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第一話 迷子

 『獣吠譚(じゅうこうたん) 覇界世紀(はかいせいき)』シリーズ第五弾、『魔と技の法則』です。

 シリーズのURLは以下。

 https://ncode.syosetu.com/s6441g/


 初めましての方も、まいどの方も、お早うございます、今日は、今晩は。


 本来、7月か8月辺りから長編を連載しようと思って執筆していたのですが、どうしてもその前に入れておきたいエピソードがあったので、今回はその中編物語です。週二回、火曜日・金曜日、19:42頃更新の予定です。中編ということで文字数も少ないので、はっきり言ってあっという間に連載終了となります。でも、どうしても書いておきたかった。長編の方には新しいキャラが出てくるのですが、この『魔と技の法則』はまだ陸王(りくおう)雷韋(らい)紫雲(しうん)の三人の頃のお話なので、新キャラが入る前にばばっと書いてしまおうと思って、勢いだけで書きました。もしかしたら、他の話よりも設定を詳しく書いてないかもです。最低限、入れるところは入れたのですが。なので、連載しながら気が付いた時点で、付け足すところはどんどん付け足していきます。それでも入りきらなかったら申し訳ありません。もしかしたら、ちょっとご新規様には分かりにくいかも知れないです。面倒臭くて設定を入れてないのではなく、勢いだけで書いているので設定を入れるのを忘れているのです。推敲は何度もしましたが。でもこの話に関してはいつもと違って、ちょっと推敲に時間かけてないなぁという感じはあります。もし読んでいて、分かりにくいところがあったら申し訳ないです。何しろ今回に限っては、勢いだけですから。


 それと改行ですが、基本的な改行はしてますが、所謂WEB小説でよく使われる改行はしていません。作風に合わないので。シリアスダクファンには改行は合わない。とは言え、いつもはほぼダークに全振りして書いていますが、今回はそんなにダークではありません。結構、軽めの作品になっています。一応、ダークなところはダークなんですが。それでも「巻の四『死の葬列』」と比べたら、てんでお話にならないほどダークじゃないです。書いてる本人は勝手にそう思ってます。


 多分、初見の方でもそれなりに読めるようにはなっているので、ご興味がありましたらごゆっくり堪能してみてください。今回、とても短いですし。もしよろしければ、シリーズの第一作目も読んでいただければより分かりやすいかと思います。そちらも56話くらいなものですので。第一作目から三作目まではWEB小説風の改行入れてあります。


 それでは今回は、冒頭三話を一気に放流します!

 皆様、宜しくお願いします!


 オーベルス。『荒涼の地』を意味する名を冠した土地だが、街は商業都市としてほかの領地からやってくる商隊もほかの地域と比べると異例の如く多い。無論、様々な交易品、貿易品に溢れかえる大路や商館も目を見張るほどのものだ。街道から続く市門の内側には立派な建物が幾つも軒を連ね、しかしそれは商館などではなく、一般市民の有する家並みだった。

荒涼の地(オーベルス)』という名を覆すほど、この街は裕福なのだ。

 まさしく人間の欲望が作り上げた街と言ってもよい。

 いや、人間にしか作り得ない街だった。

 大路には平日でも幾人もの行商が道を行き、そして毎日のように開かれる市で、常に市場はごった返していた。

 陽は既に傾こうとしているのに、市の開かれている広場に面して建つ店先では、荷車を引き連れた商人達が未だに取引の話をしている。遠くからやってきたのだろうか、様々な毛皮や靴を肩から提げて歩く行商達が大きな声を張り上げて客引きをしていた。街の住人と思しき男も女も老いも若きも、まだ市の露天で何を買おうかと物色をしていた。

 そんな中で唯一、ただ辺りを彷徨(うろつ)いている人物がいる。

 陽に当たると金色に見える飴色の長髪を高く結い上げた、見目は一四、五ほどの痩せっぽっちの子供だ。

 雷韋(らい)だった。

 頭巾付きの外套を肩から羽織りその内に纏っているのは、赤い生地に派手な柄染めのぞろりとした衣装だ。耳には赤い石を填め込んだ銀細工の耳飾り、赤い石を填め込んだ腕輪、そして同じく赤い石を埋め込んだ首飾りをつけている。それは三つ揃いの装飾品だった。

