ドリアーナの告白 1
美麗で荘厳な石造りの建物の奥まった離れにある館。
一見すれば普通の館にも見えるが、すべての扉には二重の鍵がかかり、中から解錠することはできない。
窓のある部屋には鉄格子が嵌められ、地下室を含む全ての部屋にはまた別の鍵が付いている。
さらに、いくつかの 「 仕掛け 」 は口伝によって代々の最高責任者にのみ伝えられてきた。
その最上階に囚われていたのは、王妃ドリアーナ。
大神官と記録官、そして王ヴァリネスが護衛を伴ってやって来た。
実行犯であるルシヴァンは地下に拘束され、計画を立てたドリアーナはここにいる。牢の中にはドリアーナひとり。
他の罪人よりは幾分か良いが、元の身分からすれば質素な衣をまとっている。
彼女はこちらに気づくと、王に向かって深くカテーシーをした。
「 陛下、お久しゅうございます 」
「 ……私に話があると聞いたが 」
「 はい 」
「 何故あのようなことを! 自分が何をしたか、分かっているのか! 」
王の怒声に、ドリアーナは静かに答えた。
「 もちろんでございます。陛下がその昔、わたくしに為されたことと、同じことをしたまでにございます。一晩、いいえ数時間で有ろうとも、たとえ何もなくとも男女が二人きりで同じ部屋にいれば
――世間は実際に関係を持ったと思いましょう。 女が未婚であれば、もはや他の殿方には嫁げませぬ 」
アルセルドが低く問う。
「 どういうことだ……? 」
「 そのままでございます。 陛下はお忘れで? 」
「 あ、あれは……! 」
王・ヴァリネスは言葉を詰まらせながら語り出す。
ーーあの日
国境を接する三国が一堂に会した、希少な機会だった。
ヴァルディア王国の王子とカシェリオス姫ーーーヴァリネスの妹であるノエルティアの婚姻。
その祝賀の席。
本来ならば、王妃クローシェリアが同席する予定であった。
しかし産後の不調で同行できず、ヴァリネスは宰相補佐(現在の宰相)と大臣を伴い宴席に臨んでいた。
その宴席の夜ーーヴァルディアの王が 「 一夜を慰める女を用意した 」 と言った。
深夜、護衛を付けず案内された部屋に行くと、そこには意識のないドリアーナが寝かされていた。
外から鍵がかけられ出られず、一夜をそのまま過ごすしかなかった。
翌朝、宰相補佐の手配で探され、駆けつけた使者一行が壊れた鍵をこじ開けると、部屋の中から出てきたのは部屋着姿の王とドリアーナであった。
「 誓って何もしていない! 意識の無い女に何かするほど落ちぶれてはおらぬ! 」
しかし事実はどうであれ、周囲の目には 「 両者が一夜を共にした 」 と映った。
アルセルドが頭痛に耐えるように額を押さえる。
「 王よ…… 同盟国とはいえ他国で自室以外に護衛もなく赴くなど……
何の為に近衛を連れて行ったのだ…… 罠と気づかなんだか 」
「 翌朝、ヴァルディア王自ら 『 部屋を間違えた 』 と謝罪を受け…… 」
「 続けよ 」
ヴァリネスは苦渋をにじませながら続ける。
「 エルラント王からは 『 未婚の娘が男の寝室に侍ったとなれば、もはや他の男には嫁げぬ 』 と言われました。そして…… 」
ここで、彼の声はさらに重くなる。
「 ヴァルディアの王からは、こう持ち掛けられたのです。
『 カシェリオス王家の姫ノエルティアは我が息子の妃となった。
我が国とカシェリオスはすでに婚姻の絆で結ばれておる。
これに加え、エルラントとも縁戚を結べば三国の結びつきはより強固となろう。
今回の件も、不幸な事故として扱うより、むしろ慶事として婚姻で結べば、国々にとって大いなる益となる 』 ……と 」
王は苦い表情を浮かべた。
「 その時点で、エルラント王も、ヴァルディア王の言葉に同調し、私は、己が立場を守るため、ドリアーナを迎えるほかなく…… 」
「 嘘です! 」
泣き声が牢に響く。ドリアーナが叫んでいた。
「 わたくしは、ヴァリネス様がわたくしを望んだのだと父から聞かされました! わたくしには思う方がいると申し上げたのに……
茶を飲んだ後から記憶がなく…… 気づいたらヴァリネス様と同じ部屋にいて……!
扉を開けたのはヴァルディアの者、そしてカシェリオスの方々までも! もはや弁解はできぬとーー父にそう言われたのです! 」
彼女は嗚咽混じりに続けた。
「 わたくしの飲み物に薬を混ぜたのはヴァリネス様の指示だと、当時ヴァルディア王国側の侍女から聞かされました……! 父も、『 大国には逆らえぬ 』と…… 『 妾腹の娘とはいえ王族であるから、王妃として迎えられるはず 』 と……!
それに…… 陛下も!
父の前で、わたくしを望むと仰せになったではありませんか! 」
「 そ、それは……! 」
ヴァリネスは必死に言葉をつなぐ。
「 もし、ドリアーナが自ら私の部屋に来たとなれば、王女であるドリアーナの名誉が傷つく。だから私から望んだとした方が、今後のためになる、そう言われ……! 」
「 今後のためになると? 言ったのは誰だ……? 」
アルセルドが地を這うような声で問う。
「 ……あの時、宰相補佐ーー 今の宰相が…… 」
( 馬鹿め。 まんまと嵌められおって…… )
アルセルドの心中に、深い憤りがこみあげる。
宰相は当時から間違いなくヴァルディアと、恐らくはエルラントとも通じていよう。
( 賢妃であったクローシェリアが傍にいれば決して起こり得ぬことであった。彼女の不調を狙われたとしか思えぬ。
賢妃がおらずとも、周りが止めて居れば……
いや、普通に考えれば罠だと気づはず。 何故、こやつは気づかんのだ…… )
アルセルドは深くため息を吐き、甥である王を一瞥した。




