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セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する  作者: にしのムラサキ
【分岐】山ノ内瑛
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☆悪役令嬢は手を繋ぐ

「ま、松影ルナちゃんを殺したのはあなたね?」


 思ってもいなかったその名前に、私はピシリと固まる。ーー松影ルナ?


「る、ルナちゃんと学校が同じだった、って子から、聞きましたっ。あなたは、ルナちゃんとトラブルになってたって。ルナちゃんは、あなたを許さないって、何度も言ってたって」


 私は目を見開く。


「調べたところによりますとっ、ルナちゃんが家からいなくなったのは夜8時前後っ。あなたはそれくらいの時間にルナちゃんを呼び出して、海へ行き、そして殺したんだわ! そして久保とかいう人も殺して、罪をなすりつけた! そうに違いない、んですっ」


 自信満々、というかむしろ自慢げ、と言ってもいいかもしれないその表情。ふん、と得意げに鼻息をついて、石宮さんは手を腰に当てた。


「さあ、設楽華、懺悔なさい! 悔い改めるのですっ」


 私は言葉が出ない。心の中にいろんな感情が渦巻く。


(松影ルナ)


 あの苛烈で、綺麗で、怖くて、悲しい女の子ーー。

 そんな私を見て、アキラくんは頭を撫でてくれた。


「めんどいのに絡まれてんなぁ、華」

「ほえ!? め、めんどい、とは何ですっ!?」


 石宮さんは心外そうに言う。


「あー、えっと、アンタ」

「石宮ですっ」

「そうか、石宮さんな」


 アキラくんは私の手を握ってから言う。ぎゅう。私はそれだけで安心する。


「なぁに山ノ内くん」

「てかマジ、なんで俺の名前知ってんねん。っつうのはさておいてやな、華が夜にその、松影ルナか、そいつ呼び出すんはムリや」

「なんで?」


 きょとん、と可愛らしく首を傾げる瑠璃。自分が間違っている、なんて露ほども考えたことのない、そんな顔。


「華は日が落ちたら外に出られへんねや」

「え?」


 ぱちり、と石宮さんは目を見開いた。


「せやから無理やで」


 淡々と、いっそ冷たく言うアキラくんに、石宮さんは「ふんふん」と頷いた。


「……ふうん、な、なるほどねっ」

「なにがなるほどやねん」


 アキラくんは眉間にシワを寄せる。


「そ、そういうアリバイ工作ね、設楽華っ!」


 またもや、ピシリと私に人差し指を突きつける石宮さん。


「アリバイぃ?」

「そう、そういう設定にしておけば、自分が呼び出したと思われないと考えたに違いないわ!」


 うん、きっとそうよ! と自分で何度もうなずく石宮さんに、アキラくんはひとつ大きなため息をついて、それから口を開いた。


「もう、俺、アンタのその推理か? マジどうでもええねんけど……まぁ教えといたるわ。その日、そいつが殺された日な、華は8時過ぎまで俺といたわ。せやから8時に電話は無理や」


 それから私に笑いかける。


「なぁ、華。俺ちょうどそん時、華のおでこにちゅーしてたやんな」


 なぜだか自慢げに言われる。


「え、と、よ、よく覚えてるねっ!?」


 私はどぎまぎとおでこを押さえながら、アキラくんを見る。顔、絶対赤い。


(ていうか、手っ!)


 嬉しいけれど、でも、でも……あー、それでも嬉しい。手を繋いでる!


「あんなゴーカな玄関、初めてやったから……って、そんなんはええねん。アリバイ工作もクソもないねん、そもそものアリバイがあんねん」

「……え?」

「もう行ってもらえへん? 華と過ごすきっちょーな時間潰されたくないねんけど」


 アキラくんはしっし、と手で追い払う仕草をした。


「あんま俺を怒らせんといてや」


 更に一歩、アキラくんは前に出たのでその表情は見えない。

 でも、石宮さんが少し怯えた表情をしたので、もしかしたら怖い顔をしているのかも。


「俺な、ねーちゃんらに女子には優しくせぇ言われてんねん。言いつけに背きたくないねん、早よどっか行け」

「ふえ、で、でも」

「どっか行け言うてんねん」


 アキラくんの声が低くなる。

 びくり、と石宮さんは肩をゆらして「あ、諦めませんからっ」と言い残し、走っていった。


「アキラくん」

「華」


 アキラくんは振り向いて、私からぱっと手を離す。


「ごめん」

「あ、ううん」


 ひんやり、とした空気が手を撫でていく。

 アキラくんの手があったかかった分、すごく冷たく感じた。


「あー、あのな。華のこと、ヒト殺し扱いなんかされて、つい、俺」


 キレてもうた、と小さく言う。


「ううん、ありがと、庇ってくれて」

「ん」


 当たり前やんけ、とアキラくんはにかっと笑った。


「せやけど何なんや、あいつ」

「……うちのクラスの転校生」

「は!? 同じクラス!?」

「……うん」


 私は少し気が重くなりながら答えた。


「同じクラス」

「激ヤバやん! なんかされたらすぐ言うんやで、華」

「ん、そうする」


 私は微笑んでアキラくんを見上げるけど、アキラくんは不安そうに眉をしかめたまま、私を見つめるのだった。

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