 姿形は端から見ると子供らしからぬ出で立ちではあったが、不思議と突飛な格好にも映らなかった。

 元来、形の整った眉に少し手を加えて、更に形を整え、吊り上がり気味の目元に紅を差しているせいだ。そして深い琥珀の大きな瞳が、ほかの子供には不釣り合いな出で立ちに不思議な落ち着きを取らせ、均衡を保っている。

 だからなのか、それほど目立つ存在ではなかった。

 ただし、雷韋の耳が尖ってさえいなければ、の話だ。

 この世界を開闢(かいびゃく)した原初神である光竜(こうりゅう)の系譜は、獣人は言わずもがな、そのほかの種族に関しても皆、耳が尖っている。光竜の眷属を『獣の眷属』というが、彼らはどんな格好をしていても耳に特徴が現れる。光の神と闇の神が作り出した人間族は、彼らを『異種族』と呼んで侮蔑し、蔑む。

 それは人間族が作り出した宗教のせいだった。

 『天主神神義教てんしゅしんしんぎきょう

 光の神、天慧(てんけい)(あが)める宗教のせいだ。

 天主神神義教は、獣の眷属に関してこう教えている。

 ──主は唯一であり、神の生み出しし子は人間族だけである。ほかの人族は混沌から生まれ出でた種であり、交わることを禁じる──

 これが人間族に根付く教えだ。だから今も、皆、雷韋のことは避けて通っている。

 ただそんなことは、今の雷韋には関係ないし、意味もない。

 大路に面した建物の陰から、その異種族である雷韋を見つめ、そして、その一挙手一投足を監視する二人の男がいた。

 彼らは人間族ではあったが、どう見てもまともな類の者達ではなかった。ごろつき特有の雰囲気がある。何を目的に雷韋を監視するのか知らないが、所詮、碌な考えを持っているとは思えない。

 暫く前から雷韋は、大路の中程を行ったり来たりして何かを探している風だった。誰かとはぐれたのか、大きな瞳には不安感が漂っている。時折、声を出して誰かを呼ばわっているようだったが、その声は雑踏の音に飲み込まれて、建物の陰から見張る二人の男達にまで届いては来ない。

「どうする。捕まえてみるか?」

「いや、あの様子だとほかに仲間がいるようだ。どうせならそれごと捕まえた方がいいだろう」

「それもそうだ」

 皮鎧を纏った男達は、大路を彷徨く雷韋を侮蔑の眼差しで見据えながら言葉を交わした。

 そんなこともつゆ知らず、雷韋はあちこちを彷徨き回り、連れの名を呼んだ。

陸王(りくおう)紫雲(しうん)!」

 まだ声変わりも済んでいない声だったが、しかしそれは紛れもなく少年のものだった。

 よくよく見れば、その相貌も少女のものではなく少年のそれだ。少女よりはっきりとした顎の確かさ、僅かに盛り上がった喉仏。

「陸王! 俺を置いていっちまうなんて酷いじゃんか。紫雲、俺がはぐれたのに気付かなかったのかよ!? ちょっと買い物してただけじゃんか!」

 心細さのせいか、言葉のわりに雷韋の声はどこか頼りなげな響きを伴っていた。

「もう! なんで勝手にいなくなっちまうんだよぉ!」

 乱雑に混雑を重ねる広すぎる大路の中に雷韋の声が響き渡る。だが、陸王はおろか紫雲の姿が見つかるでもなし、街の者すらそれに耳を傾ける者などいなかった。

 始めは親とはぐれたものかと注視する者も、声をかけようとする者もあったのだが、雷韋が獣の眷属だと分かると、もう手を貸そうと思う者などいなくなっていた。

 しかし雷韋は、そんなことには気も止めなかった。

 彼はただ、日ノ本から来た侍の陸王を捜し続けるのみだ。

 (つい)を捜して旅を続ける修行(モンク)僧の紫雲を捜すだけだ。

 二人は自分よりも高い上背の偉丈夫。陸王は腰に刀を差し、紫雲は胴着を着た修行僧の証である鉤爪を腰から提げている特徴的な男達だ。

 雷韋は彼らをちらとでも視界の端に捉えるだけで、それと分かるほど、彼らを知っている。しかし、その男達はどこを捜しても見つからなかった。

 たった数分、雷韋が道端の店先の物に目を奪われて買い物をしていた間に、あっという間に二人は少年の目前から消え失せていたのだ。欲しいものがあると声をかけたにもかかわらずだ。だからどうしても捜してしまう。

