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守り布と不吉な予感

 


 王都から東へ向かう街道。


 ここ数か月、この街道を東のフェルガント公爵領の街道警備を担当する者たちは、慌ただしく詰所と街道を行き来していた。


 この街道は北へ抜ける大街道と繋がっており、新年の祝賀会を終えた多くの貴族家の馬車が通る道である。

 例年この時期は往来が激しく、警備兵たちも気を張り詰めていた。


 さらに近頃、この辺りでは行方不明者が相次いでいる。

 真相は不明だが、領主にとっては由々しき事態であった。


「 結局、なにが原因で人が消えてるんだ? 」


「 さあな。 野盗なら痕跡が残るはずだが、荷物などはすべて残ったまま争った跡もなく人だけ消えるらしい 」


「 化け物でも出たってのか……? 」


「 馬鹿言うな。 だが、夜に起こるのが余計に気味が悪いぜ。 気を抜けくなよ 」


 通行を止めれば街道筋の町や宿場に暮らす者の生活が立ち行かなくなる。 祝いの季節に貴族が落とす金は彼らにとって稼ぎ時であり、片田舎からの出稼ぎも多い。


 街道は人々の生活の糧であり、同時に貴族にとってもなくてはならない動脈だった。


 そのため、宿場町や詰所には警備兵が増員され、夜間の見回りも二人以上で行動するよう徹底されていた。


 木製の首飾りを持つ者の申告も義務付けられており、公爵の危機感の高さを物語っている。


 * * *


 その日、ヴァンドル辺境伯家の一行は、東へと伸びる街道を自領への帰還の為進んでいた。


「 今日はこの先のにあるシアロッサの宿に泊まる 」


 護衛隊長の声が街道に響く。


 その言葉に、従者や若い護衛たちにほっとした色が浮かんだ。

 新年祝賀会からの帰路。式典の折には馬のみならず荷馬車も伴うため、長旅には必ず大き目な宿場町の宿を使う。


「 気を抜くな。 賊というのは、疲れたときや安堵したときを狙うものだ 」


 経験ある護衛が若い従者に言い聞かせると 「 はい 」 と素直な返事が返ってきた。


 ここまで何事もなく進んできたことも有り、皆の胸中には「もうすぐ宿だ」と言う安堵感が芽生えていた。

 警戒を怠らぬよう努めてはいたが、それでも足取りは幾分かるくなっている。


 そのときだった


 クレイアスの懐に忍ばせていた赤い守り布(みはるのぱんつ) がじんわりと熱を帯びはじめた。


「 なんだ……? 」


 馬上で胸元に手を添えると、布は確かに反応している。 反応は徐々に強くなり街道沿いの兵士の詰所のあたりで特に強い熱を感じた。

 兵士の詰め所を過ぎ、町に近づくにつれ反応は緩やかになった。


 クレイアスは眉をひそめ、胸元に手を当てながら、周囲を見回した。


 かつてミハルの身に危機が迫ったときも、この布は確かに反応した。しかし、町に入った途端、熱はすっと和らぐ。


「 閣下? 」


 傍らのノアリスが怪訝そうに目を向ける。


「 守り布が反応した。……街道で、だ 」


「 外に……ということですか? 」


「 町の中では弱まった。 町で弱まったのは神殿の守りと町の結界が影響しているのかもしれん。 だが確かに外に“何か”がある 」


 クレイアスは声をひそめて言う。


「 ……着いたらすぐに神殿に行く、何かあれば動けるようにしておいてくれ 」


「 ……御意 」


 町の空気は華やかさと物々しさが入り混じっていた。 土産物屋や露店は賑わっているが、その一方で巡回兵の姿はいつも以上に多い。


 賑わいの中に混ざる緊迫した空気。

 それは何かの前触れであるかのような不快感を感じるものであった。


 * * *


「 不審な魔力の情報がもたらされた。そのため、不要な外出は禁止とする。 やむを得ず宿を出る場合は必ず申告せよ 」


 宿に付いてすぐに、ノアリスより護衛たちへ外出禁止が言い渡され、それぞれに割り当てられた部屋へ入っていった。


 護衛の従者である三人の青年達

 ーーガレン、ルー、フィンは、自分たちの上司の持ち物整理を行っていた。


「 ついてねぇな 」


 ルーがぼやくように言う。


「 仕方ないさ。不審な魔力ってことは、魔獣が出る可能性もあるってことだろ 」


 冷静に返すのはフィンだった。


「 でもよ、せっかくの旅路だぜ? ちょっとくらい外に出たいだろ 」


 ガレンが口をとがらせて不満を漏らす。


「 でも王都の祝賀祭の屋台、すごかったよな。 あれで満喫したんだから、帰りは我慢だな! ここでちゃんと行動すれば、また王都に連れて行ってもらえるかもしれないし 」


