↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オカルティック・アンダーワールド:ベート  作者: アキラカ
2.夢男怪奇譚

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/42

第3話 波動

 見知らぬ森の中、寿々(すず)の目の前にはあの片目の男が立っていた。


『・・まさか、本当に夢に現れるなんて・・・』


 夢。と分かっているはずなのにそれでも寿々は、この森の中と目の前の男が夢なのか現実なのかを疑っていた。


 何故ならば今座る土の上も、手に触れる樹の根も目の前の男を見つめる瞳に触れる風さえも、とてもじゃないけれど夢とは思えないほどリアルな感覚なのだ。

 ただ今しがた自分は確かに自宅マンションにいたはずだし、急にこんな奇妙な場所に誘拐されたとも思えない。


 しかし寿々にはこれと似た感覚を経験していた事があった。


『もしかしたらここは、()()()()()なのか?・・・』


 一度目はアイナに消された過去を取り戻す為に。二度目は死の間際、血に宿る双子の鬼神(おにかみ)を探す為に寿々は次元の狭間を訪れている。


 だがもし目の前の男が、まるでアイナがやったそれと同じように()()()()()を使って別次元に誘う事ができる存在だったとしたら・・・。


『嫌な予感しかしない・・・』


 寿々は暗闇に(わず)かに光る長髪の白髪頭を見ながら、何かを察するように見上げた。

 今目の前にいる男が、もしかしたらアイナと同じようにあの常天(とこのたか)統合府に関わる存在だとしたら、寿々は直感的にそれを危惧した。

 そうなれば一番知りたいのは、この男が10代から20代をターゲットにして夢に現れる理由だ。

 寿々はそれを探る為に静かに、相手を刺激しないようにゆっくりと口を開いた。



「・・・俺じゃない・・って、本当は別のターゲットがいたって事か?」



 見上げた男の容姿は確かに50代後半から60代くらいの白髪の男なのだが、その視線は老いを感じる事がなく、まるで浅はかな若者のような鋭い目つきをしている。


「・・お前、何者だ?・・・わかるぞ。お前・・()()()()()じゃないな?」


 男は寿々の質問には答えず、極めて警戒するような口調で聞き返してきた。

 寿々は核心をつかれ、どう返せばよいのか分からず口をつぐんだ。


『・・どうしよう。下手に発言すれば絶対に俺の方が不利になる・・』


 しかし男は白濁した見えない方の目だけを開くと、まるでその目で寿々を視通すように光らせた。


「・・・・まったく奇妙な奴だ。お前は式神か?()()()に召喚された魂か何かか・・・どうりで勝手にここへ入って来れたわけだ」


「式神・・?」


 寿々はそんな自覚が全くなかったので、男の言っている意味がすぐには理解できなかった。

 しかし、


『・・まさか。こいつは俺の魂の経緯でも読んだのか?だから(ふひと)に呼ばれ、あの世から現世に戻された事を召喚された異形の存在だと思ったとか?だとすればいよいよまずいぞ・・今ここで一つでも弱みを握られたら向こうの思うつぼになってしまう』


「・・・・それってゲームの話か何かか?・・俺はどこにでもいるただのサラリーマンだよ。あんたが何を言っているのか全く分からないな・・」


 男は寿々の妙に冷静な言い方が気に入らなかったのか、更に警戒しながらゆっくりと座り込む寿々のまわりを歩き始めた。


『まずいな・・。ちょっとくらい怯えた演技でもしておけば良かったか?でも今のところそこまで怖さも感じないし、演技とかも出来ないし・・・。って言うか何だろう、本当にこうやって対面しているっていうのに、人としての貫禄みたいなものを全く感じない。喋り方といい、まるで10代の子供と対峙しているみたいな違和感しかない・・・』