 いや、捜さずにはいられなかった。

 彼ら二人を雷韋は大好きだったから。それに何よりも、陸王と紫雲は旅の仲間だ。陸王にいたっては、『(つい)』なのだ。

 対とは、人族が皆持っている魂の半身だ。

 人族の魂は陰と陽に分かれている。

 陽の中に僅かに陰が混じっている魂を『少陰(しょういん)』と言い、陰の中に僅かに陽が混じっている魂が『少陽(しょうよう)』だ。人はそれぞれ、少陰か少陽の陰陽なのだ。必ず、対が存在する。離れていても、必ず出会う定めなのだ。

 それが魂の条理なのだから。

 陸王と雷韋の場合もそうだ。陸王が陽であり、対の雷韋が陰。いなければ困る。出会えなければ、静かに狂って狂い死にしてしまう。生き別れになっても、寿命や病以外の死別などがあれば、その場合も静かに狂って死ぬだけだ。

 雷韋の種族は絶滅し、この広大なアルカレディア大陸にさえ既にその種族はいないと言われていた。だからいつも雷韋は独りであると言うことが寂しくて堪らなかった。

 これまでこのアルカレディア大陸を旅してきた間、冒険者や賞金稼ぎとつるむこともあった。しかしそれでも埋まらない孤独を感じていた。それを感じるたびに、胸が空虚になっていくのを認めざるを得なかった。

 だが、そこに現れたのが陸王だった。

 始めは陸王が持っている日ノ本の刀が欲しいと思って近付いただけだった。偶然、乗合馬車で乗り合わせた瞬間から、雷韋は陸王から刀を奪うことを考えていたほどだ。それまで雷韋は日ノ本という極東の島国の噂は耳にしていたが、実際に侍を見たのは陸王が初めてだった。刀も陸王と出会って、初めて目にした。だから、売ればかなりの額になるだろうと思ったのだ。一度は刀を盗み出すことが出来た。しかし、すぐに陸王に発見されて刀を奪い返されてしまった。

 それはそれで致し方なかったが、そもそも陸王の刀は雷韋には引き抜くことが出来なかったのだ。どう頑張っても刀身が鞘から抜けない。だから雷韋はそれが飾り物だと思って、放り投げたのだ。偽の武器ならば、売れることもないだろうと考えて。

 だと言うのに、あとを追ってきた陸王は簡単に刀身を引き抜いた。それで脅されもしたのだ。刀が引き抜けないように(じゅ)がかけられているようにも感じられなかったのに、雷韋には引き抜くことも出来ず、逆に陸王は簡単に引き抜いた。それが陸王との(えにし)の始まりだった。

 と言うより、乗合馬車で出会(でくわ)した瞬間に、縁は出来上がっていたのだ。

 二人の魂と魂が惹かれ合い、結びついて奇妙な感覚を覚えたのが実際の始まりだった。そのときはまだ、互いが互いの対であるなどとは認識していなかったが。

 紫雲とは出会って共に旅をするようになってから、まだ日は浅い。陸王との旅先で出会ったのだ。当時、紫雲は『妖刀』を追っていた。修行僧は魔物や魔族を調伏するのが使命であり、妖刀もその対象となったのだ。結果的に妖刀は消滅した。陸王が滅したのだ。

 その出会いの中で陸王と紫雲は敵対し、殺し合いにもなった。先に大怪我を負わされたのは陸王だったが、陸王はその怪我をものともせずに一撃で紫雲を半殺しにしたのだ。紫雲の手当があと少しでも遅かったら、彼は死んでいただろう。陸王はそれくらいの致命傷を一撃で与えたのだ。その後、様々な事情の中で紫雲を共連れにした。

 そのあとだって、殺し合いをした陸王と紫雲の仲が良くなったとは言い難い。二人とも内心屈託を抱えながらも道連れになったのだ。

 その経緯や理由はここでは割愛するが、兎にも角にも、雷韋自身は陸王のことも紫雲のことも大切な仲間で、大好きな者達だった。勿論、子供の純粋な気持ちで。

 対である陸王には、また特別な感情もあるが。対は、どちらか片方が欠けても生きていけないのだから。

 そのため、陸王はよく言うのだ。

「お前は俺の生命の綱だから、勝手をするな」と。

 なのに、陸王は姿を消してしまった。それも紫雲諸共。まだ今夜の宿だって決まっていないというのに。

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