行儀良くしてられるかよ」
ステラはかつて、魔力高循環状態に至っていた。けれど、体内に吸魔種の魔力が混ざったことにより、感覚が変化して不可能となった。それに加え、魔力の回復も望めないため、まともな修行は出来なかった。
それでも、ヴァエルらの前では魔法を使っていた。
あいつらは、いつかこいつを倒せるまでに成長できる。そう確信している。だから、その師匠が出会った時には出来損ないだった、なんて記録残したくねえからな。せめてあいつらの記憶にある私は、偉大に見えてると良いんだが。
ステラは魔力切れなど考えずに魔法を使う。しかし、劣勢であった。
「キミがボクに負けた時よりもずっと、キミは弱くなった。悲しいよ。まぁ、あの時ですらボクにまともな一撃は食らわせられなかったけどね」
「うるせぇ」
ステラは全ての属性の魔法をそのまま放ち、それと同時に距離を詰める。
「いい加減面倒なんだ。これで、死んでくれるかな」
魔力の膨張。この生物に歯向かうのはお門違いなのかもしれない。そう思わせるその様は自然災害が意志を持ち、襲ってきているようにも見える。
臆するな。あいつのあれは、もう見たろ。雷の魔法を手に集中させそのまま放つ大技。あいつは己以外の全てを舐めている。そこしか、付け入る隙は無い。
雷が放たれる。悔しいことに、あいつは天才だ。私が進む道を予測して、止まれない時にぴったり打ってきた。前は、これを全力で受け止めたから負けた。負けたとは言え、あの時は受け止めること自体は出来た。だが、今は無理だ。
だから、受け止めない。私は止まれない。食らってやるよ。
「ぐっ…」
風魔法なんかで私の体を無理矢理逸らして致命傷を避ける。人体の構造上絶対出来ねえ体勢だな。いってえなぁ。だが、半魔なおかげである程度の損害は無視できる。礼は絶対言わねえ。
「くれてやるよ」
放たれた雷はそれでも不可避。ステラの左腕辺りを貫きながら、空間を進む。
あいつは魔法の鍛練なんざほとんどしてねぇだろうさ。ここしかねぇ。
「はぁっ!」
この大技の隙を狙って、残った力で近づいて行く。
────しかし
「見えてるよ」
「なっ」
決死の一撃、それでも届かない。
覚悟はしていた。だが、まだ足りなかったらしい。
「これで終わり……は?」
改めて、私の全てを賭けてやる。私が守りたいもの全部、守るために。
そう決意したステラの魔力は、かつてのように体を駆け巡る。
あぁ、この土壇場でようやくか。ヴァエルの手本に見せてやりたかったんだが。
その瞬間、堕ちた星は再び輝いていた。