「・・まあいい。予定が狂っちまったがその程度なら気にするに値しない。俺は()()をするだけだ・・」


 男は警戒を解かないままボソリと呟くと、右腕を軽く持ち上げながらくるりと(きびす)を返した。


「?」


 その不可解な行動に今度は寿々が警戒をすると、男はそのまま真っすぐ歩いてゆく。

 その後ろ姿を目で追っていた寿々は、再び酷い耳鳴りとともに頭がグラグラとして視界がぼやけるような感覚に襲われた。


『なんだ?・・・急に眩暈(めまい)が・・て言うか気分まで悪く・・』


 寿々はぼやける視界から男を見失わないように必死に頭を左右に振る。

 その感覚は明らかにおかしかった。何と言うか急に嫌な瘴気に触れたのではと思う程、頭痛がして心拍数が上がり動機や息切れ、そして眩暈で視界がみるみるうちに悪くなってきた。


「はぁ・・はぁ・・何、なんだよ・・くる・・し・・・」


 暗くなる視界の先で男が3本の指を立てているのが見えた。

 その指の本数はカウントダウンを示していた。


「・・・・・はぁ・・・・・うぅ・・・・」


 寿々はそれを見た直後に酷い眩暈と共にそのまま意識を失ってしまった。









「・・・す・・さ・!・・寿々(すず)さん!起きてください!」


「!!」


 寿々は身体を揺らす(ふひと)の声でようやく目が覚めた。


「あれ・・」


 気が付いて辺りを見回すとそこは史の部屋のクローゼット前だった。

 昨晩この中から物音がして中を確認したあと、寿々は片目の男に腕を引っ張られあの森の中へと引きずり込まれたのだった。


「寿々さん!?何でこんなところで気絶しているんですか?・・まさか、例の片目の男の夢を・・」


 抱きかかえる史の顔が寿々を不安そうに見つめている。

 寿々は起き上がると夢の中の不調を確認するように、触りながら自分の身体をくまなく調べた。


「・・・えっと・・・」


 寿々は動揺をしながらも、倒れた拍子に出来たと思われるこめかみの(あざ)に触れようやくハッとした。


『マズい・・・俺、まだたった半月前にこの世に戻って来れたばかりだって言うのに。片目の男の夢を見ただなんて史に言ったら絶対にまた・・・』


 寿々は咄嗟に取り繕うとしたが、どうしたってこういう場合史にごまかしが効かない事もよく理解していた。

 なので、


「・・・・・ああ。多分あの片目の男が夢に出て来た・・。確かに朱李(しゅり)さんから聞いた雰囲気にそっくりだった。・・でもそれは俺があまりにも朱李さんの話を心配し過ぎたせいかもしれない」


