第98ターン オレっち達の格ゲー・ノーサイド
格ゲーマーの始祖、日乃本 尊。その息子・純が格闘ゲームのプロを目指して歩み出す。涙と感動の格ゲー青春小説第二弾!
「それなりに筋が通っている也。これはザ・ナックル2での対戦になるやも。。」
実行委員の高月が説く大会レギュレーションの妥当性と運営サイドの無謬性。チーム夢原の智将とも呼ばれる比留多 恭介が低く唸る。
「しかしながら二回戦に進めない公算も高い。何せボクが年齢オーバーしてたわけだから。。」
と、引続き申し訳なさそうな留年界のプリンス源五先輩。フケ顔が更にくすんでいく。
そうこうしているうちに大会本部と交渉を重ねてきたチーム夢原のコーチ陣、すなわちむ〜どとmakoが戻ってくる。その表情はさえない。
「みんなちょっと集まって。」
む〜どが若き5人の格ゲーマー達を集めて交渉結果を伝える。makoが悔しそうに言葉を絞り出す。
「先に結果から言うわ。あかんかった、ウチらは失格になった。」
当然ながら5人の若者達に落胆の色が広がる。とりわけ源五先輩は心から申し訳ないという深刻な顔つきに変わった。これまでに一度も見せたことのない表情だ。
「まあ、仕方ねえ。ドンマイだ。」
純が吹っ切れたように声を上げると、これは不可抗力也とかパイセンだけの不注意ではないノダと他のメンバーからも声が上がる。罵詈マシーン花崎 蘭子も珍しく黙りやむなしとの意を示す。
「やはり年齢規定は大会参加申請時ではなく、プレイ当日、つまり今日時点の年齢と解釈されたんだ。」
む〜どの補足に対して特に質問もないチーム夢原の面々。一方で歓喜の声が上がったのは格ゲー常任理事国サイドだ。が、その一瞬の歓喜の輪はすぐに解け、安堵の声に変わり、そして再び静寂に戻った。
「お前たち、なんと危うい橋を渡ったことか。。これはビジネス的にはいわゆるヒヤリ・ハット事例だぞ!」
内心安堵したのか、常任理事国マネージャー、ビッグバットがそのプレイヤー達を細々と訓示する。
いいか、これは感情的な叱責ではない、君達へのコーチングだ、とかなんとかパワハラの保険を取りながらも己の感情をティーンエイジャー達にぶつけてしまう。そこに、、
「オイッ、みんな強かったぜ!こんなオッサンの言うこと聞かなくてもいい、おめえらがベストを尽くしたことはオレっち達が知ってるからよお!」
なんと純が車椅子を走らして、うなだれてビッグの説教を聞くアン達対戦相手のところに駆け寄る。
「そうさ、アタイも随分と苦戦したノダ〜次こそはお客が喜ぶ対戦をするノダ!」
と、下町の太陽クー子も常任理事国の面々に近づきながら一流の言い回しで対戦相手を讃える。
健闘を祈ると右手を差し出す比留多 恭介、会釈する源五先輩。そして、せいぜい頑張ってくださいな、と言い方はキツいが柔らかい表情で手を振る蘭子。これにアンやアレサそしてアングリーバット達が笑顔で、あるいははにかんで応える。
純の一言から10人の若者達の間にノーサイドの、ゲーマー達の温かい輪が広がった。
「わ、ワタシの想像力では、ワタシは純クンのことが少し好、、、」
つづく
人物紹介
・日乃本 純 ひのもと じゅん
本作の主人公。高校二年生。事故で障がいを負い格ゲーでリハビリする中、自分が格ゲーのサラブレッドと知りプロを目指すことに。空手家リョウの遣い手。一人称はオレっち。
・クー子 くーこ
純の親友。児童クラブ時代からの付き合い。ハイカラな東京言葉を使うが、実は関西出身。本作では他ゲームからのゲストキャラ、舞妓を使う。
・花崎 蘭子 はなさき らんこ
高慢ちきな美少女JK。純の元相棒、花崎 誇の妹。前作では純らに敵対していた。口の悪さは病のレベル。
・源五先輩 げんご せんぱい
純のクラスメートの留年生で3年目の高校二年生を満喫中。どうやら女性に目がないようだ。プレイキャラは新世代の主役、ローク。
・比留多 恭介 ひるた きょうすけ
元蘭子の親衛隊長。ニヒリストを気取り文学をこよなく愛する格ゲーマー。一人称は小生。変な髪型の米兵、ゲイルの遣い手。
・日乃本 尊 ひのもと たける
純とその姉の音々の父。格ゲー黎明期の知る人ぞ知る英雄。
・ヨウヨウ ようよう
医療法人花崎会の新事務長。丸眼鏡の美人。格闘ゲーム、ザ・ナックルのプレイ経験のある、あざといアラサー。
・花崎 誇 はなさき ほこる
格ゲーにおける純の元相棒。あだ名はオタク族。只今、医科大学を目指して受験勉強中。アメリカンな空手家、ゲンの遣い手。
・デコ、ミッチ
クー子の友達で純のクラスメート。




