第四十回 専門用語と、わかりやすいお勉強
仮テントのモニター前。大炎上するコメント欄とロイヤルたちの不毛な言い争いを一瞥し、フランチェスカは手にした磁器のカップをテーブルへ叩きつけた。
「……フィリップ。あのバカ殿ども、我が社の貿易ラインまで巻き込んで何をやっているのかしら」
「落ち着きなさい、フランチェスカ。彼らもルピナスたちの力になりたかっただけなんだろうけれど……流言飛語どころか実務を麻痺させているのは感心しないね」
「感心しないどころの話じゃないわ! 現場の悲鳴が見えないの!? 直接叩き直してくるわ!」
フランチェスカはバインダーをひったくるように抱え、凄まじい足取りで配信スタジオへと向かった。
――配信画面。
「……えーと、つまりね!」
画面の隅から乱入したフランチェスカが、バインダーをバシッと叩いた。額に青筋を浮かべ、ルピナスとミモザを交互に指さす。
「各国の王太子たちが関税法第十四条の特例権限を悪用し、毎日0.04%という極小の関税率改定を反復申請しているのよ! そのせいで関税局の魔導計算システムが過負荷を起こし、アイナール本社の決済ラインまで完全に停滞しているの! このマクロ経済的な波及効果が理解できる!?」
「……かんぜいほう……?」「けっさいらいん……?」
ルピナスとミモザは首を傾げ、ぽかんと口を開けた。お互いの顔を見合わせ、目をパチパチとさせる。
『フランチェスカお姉様ガチギレww』
『専門用語多すぎてルピミモの頭の上に「?」が浮かんでるww』
『なんで理解できないんだwww』
『ルピミモはチルだから仕方ないね』
『ていうか笑ってる場合じゃないんだよね……関税局員死んじゃうww』
『ロイヤル勢の自爆のせいでマジの大問題になってて草』
コメント欄が事態の重さに冷や汗を流し始めたその時、見かねたヴァルデマールが静かに一歩前へ出た。胸ポケットから手帳を取り出し、二人の目線に合わせて膝を折る。
「ルピナス様、ミモザ様。……私から、わかりやすく申し上げます」
「はいですぅ〜」「ヴァルちゃん、教えてぇ?」
「たとえば……ルピナス様がミモザ様に、毎日美味しい『おかし』をあげる約束をしたとします」
「うん! ミモにいっぱいあげるよぁ!」
「ですが、遠くの国の偉い王様たちが『ボクの作ったおかしを一番に食べてほしい!』と張り合いを始めてしまいました。そして、おかしを運ぶためのお手伝いさんに渡す『お礼のコインの数』を、毎日……いえ、一時間に一回、勝手にコロコロと変えてしまったのです」
「「あ……」」
「昨日まではコイン一枚だったのに、急に『やっぱり0.99枚!』『やっぱり0.98枚!』と変わり、お手伝いさんたちは何度も何十回もノートを書き直さなければならなくなりました。その結果、お手伝いさんはご飯も食べられず、お布団にも入れず、一週間もお家に帰れなくなってしまっているのです」
ヴァルデマールが丁寧に語り終えた瞬間、ルピナスとミモザは顔を見合わせ、同時に青ざめた。
「「それはたいへんだぁ!!」」
二人は跳び上がり、お互いの手を強く握りしめた。
「お家に帰れないのはかわいそうですぅ〜!」
「王様たち、ダメだよぁ! お手伝いさんを早くお家に帰してあげてぇ!」
画面に向かって一生懸命に手を振る二人の姿に、炎上していたコメント欄が一瞬で「正論」「天使」「王太子ども正座しろ」と一気に浄化されていくのだった。




