12 二番目の宿泊地 (2)
二番目の村には、まだ日の高いうちに到着した。
この村はそれなりの規模の宿場町で、もちろん宿屋が存在する。一番大きな宿屋に、全員分の予約がしてあった。国外チームの面々は、ギルドの場所を宿屋の主人に尋ねている。きっとヒュー博士と同じように、それぞれ国に連絡をするのだろう。
私とライナスは宿に荷物を預けてから、村長にあいさつに行くというジムさんに付いて行った。
「ようこそいらっしゃいました。勇者どのは、お久しぶりです」
私たちがあいさつすると、村長はにこやかに歓迎してくれた。
ジムさんが前の村でと同じように、「前回の遠征時での不始末について……」と切り出すと、村長は笑って首を横に振った。
「すでに国から、謝罪とともに十分な補償金をいただいておりますから、これ以上はどうぞお気遣いなく」
ジムさんがなおも話を聞き出そうとするのに対して、村長は困ったように言葉をにごす。誠意を示したいというジムさんの気持ちもわかるけど、村長にとってはすでに過去の話のように見える。
私は横から口をはさんだ。
「ジムさん、終わった話より、今まさに困っているかもしれないことの話をしませんか」
ジムさんは、ハッと我に返ったように目をまたたく。「そうだね」とうなずいてから、話題を変えた。
「昨日立ち寄った村では、大型魔獣の被害を受けて、上級回復ポーション不足で困っているという話を聞きました。こちらの村では、そういった困りごとはありませんか?」
この質問に、村長は目に見えて表情を曇らせた。
「ああ、まさにその件で困っております」
状況を聞いてみれば、最初に泊まった村とほとんど同じだった。むしろ村の規模が大きい分、被害も大きい。
「必要な回復ポーションの数は、わかりますか?」
「ポーション不足でけがが治せていないのは、わしが把握している限りでは、八名おります」
思っていたより、だいぶ多い。せいぜい五名くらいだろうと思って、五個しか持参していなかった。とりあえず、持参した分をすべて村長に渡し、足りない分を宿に取りに行くことにする。村長には、念のため八個で足りるのか、確認をお願いした。
村長宅にジムさんを残し、ライナスと二人でポーションを取りに宿へ向かいながら、ライナスに向かって不安をこぼした。
「日に日に状況が悪化してる気がするんですけど……」
「うん。俺もそんな気がする」
けが人の数も増えているし、出没する大型魔獣の種類も増えている。この村の人が遭遇したのは、クマ型の魔獣の他に、イノシシ型の魔獣もいたそうだ。イノシシとだけ聞くと、クマのほうが怖いかと思ってしまいがちだけれども、実際には勝るとも劣らない凶悪さだ。
何しろイノシシに似ているのは、姿かたちだけ。大きさはクマと変わらないどころか、イノシシ型の魔獣のほうが大きいくらいかもしれない。走る速度もクマと遜色ないし、凶暴さはクマより上じゃないかと思う。
こんな魔獣が街道近くに出没するものだから、ポーションが足りなくなっても、おいそれとは遠出ができなかったそうだ。うかつに村を離れると、被害者が増えるだけだから。
それにしても、もともとクマ型もイノシシ型も、平野部に出没する魔獣じゃなかったはずなのに。いったいどうしてしまったんだろう。
村長宅に戻り、余裕を見て追加で五個の上級回復ポーションを渡した。村長は、拝むようにしてポーションを受け取る。予備が二個では心もとなく感じるかもしれないから、伯父さまから薬師ギルドに通達を出してもらっていることを伝えておいた。
私たちが席を外している間に、ジムさんは魔獣の被害状況について、詳しく村長から聞き出していた。村までの道中で駆除した魔獣の他にも、大型の魔獣がまだ何体か村の周辺で目撃されていると言う。
それを聞き終わると、ライナスは音をたてて拳を反対の手のひらに打ち付けた。
「よし。じゃあ夕食前に、ささっと片づけてきましょうか」
「そうだね。宿屋にいるメンバーに連絡してくるよ」
ライナスの提案にジムさんは即座に乗り、村長に軽くあいさつして出て行った。
恐縮しきりの村長を遮って、ライナスは頼み事をする。
「できれば、魔獣のいる場所に案内してくれる人がいるとありがたいんですが」
「おりますとも。少しお待ちください」
村長は席を立ち、青年をひとり伴って戻って来た。
「うちの息子です。譲っていただいたポーションのおかげで、このとおりです」
「本当にありがとうございました。案内しかできませんが、お役に立てれば光栄です」
ちょっと待って。「譲っていただいたポーションのおかげ」って、さっき渡したポーションで治ったばかりってことだよね? さっきの今で、なんでもう魔獣狩りに同行しようとしてるの? まずはちゃんと食事して、しっかり休んでほしい。ポーションは傷を治すだけであって、万能じゃないんだけど!
私が目を据わらせたことに気づいたのか、ライナスがおずおずと声をかけてきた。
「ほら、後遺症もないし、顔色もそんなには悪くないし……」
「ねえ、ライ。それ、本気で言ってる?」
「ごめん。俺もちょっと、貧血やばそうだなと思った」
「でしょ?」
村長たちの肩を持とうとしたライナスは、私の剣幕にひるんだのか、あっさりと手のひらを返した。
魔獣討伐の手助けをしたいという、その心意気は買う。でも、いくら何でも瀕死の重傷からポーションを使ってすぐに動き回ろうとするのは、どうかと思う。唇の色だって薄いし、どう見ても血が足りてないじゃないの。
前の村の人たちだって無茶だったけど、それでも少なくともひと晩はちゃんと休んでいる。
私がそう説明して、案内には他の人をお願いしたいと伝えると、ジムさんが苦笑して口をはさんだ。
「彼女はこう見えて、薬師の元締めなんだよ。だから、言うことを聞いておいて」
「元締めだなんて、まるで裏社会の首領みたいな呼び方しないでくださいよ……」
「ギルドマスターの後継者なんだから、元締めで間違ってないでしょ」
ジムさんのふざけた取りなしの言葉に脱力しつつも、おかげで村長の息子が同行を諦めてくれたのには感謝した。なぜかとても残念そうな顔をしていたけれども、まだ病み上がりの病人も同然の体調なのだから、きちんと養生してほしい。