 史の腕の中で寿々はしっかりとした表情でそう弁明した。

 しかし史は顎を引き更に険しい顔になる。


「・・・・まさかカウントダウンをされましたか?」


 寿々はその質問に答えたくなかったが・・・。

 仕方なく自分の指を史にそのまま提示した。


「・・5日?」


 本当は3日。つまり朱李と同じ日を意味していた男の指のカウントダウンを、寿々はそこだけは必至にごまかした。

 寿々は史の胸から離れて向き直ると、史の腕をガシっと掴んだ。


「まずは今日中にオカルトラボにもう一回行って事情を話してみる。あとライターの柴田さんにも協力してもらって、この現象の謎を絶対に突きとめてみせる」


 いつになく凛々しい顔つきでそう言った寿々だったが、それもこれも史を不安にさせない為だった。

 自分がいつまでも史に守られるだけの立場では、絶対にこの先も必ず史を不安にさせてしまうのは明白だ。

 実際はどうにもならない事だらけではあったが、それでも今回夢を見たのが自分で本当に良かったとも考えていた。

 夢の中であの男が言っていた「お前はあの男に召喚された魂か何かか」あの言葉が頭の中に蘇る。


『俺がどんな存在であってもそんな事はどうでもいい。俺が無意識に史を守る為に身代わりになれたのならむしろ好都合じゃないか』

 とそう思ったからだ。



「わかりました。じゃあ俺も今日は学校休むので、一緒にラボに行きます」


 真剣な顔の史を見て寿々は、急ににっこりと笑って見せた。


「?」


 その笑顔に史は意味も分からず眉間に皺を寄せる。


「まあ、まだ焦るには早いだろ?何て言ってった俺にはまだ5日あるんだからさ!まずは朱李さんの方が先だ。彼女に俺の見た夢の内容を確認してもらいながらもう一度内容を詳しく調べてみるよ。それとあの心霊写真も柴田さんと一緒にもう一度検証する。だから史は今日は普通に学校に行って夕方までに解決しなかったらまた外で合流しよう。それでいいな?」


 寿々は精一杯虚勢を張りながら、いつも以上に史に余裕そうな態度で答えた。


「・・・・でも」


 史はやはり気が気じゃないようだったが、寿々は史にその顔をされるのが本当に弱かった。

 寿々は史の顔を両手でムニっと挟み込むとちょっとだけ困ったように笑い、そのまま史にキスをした。

 半分はごまかすため。半分は自分の恐怖を紛らわすために。


 時間はもうすぐ朝の6時半になろうとしている。

 二人共そろそろ朝の支度をしなくてはならない。


 史は唇を離してもまだ少しだけ不満が残っているような表情ではあったが、それでもなかなか寿々の方からキスをしてもらえる機会がなかったせいか、複雑ながらもそれなりに嬉しそうに顔を赤らめていた。


「・・・・わかりました。じゃあ授業が終わったらすぐに合流しますから。それまで危険な場所に勝手に行ったりしないでくださいね」


 そう言うと力一杯寿々を抱きしめた。











 5月8日

 午後1時



 寿々は昼休憩を使ってそのまま新宿のオカルトラボへと足を運んだ。

 今日はまだ昼間という事もあり、教育担当をしていている酒井も一緒に連れて来た。

 本当ならば、内容的には色々と内密にしたい事も沢山あるのだが、酒井の大学での専門が物理工学という事もありオカルトラボでの話でもしかしたら力になるのでは、という思惑もあったからだ。


 酒井は電車を降りて寿々の後ろを緊張しながら歌舞伎町へと向かって歩き、


三枝(さえぐさ)さん・・。本当に私なんかが打ち合わせに参加しても(よろ)しいんでしょうか・・?」

 と自信がなさそうに話かけてきた。


「何で?だって酒井さん大学の専攻は物理だったんでしょ?だったらオカルトラボとは絶対に話が合うって!俺は完全に文系だからさ、酒井さんがいてくれた方が色々と助かるよ」