 ルーが明るく励ますように言った。


「 ……だな! そういや神殿の “ 愛し子様 ” の絵、見たか? すごかったな! 本当にあんな神聖な感じの人がいるんだな! 」


 ガレンが思い出したように声を上げる。


「当然見たさ。ちょっと寄進もして、お守りももらったんだ」


 フィンが胸を張るように言う。


「 えっ、俺が行ったときには品切れだったぞ? お前、運いいな! 」


 ガレンが驚いてフィンの懐から覗く。そこには小さなお守りがあった。


「 お前が屋台巡りしてたから、その間に品切れになったんだろ 」


 フィンはからかうように言った。


「 本物を見た人が、 “ 光ってた ” って言ってたけど……あれ、本当かな? 」


 ルーが興味津々で口を挟む。


「 本当に光ってたら、夜とか寝られなさそうだよな。眩しくてさ 」


 フィンが冗談めかして言い、三人は 「 だよなぁ 」 と笑い合いながら、荷物の整理を終えていった。


 * * *


 クレイアスは宿場町に付くとすぐに、街の神殿から魔導通信を介して王都のアルセルド大神官に報告を行った。


「 導きの布ーーあの守り布が街道沿いで反応しました。兵の詰所付近です。しかし、町に入ると、熱はすぐに落ち着きました 」


 『ふ む……つまり脅威は町の外、街道沿いにあると見てよいな 』


「 はい。ただ、いつもと違う、不安定な反応で……言葉にするのは難しいのですが、落ち着かぬのです 」


 『 行方不明が新月前後に集中していたはずだ。……あと二日で新月だな 』


「 はい 」

 クレイアスは頷く。


「 もし、フェルガント公爵の言う行方不明事件と関係が有れば、今夜にも何か動きがあるかもしれません 」


 『 ならば、フェルガント公爵とも連絡を取り、備えを怠るな。 守り布の反応は女神の御心の現れと見てよいだろう。

 シアロッサへは聖騎士を派遣する。 今から動けるものをすぐに動かす。

 馬を乗り継げば明日にはそちらへ着くだろう。

 そなたは啓示が有った以上、そこでなすべき事があるはずだ 』


 この町には、町を管理する代官としてノルティス・マルディン男爵が常駐している。


 通信を終えたクレイアスは、フェルガント公爵にも町の代官屋敷にある魔道具を通して報を伝えた。

 守り布(みはるのぱんつ)の事は公にしていない為 「 加護が反応した 」 という形で話すことにした。


 『 なるほど……貴殿の “ 加護 ” が街道で危機に対しての兆しを示したと 』

 フェルガント公爵の張りのある声が通信機から聞こえてきた。


「 はい。 詳しくは申し上げられませんが。 危うさを感じ、念のためお伝えしました」


 『 なるほど。 貴殿の加護は公表されておらぬが、何らかの危機を感知できるものと言う事か……

 確かに、このところの失踪と符合する。加護の詳細を詮索する気はない。 だが知らせてもらえたこと、感謝する。 こちらでも巡回を増やし、町の神殿とも連携させよう 』


「 こちらも備えを怠らぬようにいたします。 何がありましたらまたお互いに連絡をいたしましょう。」


 通信が途切れ、魔道具の光が静かに消えた。


 公爵との通信を終えると、クレイアスは胸元の布にそっと触れた。

 先ほど感じていた熱は、今はすっかり落ち着いている。


  ーー なすべきこと ーー


 先ほどアルセルド大神官が口にした言葉。

 そして、女神から賜った言葉。


 《 今はただ、なすべきことをなさい 》


 ここで自分が果たすべき役目がある。

 ……そう言う事なのだろうか。


「 ……ミハル 」

 思わずその名を呟いた。


 窓の外へ目を向ける。

 月のない空は、深い闇に覆われ、宿場町は静かな夜の底へと沈んだように見える。


 新月まであと二日。


「 私のなすべきこととは、いったい…… 」

 クレイアスは小さく呟いた。


 ーー その時、街道の闇の中では

 何かがゆっくりとうごめき始めていた ーー


 しかし、まだ誰もその存在に気づいていなかった。



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