13 二番目の宿泊地 (3)
結局、案内役として村長の息子の代わりに紹介されたのは、若い女性だった。どうやら村長の息子の奥さんらしい。
この奥さんの出身は、隣の村。先日、夫と一緒に里帰りしたそうだ。その帰り道の途中で、魔獣に襲われてしまった。夫は妻を逃がし、自分は囮となって魔獣ハンターたちが援護にくるまで引き回し続けていたと言う。ハンターたちの到着が間一髪で間に合わずに、馬が力尽き、重傷を負ってしまったというわけだった。
いかにも勇敢で責任感のある人っぽいから、奥さんに案内役をさせたくなかったのかもしれない。でもライナスたちがいれば、奥さんにはかすり傷ひとつ負わせることはない。だから、安心して家で休んでいてほしい。
そう話したら、奥さんはいかにもおかしそうに笑い声を上げた。
「ああ、あの人が行きたがったのは、そんな理由じゃありません」
「そうなんですか?」
「ええ。勇者さまの狩りに同行できるなんて、もう二度とない機会だからですよ」
思いもよらない理由に、思わず絶句する。
奥さんは「まるで子どもみたいですよねえ」と言って、またころころと笑った。つられて私も笑ってしまう。ライナスの狩りと言っても、兵士も魔獣ハンターも一緒で、ライナスが特別なことをするわけではないのに。「勇者」という称号に、何か夢でも見ちゃってるんだろうか。
この奥さんは、私よりいくつか年上で、明るくはきはきした人だった。
夫に瀕死の重傷を負わせた魔獣の討伐だなんて、きっと恐ろしいだろうに、そんなそぶりを見せることもない。馬に乗れる人だったので、そういう意味でも案内役としてはありがたかった。
現地に案内する前に、言葉で十分に状況説明をしてくれたのも、とても助かった。
おかげで討伐は、短時間でさくさく終わった。
今回の討伐も、隊員総出だ。
研究者チームと国外チームは希望者を募ったところ、前回と同じく全員が手を上げたのだ。今回はもう、何も言わずにそれで編成した。
討伐が短時間だったのは、単純に人数が多かったおかげでもある。
別れ際に、奥さんには一応、食事の注意点を伝えておいた。と言っても「これさえ食べておけばよくなる」なんて便利な食べ物があるわけではないから、いろいろまんべんなく栄養をとって、しっかり休んでもらうしかない。
奥さんは「押さえつけてでも、あと二、三日はおとなしくさせておきます」と笑っていたから、たぶん大丈夫だろう。
連携がこなれてきたこともあり、討伐は本当に早かった。
出発してから村に戻るまで、一時間ちょっとしかかからなかったほどだ。ほとんどが移動時間で、討伐は一瞬で終わる。
夕食は、壮行会のときと変わらないくらいににぎやかだった。今回は全員が同じ場所に泊まるから、食事も一緒だ。食堂ホールが、半分貸し切りみたいになっていた。宿だけでなく、食堂としても営業しているから、残り半分は一般客。
私たちはなるべく相席で席を詰め、奥のほうに固まっていた。
四人掛けと六人掛けのテーブルを二つずつ占拠し、四つのテーブルに分かれて座る。私とライナスは、もちろん同じテーブル。六人掛けのこのテーブルには、他に国外チームの魔獣ハンターたちが集まった。ジムさんは、研究者たちと一緒のテーブルにいる。
食前酒が運ばれてきて、まずは乾杯して「お疲れさまでした」とお互いにねぎらい合う。
おつまみに出てきたナッツが、おいしい。ただのナッツではなく、香辛料が利かせてあって、匂いからしてもう食欲をそそる。そして匂いを裏切ることなく、ピリッとスパイシーな味だ。つい手が止まらなくなってしまう。これでは食事が始まる前に、お腹がいっぱいになってしまいそう。
王都を出発してまだ二日目だけど、道中でたびたび魔獣を狩り、互いに声をかけ合うことが多かったおかげで、全員の顔と名前が一致するようになった。気安く声をかけ合ううちには、お互いうちとけてくるわけで。
最初は「勇者どの」と呼ばれていたライナスは、今は「隊長」と呼ばれている。気がついたらそのうち、愛称で呼ばれるようになっているのかもしれない。
お酒が入ってほろ酔いとなった魔獣ハンターのひとりが、ライナスに人懐こい笑顔で質問をした。
「隊長って、歳はいくつなの?」
「二十一」
「若っ! え、じゃあ、奥さんは?」
「私は十九です」
「うっそ、まさかの十代だった! 若っ!」
ただ歳を答えただけなのに、どうしたことか全員がどよめいて大騒ぎになった。十代って言っても、もうじき二十歳だし、そこまで驚くような歳だろうか。
「あれ? でも、間違って封印されてた隊長を、祝福された結婚指輪を使って奥さんが助けたって聞いたんだけど」
「そのとおりです」
「いつ結婚したの?」
「結婚式をしたのは二か月前ですけど、神殿で誓いを交わしたのは遠征に出る前ですね」
私の答えを聞いて、魔獣ハンターたちは「それって二年以上前じゃないっけ?」と顔を見合わせている。だから私は「二年半くらい前ですよ」と教えてあげた。すると、再び魔獣ハンターたちはどよめいた。
「ということは、どっちも十代じゃん」
「いいなあ。ちくしょう、うらやましいぞおお!」
「隊長、うまいことやったなあ」
ライナスは両脇から「この、この」と小突き回されている。でも彼は、こういう気安い距離感にはあまり慣れていない。どう反応したらよいのかわからない様子で、困った顔をしているのがおかしかった。
少しだけ様子見をしていたけど、ライナスがかわいそうになって助け舟を出す。
「でも、遠征の前は忙しくて、本当にただ神殿で誓いを交わしただけなんです。どうしても出立前に、指輪がほしかったから」
「そのおかげで隊長を助けに行けたんだろ? いやあ、愛だねえ」
「隊長め、めちゃくちゃ愛されてるじゃねーか」
あれ、おかしいな。
なぜかライナスは、さらに両脇から小突き回される羽目に陥っていた。ライ、ごめん。