 寿々は不安そうな酒井を横目に、(むし)ろ頼もしいと言わんばかりに笑顔で応えた。


「そ・・そうですかね・・。今回の心霊写真に関してはあまり自信はないですけれど」


「でも酒井さんは俺と違って心霊やオカルトには抵抗無い方だったよね?確か」


「抵抗はないんです!大好き・・なくらい。ただ・・」


「ただ?」


「その夢・・所長の妹さんも三枝さんも見ているんですよね?」


「うん」


「って事は・・よもや私もって事にはなりませんか?」


 酒井にそう言われて確かにそれもそうだなと今更ながら気が付いた。

 酒井はまだ大学を卒業したばかり、新卒の22歳だ。

 まだ片目の男が夢に現れる明確な要因は不明だとしても、一応10代後半から20代前半という範囲には当てはまってしまう。


「ごめん・・俺理数系はそういう事を簡単に信じないだろうって勝手な先入観があった。そりゃそうだよね、もし自分もってなったら怖いよね・・・」


 寿々は花園神社前の横断歩道で立ち止まり、流石にしまったと思い頭を掻いた。


『・・ちょっと無神経過ぎたな。いくら酒井さんが心霊好きだったしても、自分に何かが及ぶ可能性があったとしたらそりゃあ怖いよな・・・』


 そう考えると寿々は腕を組んで悩んでしまった。


「どうする?ここまで連れて来ておいてなんだけど、今から編集部へ戻る?」


 困ったように聞く寿々に酒井は眼鏡の下で目をぎゅっとして悩んだが、


「・・・いえ、行きま・・す。確かに不安はありますが、せっかくここまで来ましたし。何よりも仕事なので!」


 とキリっとつぶらな目を開き覚悟を決めたようだった。


『偉いなぁ~・・・。半年前の俺だったら本気で泣き喚いていたかもしれないっていうのに』


「うん。って言うかその前に絶対にこの心霊写真の謎を検証、解明をしてやろう!」


 と、まるで自身を鼓舞(こぶ)させるように寿々は酒井にそう決意表明をした。





 オカルトラボへ着いた二人はラボ内の職員達に会釈をしながら、坂口に案内され所長室へと入った。


「失礼します」


 寿々と酒井が中へ入ると、そこには所長の東海林(しょうじ)藍李(あいり)、そして妹の朱李(しゅり)、それからライターの柴田もすでに待機していた。


「皆さんお揃いでしたね。遅くなりましてすみません」


 寿々がそう言うと、所長の藍李がにこやかに笑って寿々と酒井を応接ソファへと招き入れてくれた。


「いやいや、柴田君も今来たところだしちょうど良かったよ」


「どうも三枝さん、昨日は急にお呼びたてしてすみませんでした」


 柴田も座っていた腰を上げて寿々へと軽く頭を下げる。


「そんな気にしないでください。それより今日はお時間大丈夫でしたか?」


「はい、このあと夕方から用事がありますがそれまででしたら」


 そんなやり取りをしていると、座っていた朱李が少しだけ不機嫌そうに全員を見上げ、


「じゃあ皆さんお忙しいようですし、早速はじめませんか?」


 と声を掛けた。

 その様子を見た寿々は、


『朱李さん、昨日よりナーバスになっているみたいだけど・・・大丈夫かな』

 と心配になりながら腰を下した。


 寿々は昨日あった事と朱李から聞いた夢の話を簡単にまとめた資料を全員に配った。


「とりあえず、皆さんにも簡単にお話したとおり、昨晩俺も朱李さんが見た夢に近しい内容のものを見ました」


 寿々は資料の中に、昨日見た夢の中で黒猫を追いかけて助けた部分を前半とし、その後現れた片目の男の特徴やあの森の雰囲気。そして最後意識を失うところまでを詳細に書き記した。

 一部、天使の羽で転落から身を守った事や、男に史の〖式神〗と呼ばれた事などは割愛した。



「ふむ・・・・。どうだい朱李。三枝君の内容は結構詳細に書かれているけれど。この雰囲気と朱李が見た夢と何か違いや違和感はあるかい?」


 向かいの藍李が左隣で真剣に何度も読み返している朱李に問いかける。


「・・・・違い、と言うか。そもそも三枝さんはあの男と話が出来たんですか?」


 朱李は内容を読み返しながら信じられないといった表情で寿々の顔を見た。


「え・・はい。朱李さんは話してはいないんですか?」


「僕が見たあいつはずっと不気味に笑っていただけで、会話は全然していない。と言うか、僕は自宅リビングのカーテンから引きずり込まれてあの森へと入った直後に持っていた自分の包丁を奪われ、そのまま腹を刺されたので会話など全く出来なかったんだ・・・その後アイツは指を5本立てて僕はそのまま意識を失った」


 そう言いながら、刺された時の感覚が蘇ったのか朱李は自分の左わき腹を押さえた。


「朱李大丈夫か?」


 姉の藍李が心配そうに顔を覗き込む。


「・・・勿論だ。元より痛みなど全くない。だけど刺された何とも言えないあの感覚だけは今でも鮮明に思い出せる」


 その話を聞いていた柴田は少しだけ違う角度の質問をしてきた。


「三枝さん。実際この心霊写真の検証のテーマって何になりますか?この男は本当に幽霊だと思いますか?もし幽霊だったとしたら、今世間を騒がせいている『令和のThis Man』が何故この東京タワーの写真に写り込んだのでしょう?この50代の夫婦には実害とかはないんですよね?」


