↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/87

ドリアーナの告白 1

 美麗で荘厳な石造りの建物の奥まった離れにある館。


 一見すれば普通の館にも見えるが、すべての扉には二重の鍵がかかり、中から解錠することはできない。

 窓のある部屋には鉄格子が嵌められ、地下室を含む全ての部屋にはまた別の鍵が付いている。

 さらに、いくつかの 「 仕掛け 」 は口伝によって代々の最高責任者にのみ伝えられてきた。


 その最上階に囚われていたのは、王妃ドリアーナ。


 大神官と記録官、そして王ヴァリネスが護衛を伴ってやって来た。

 実行犯であるルシヴァンは地下に拘束され、計画を立てたドリアーナはここにいる。牢の中にはドリアーナひとり。


 他の罪人よりは幾分か良いが、元の身分からすれば質素な衣をまとっている。

 彼女はこちらに気づくと、王に向かって深くカテーシーをした。


「 陛下、お久しゅうございます 」


「 ……私に話があると聞いたが 」


「 はい 」


「 何故あのようなことを! 自分が何をしたか、分かっているのか! 」


 王の怒声に、ドリアーナは静かに答えた。


「 もちろんでございます。陛下がその昔、わたくしに為されたことと、同じことをしたまでにございます。一晩、いいえ数時間で有ろうとも、たとえ何もなくとも男女が二人きりで同じ部屋にいれば

 ――世間は実際に関係を持ったと思いましょう。 女が未婚であれば、もはや他の殿方には嫁げませぬ 」


 アルセルドが低く問う。


「 どういうことだ……? 」


「 そのままでございます。 陛下はお忘れで? 」


「 あ、あれは……! 」


 王・ヴァリネスは言葉を詰まらせながら語り出す。


 ーーあの日


 国境を接する三国が一堂に会した、希少な機会だった。

 ヴァルディア王国の王子とカシェリオス姫ーーーヴァリネスの妹であるノエルティアの婚姻。

 その祝賀の席。


 本来ならば、王妃クローシェリアが同席する予定であった。

 しかし産後の不調で同行できず、ヴァリネスは宰相補佐(現在の宰相)と大臣を伴い宴席に臨んでいた。


 その宴席の夜ーーヴァルディアの王が 「 一夜を慰める女を用意した 」 と言った。

 深夜、護衛を付けず案内された部屋に行くと、そこには意識のないドリアーナが寝かされていた。

 外から鍵がかけられ出られず、一夜をそのまま過ごすしかなかった。


 翌朝、宰相補佐の手配で探され、駆けつけた使者一行が壊れた鍵をこじ開けると、部屋の中から出てきたのは部屋着姿の王とドリアーナであった。


「 誓って何もしていない! 意識の無い女に何かするほど落ちぶれてはおらぬ! 」


 しかし事実はどうであれ、周囲の目には 「 両者が一夜を共にした 」 と映った。


 アルセルドが頭痛に耐えるように額を押さえる。


「 王よ…… 同盟国とはいえ他国で自室以外に護衛もなく赴くなど……

 何の為に近衛を連れて行ったのだ…… 罠と気づかなんだか 」


「 翌朝、ヴァルディア王自ら 『 部屋を間違えた 』 と謝罪を受け…… 」


「 続けよ 」

 ヴァリネスは苦渋をにじませながら続ける。


「 エルラント王からは 『 未婚の娘が男の寝室に侍ったとなれば、もはや他の男には嫁げぬ 』 と言われました。そして…… 」


 ここで、彼の声はさらに重くなる。


「 ヴァルディアの王からは、こう持ち掛けられたのです。

『 カシェリオス王家の姫ノエルティアは我が息子の妃となった。

 我が国とカシェリオスはすでに婚姻の絆で結ばれておる。

 これに加え、エルラントとも縁戚を結べば三国の結びつきはより強固となろう。

 今回の件も、不幸な事故として扱うより、むしろ慶事として婚姻で結べば、国々にとって大いなる益となる 』 ……と 」


 王は苦い表情を浮かべた。


「 その時点で、エルラント王も、ヴァルディア王の言葉に同調し、私は、己が立場を守るため、ドリアーナを迎えるほかなく…… 」


「 嘘です! 」

 泣き声が牢に響く。ドリアーナが叫んでいた。


「 わたくしは、ヴァリネス様がわたくしを望んだのだと父から聞かされました! わたくしには思う方がいると申し上げたのに……

 茶を飲んだ後から記憶がなく…… 気づいたらヴァリネス様と同じ部屋にいて……! 

 扉を開けたのはヴァルディアの者、そしてカシェリオスの方々までも! もはや弁解はできぬとーー父にそう言われたのです! 」


 彼女は嗚咽混じりに続けた。


「 わたくしの飲み物に薬を混ぜたのはヴァリネス様の指示だと、当時ヴァルディア王国側の侍女から聞かされました……! 父も、『 大国には逆らえぬ 』と…… 『 妾腹の娘とはいえ王族であるから、王妃として迎えられるはず 』 と……! 

 それに…… 陛下も! 

 父の前で、わたくしを望むと仰せになったではありませんか! 」


「 そ、それは……! 」


 ヴァリネスは必死に言葉をつなぐ。


「 もし、ドリアーナが自ら私の部屋に来たとなれば、王女であるドリアーナの名誉が傷つく。だから私から望んだとした方が、今後のためになる、そう言われ……! 」


「 今後のためになると? 言ったのは誰だ……? 」


 アルセルドが地を這うような声で問う。


「 ……あの時、宰相補佐ーー 今の宰相が…… 」


( 馬鹿め。 まんまと嵌められおって…… )

 アルセルドの心中に、深い憤りがこみあげる。


 宰相は当時から間違いなくヴァルディアと、恐らくはエルラントとも通じていよう。


( 賢妃であったクローシェリアが傍にいれば決して起こり得ぬことであった。彼女の不調を狙われたとしか思えぬ。

 賢妃がおらずとも、周りが止めて居れば……

 いや、普通に考えれば罠だと気づはず。 何故、こやつは気づかんのだ…… )


 アルセルドは深くため息を吐き、甥である王を一瞥した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。