カーテンとお守りと異音の夜
◇◇美春◇◇
我が家のカーテンが旅立ってから1か月たった。
洗濯機から旅立っていったあのレースのカーテンの代わりも、ちゃんと買ってかけなおした。
あれ以来、洗濯機は何の問題も無く動いている。
「……普通に洗ってるよね……いや、これが当たり前なんだけど」
美春は静かに動く洗濯機を睨みつけながら呟いた。
閣下だの、捕らえろだの、追うなだの、馬に乗るイケメンだの、喋るイケメンだの、あれはいったい何だったのか……
「そろそろ、他の部屋のカーテンも洗おうかなぁ……」
美春はつぶやいた。
おばあちゃんがいた頃なら、季節ごとに必ずカーテンを洗ってくれた。
でも今は、誰もやってくれない。美春も洗ってなかった。
と言う事は他の部屋のカーテンは、ずっと洗ってないって事になる。
「うーん……無くなってから買うのメンドクサイし……、予備のカーテンをいくつか買ってから洗った方が良いかなぁ」
そう考えてしまう時点で、何かおかしい。 けれど仕方ないのだ。
だって実際に レースのカーテンは ”消えた” のだから。
それにしても、いろいろあったけど、結局この洗濯機を、今も普通に使っている。
中古とはいえ、ちゃんと保証もついていた。不具合なら交換してもらえる保証内容だった。
「でも、あれって、不具合っていえるのかな……?」
思い出してしまう。
あの時、洗濯機の扉を開けたら、イケメンが美春のパンツを手にもっていた。
「……無理無理無理無理っ!!絶対に無理!」
頭を抱えてリビングのソファに突っ伏した。
『洗濯機の扉を開けたら、外国人風のイケメンが私のパンツを持ってるんです!』
そんな内容で電気屋に連絡できるわけが無い。
「ほんとヤバイって、そんな事を言う女なんてただのヤバイ女だって……!」
電気屋の営業さんの困った顔まで想像できてしまう。自分でも笑ってしまいそうな妄言だ。
結局、「……あれは気のせい、気のせい、気のせいのはず!!」と言う事で終わらせるしかなかった。
その後も服を洗ったり、ベットのシーツを洗ったりしても何も起きなかった。
「……あれは一体、何だったの?」
謎は深まるばかりであった。
頭の中で整理してみる。
共通点はーー
洗濯中だった
必ずあのイケメンがいる
この二点。
「……まさか、彼氏いない歴=年齢の女の妄想、もしくは夢……?」
そう疑ってはみたけど、どうにもあの映像はリアルすぎた。 特にイケメンの顔は今でもばっちり覚えてる。
「……まぁ、悩んでも仕方ないよね」
気分を切り替えるため、美春は家中のカーテンを全て取り外してた。
そして一気に洗濯。
今度は全部のカーテンが無事に洗いあがった。無くなっている物は一枚も無い。
他の洗濯物も全部洗ってすっきりした。
「よし、無事完了!」
今日の洗濯にも香りを付けるビーズを使ってた。
衣類もカーテンも、ふんわりと甘い花の香がして、気分が上がる。
「めっちゃいい匂い~♪」
乾いた洗濯物を畳み、良い気分のまま、お風呂に入り、ゆっくりする事にした。
花の香りに包まれたパジャマに着替えて、ワインを注ぐ。
小さいけど、ちょっと良い値段がするチーズを一切れ齧って味わう。
「今日はもう、寝ちゃおうかな~」
そう言って、早い時間からリビングでダラダラとくつろいでいた、その時だった。
ーーーガタッーーー
「……えっ?」
洗濯機の方から音がした。
でも、今は洗濯機を回していない。
洗濯機を回していないのに、異音がするのは初めてだった。
美春は思わず立ち上がり、おばあちゃんの形見のお守りを握りしめた。
「……大丈夫、だって何も入れてないし。今洗濯機まわしてないし…!」
そう自分に言い聞かせながら、ゆっくりと洗濯機に近づいていく。
洗濯機の蓋を見てはっとした。
「洗濯機の中……全く見えない……」
(……間違いない、前の時も同じだった)
少し迷った後、息をのんで、美春はそっと洗濯機の蓋に手をかけた。