「そうですね。午前中に連絡を取っていくつか質問をさせて頂いたのですが、お二人共特に健康なども変わりなく元気との事でした。それと再度確認したのですが、やはりこの写真を撮った時、背後に人はいなかったそうです。ちょうどこの写真の男が写っているすぐ脇、お二人の後ろ辺りに少しだけトランクケースが見えると思いますが、写真を自撮り棒を使って撮った後すぐに二人はこのトランクを持つ為に後ろを振り返っているので、この茂みに人は絶対にいなかったと証言できるそうです」


 柴田はその話を聞きながら東京タワーの写真を見て、まるで探偵のように顎に手を当てながら険しい顔をした。


「うーん。この場所って明らかに芝公園ですよね・・・東京タワーがこの位置に見えるし。だとすると芝公園に直接行って確認してみましょうか?僕はただのライターなので、検証をするって言っても所長達のように科学的な視点からの検証はできません。でも現場に行って聞き込みをするのは得意なので、僕はその方向からこの片目の男を探ってみようと思います」


 柴田はそう言って寿々に向かって笑顔で応えた。


「ありがとうございます柴田さん。できれば俺も一緒に探りに行きたいですが、予定としてどうですか?お話した通り、朱李さんも俺も期限を言い渡されています。正直信じたくはない事ですが、でも何かあってからでは困るので」


「一応この後の用事がお台場の方なんですよ。だからこのあと、ちょろっとだけ現場を見に行こうと思います。何か分かればいいのですが、聞き込みをするとしたら明日明後日のどちらかになりますね」


「わかりました。助かります」


 寿々はそう言って柴田に頭を下げた。


「柴田君、本当にすまないね。私からもお願いするよ」


 と隣の藍李も柴田に頭を下げる。


「いえいえ。心霊写真の真相も当然ですが、『令和のThis Man』現象について解明させられるチャンスがあるなんて、正直ライター冥利につきます。勿論、妹さんと三枝さんの事を考えればそんな悠長な事言ってはいけないんでしょうけれど。・・でも今僕めちゃくちゃワクワクしています」


 柴田は嘘のつけない性分なようで、正直な気持ちを述べた。


 問題は朱李の方だ。

 朱李はクラスメイトがあの片目の男の夢を見た後に亡くなっている。

 そう考えれば心理的ダメージはこの中で一番あるのは無理もなかった。

 しかし、


「・・・はは。僕も実を言うと怒りと探求心が()()ぜになってどうしようもないんですよ」


 そう言って朱李は不敵な笑みを浮かべた。


「?」


 寿々は目の前のピンク髪のイケメン少女の表情にドキっとした。

 と言うより、びっくりしたと言うのが正しいかもしれない。

 同級生の死よりも自分の死への恐怖に怯えていたのかと思っていたが、どうやらそれも勘違いだったようだ。


「僕は前からこの写真に隠されたデータの解析をずっとしてきたんです。先月編集部からあずかった後、データの解析途中でうちのサーバーが飛ばされかけたのはもう話したかと思いますが、連休中はその現象が何故起きたのかをずっと調べていました」


 朱李は目の前に広げられた寿々の資料に映る写真を見つめた。


「今のところ解明しているのは、この写真のデータにはランダムなノイズが追加され難読化されていて、更にそのノイズが膨大なデータを圧縮した暗号になっていたってことです」


「難読・・化?」


 寿々が朱李に聞くと、


「通常難読化は不正利用を防止したり、セキュリティ強化のためにソースコードに入れられる事が大概なんだけど。今回この写真に入っていた暗号化されたデータは正直ただの嫌がらせとしか思えない。そのくらい尋常じゃない量のノイズがぶち込まれていました。しかもその書き方が上手く隠されているので通常のアプリケーションで開く時には別段影響はない。ただ解析しようとするとその圧縮されたノイズがトラップのように開き疎外するって仕組みです」


