エンディング?
目覚めると、自分の部屋のベッドにパジャマ姿で横たわっていた。
カーテンを開けてみると、外はまだ暗かった。窓ガラスは、触らずとも近くにいるだけでひんやりと冷え切っているのが伝わってくる。
時間を確認しようとして、時計の近くまで行かないとよく見えないことに気がついた。
6時ちょっと前。
鏡を見る。18年付き合ってきた姿が映っている。
髪をかきあげる。
そこには期待したものがあった。
高三の12月。
日付は記憶と数日のずれがあったが、特に問題はなかった。
あの、一瞬だけこちらに戻ってきたのは、向こうの世界に行った日の次の日あたりだろうか。
学校へ着き教室に入るやいなや、一彦に絡まれた。
「あれ? なんか武藤、いつもよりさっぱりしてね? 髪とか」
「いや、まあ出来る限りのことはしようかと」
身なりをちょっと整えてみたのだ。そのうち時間をみて美容院にも行きたい。眼鏡も、もう少しいいやつに買い換えたいな。
かなりの出費になりそうだけど、バイトしてる場合でもないしどうしようか。ゲームを売る? それはありえない!
「も……もしかして、なんかこう脱オタ的な?」
「しないよ! ゲームは俺の命だ! そういえば一彦は最近ゲームやってる?」
「さすがに封印しているよ」
「まあそうだよな」
「でも最近俺、なんかゲームの中でモブやってる夢見たんだよ。アホだろ? どれだけゲームに飢えてるのかって」
それを聞いてニヤリとする。
しかしこいつはその”夢”の中で、「とくラブ」のことは細かく覚えていたのに、俺のことを忘れていた男だぞ……。
「いたたた! な、なんだよ武藤!?」
なんか急にむかついてきて、一彦の頭を拳でぐりぐりしてやった。
そこへ、「彼女」が登校してきた。
そのひときわ目立つ美人は、にこやかにクラスメイトたちと朝の挨拶を交わしている。
俺は登校途中にスマホで調べて、”羽原美鳥”のブログを見つけた。
そこには物語ともポエムともつかない乙女チックでファンタジーなラブストーリーが綴られていて、読んでいるこちらの方が恥ずかしかった。でも、あのクールビューティーにこんな面があるなんて、ちょっと可愛いなあとも思った。
「コンノさん、おはよう」
声を掛けてみる。
「おはよう」
彼女はちょっと驚いた顔をして返してきた。「こんな人、クラスにいたっけ?」そんな心の声が聞こえてきそうだった。
『羽原美鳥』は、一度もこの世界に帰ってきていないようだった。この世界のコンノリコには、ゲームの世界の記憶は結合されていない。俺のことも知らない。成績優秀で美人で、でもひっそりと乙女ゲームを愛好してて、ヒロインに憧れる女の子のままだ。
休み時間に屋上に出た。
今日は珍しく陽が射していて、冬晴れのキンとした冷たい空気が頬に触れる。
深呼吸をし、ピアスを強く叩いた。
世界が飛ぶ。
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さっき、電車で目が合った人、
すっごくかっこよかったなあ……
私の高校生活、いいことあるかも!
わっ! (どすん!)
いたたた……。
ぼんやり歩いてたら、人にぶつかっちゃった!
「だいじょうぶ? 怪我はない?」
「ご、ごめんなさい! はい、どこも痛くないです!」
わわわわ! この男の人も、すっごくきれい!
うちの学校の制服を着てる……!
手を差し出されちゃった……。
わあ……男の人の手だ……。
「俺は武藤蒼馬。キミは?」
私は――……
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教室に着くと、ひきつった顔をした羽原に出迎えられた。
彼女に腕を引っ張られ、人通りの少ない階段のところまで行く。
「……なんか、前のときより美少年度上がってない? 図々しい」
「強く念じたからね! 利用できることは全て利用する! 逃げるなよ、羽原……! 俺の魅力からな!」
研究し尽くしたカッコイイポーズでキメる。これもだいぶ様になってきた。
もう、イケメン歴も三年になるしな。
「ちょっと認めてあげようとしたら、調子乗りすぎ。本当はヘタレのくせに。そう簡単に『今野璃子』はあなたのものにはならないんだから。大体、今回は白椿王子狙いにしようかと思ってるしー」
「そう言って5月には俺ルートに入ってるな。うん。最速攻略目指して良いんだぞ」
「なんの自信よ……」
あきれている羽原をよそに、俺は先ほどの出会いを反芻する。
「ああ、それにしてもやっぱり璃子は可愛いなあ……!」
「だから、璃子璃子この段階から言うな! ああもう、やり直して変な名前入れてやろうかな。って、大好きなヒロインちゃんにそんなの、私が耐えられない!」
悶えている羽原が面白すぎて、ニヤニヤ眺める俺。
「あのさ。羽原さんはいったんリアルに帰らないの?」
「帰らないと何かリアルで問題起きる?」
「俺の経験している限りでは大丈夫。むしろ、帰るとちょっと時間が進む。あと同じようにこっちに来てた友達に探りを入れたけど、そいつはピアスを持っていないみたいだ。世界からはじかれたときになくしたのか、もともとなかったのかは知らないけど。さっき見た感じでも居なかったし、また来るかどうかわからないな」
「じゃあ私は、この世界から追い出されるまで居座る。また上手く来られるかわからないし」
「俺が行き来出来ているし、羽原さんほどの強さがあれば大丈夫だと思うけどなあ……」
「なによ」
睨まれた。綺麗すぎて怖くて、ぞくぞくする。
改めて見ると、本当に美人だ。
でも、彼女のことが気になるのはその容姿のせいじゃない。
彼女を知ったからだ。
彼女がどういう人間か知って、もっと知りたいと思ったからだ。
こうして俺は、何度もあの世界で「今野さん」と恋をした。
そして今この世界で、最初の恋を「コンノさん」にしようとしている。
スペックの差があまりに大きすぎるから、破れる覚悟も出来ている。でも、何もしなければ始まらない。
あの世界でだって、授けられた高スペックに助けられた場面ももちろんたくさんあったけど、基本的には俺の行動次第だったじゃないか。
俺は全部あきらめないし、どの世界も大切にしてみせる。
残り時間は少ない。卒業までにまず――なんとか知り合いになってやる!
大丈夫、俺には経験がある!
――END――
お読み頂きありがとうございました。
反省点も多々ありますが、楽しい経験でした。
追記*
主人公の名前は「走馬燈」をもじりました。