 寿々は朱李の話を真剣に聞いてはいたが、正直全部を理解する事は出来なかった。


「それで、問題はここからなんだけど。僕はその膨大なノイズをひたすら調査しまくった。隠されたコードのほとんどが無意味なものだったにも関わらず、ある一定の部分だけ妙に読み取れるようになっていた。それが()()だ」


「数式・・ですか。でもだとすれば藍李さんや朱李さんならばそれが何の数式かは予想がつくのでは?」


 寿々が素直にそう聞くと、藍李と朱李は顔を見合わせた。


「コードの量が多すぎて散らばった数式を全て集めるにはまだ至ってないんだよ。ただ、おそらくこれは何某かの周波数の実験データなんじゃないのかってことだけは予測ができた」


 そう言いながら藍李は持っていたタブレットで寄せ集められた数式が書かれたデータを寿々と酒井に提示してきた。

 当然寿々にはちんぷんかんぷんだ。


「周波数・・ですか?」


 そう言いながらもしかしたらと思ってその数式を隣にいる酒井に見せた。

「酒井さん、何か分かりそう?」


 寿々がそう言って酒井にタブレットを渡すものだから、初対面の藍李と朱李はちょっとだけ困惑した様子で寿々を見た。


「ああ、酒井さんは俺が教育担当している新入社員なんですが。去年まで物理工学の勉強をしていたので何か力になってもらえるかと思って今日は一緒に来てもらったんです」


「物理工学。それは頼もしい!」


 藍李もそれを聞いて笑顔になった。

 一方タブレット見ていた酒井はジッと見つめながら、数式を拡大したり、そうかと思えば引いてみたりと一見すると不思議な見方をしている。


「・・・・ん~~」


「どう?何か分かりそう?」


 寿々が聞くと酒井は首を傾げながら少しだけ考え、


「どこかで・・・う~ん。どこかで見た事があるような気もします。というか、私の専門とは違うのではっきりとは言えないのですが・・・・でも確かに・・どこかで・・」


 そう言いながら酒井はタブレットを机に上に置くと腕を組んで必死に何かを思い出そうとして考え込んでしまった。


「それにしても皆さん凄いですね!ここにいる女性全員が理系秀才ばかりとは」


 柴田は出されたコーヒーを啜りながら、その内容については全く理解不能なのでお手上げとばかりに外野から応援するように羨望の目で見つめた。


「でも周波数って例えばどんな種類が考えられるんですか?」


 寿々が藍李に聞くと、


「そうだなぁ、まず光。それから音、そして電波が考えられるかな」


「光・・音・・・・。音?音って例えば聞く対象の年齢によって顕著に違いって出たりしますか?」


 寿々は何か気になったのか藍李と朱李二人ともに聞いた。


「光も音も受け取る側に年齢によって差異は出るとは思うが・・・それがどうしたんだい?」


 藍李がそう答えると寿々も少しだけ考えてからゆっくりと話し出した。


「元々今回の一件で被害に遭っていると思われるのは10代から20代の若年層ばかりです。それを踏まえてお渡しした資料にも書きましたが、昨日の夢の最後。俺、急に気分が悪くなってそのまま夢の中で意識を失ってしまったんですよね・・。それでその時辺りは暗闇だったので光が原因とは思えないんですが。もし()ならば・・ありえるのかとも」


「音・・?」


 朱李がそう言って何かに気づきそうになったその時、


「あ!分かりました!!」


 隣で抜け落ちた曖昧な数式を見ていた酒井が大声で叫んだ。


「これ!()()()()()()()()()()()()()()の現象実験の数式です!」


 そう言ってタブレットに映る数式を見せて全員に応えた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。