第一幕 運命を抗う花束
神殿が震える。
ミカロスの目が開かれたとき、空間に満ちたのは“神の力”ではなかった。
――ルシェル。
その声と共に、世界を覆うような黒い光がミカロスの身体を飲み込んでいた。
りん「来るよ、皆……準備はいい?」
りんの問いかけに、クロユリの仲間たちが一人ずつ頷く。
りん「……行くぞ!」
激しい衝突。
ルシェルの纏う黒光は、触れたものすべてを削ぎ落とす刃のようだった。
唯人「俺が結界を張るっ!!!!」
だがその瞬間、唯人の結界は一瞬で砕け、唯人と共に埜楼の攻撃も闇に溶けていく。
埜楼「くそっ…なんでっ!」
弥生「瑞稀っ!俺たちも行くぞ」
瑞稀「絶対、ミカロスを戻してやるんだ……!」
弥生のツノから放たれた願いをも込めた雷は空を裂き、瑞稀の光矢と共にルシェル目掛けて放たれるが黒炎に呑まれる。
息を切らしながらも立ち上がる仲間たち。
明「…っ、盛り上げてくれるじゃん。」
天綺「俺たちが壁を作る!紗也と孤亜はそのうちに…!」
しかし、天綺と明の水の盾も裂け、紗也の淡い光は霧のように薄れていく。
孤亜は形を変えて攻撃を試みるが、その身もまた闇に染まり始めていた。
孤亜「チッ。これがミカロスを乗っ取った力…」
柚木「くっ……! このままだと……また同じ運命に……!」
柚木の胸を締めつける既視感。
黒炎が一瞬、揺らいだ。
ミカロスの瞳の奥で、ルシェルの輪郭が微かに滲む。
ルシェル「……おかしいな。いつもなら、このあたりで終わっている」
その声は、戦場に似つかわしくないほど疲れ切っていた。
ルシェル「柚木。君は知らないだろう。この光景を、私は何百回も繰り返してきた。
出会い、希望を抱き、戦い、そして失う……。
何を変えても、必ず同じ結末になる」
ルシェルの瞳は、どこか遠くを見つめていた。
ルシェル「……我はこの世界を愛していた。だから何度もやり直した。だが、救えたことなど一度もなかった。
それなら――壊すしかないだろう? もう二度と、誰も苦しまないように」
クロユリの面々が、動きを止めた。
りんの唇がわずかに震える。
りん「……そんなの……間違ってる」
柚木「君たちはまだ信じられるのか?無駄な“やり直し”の先に、救いがあると?」
柚木は答えられなかった。
ほんの刹那、ルシェルの言葉が胸の奥に刺さった。
それは、旅の中で何度も感じた“自分の無力さ”と同じ痛みだった。
けれど――
柚木「……それでも、俺は……信じたい」
弱々しくも、確かな声が戦場に響く。
柚木「何度繰り返しても、もし一人でも救えるなら……そのために戦う」
りんが視線を柚木に合わせ、わずかに微笑む。
りん「……いいね。それが、選ぶ道だ」
揺れていた彼らの瞳に、再び光が宿る。
次の瞬間、全員が同時に駆け出した。
黒炎が迫る。
だが、もう足は止まらなかった。
柚木「終わらせるのはお前じゃない……俺たちだ!」
ルシェルが嘲るように笑い、黒炎をさらに膨れ上がらせた。
ルシェル「足掻いてみせろ……何度でも」
光と闇が正面から衝突する。
空間が歪み、地面が砕け、視界が白と黒に塗り潰される。
夜斗「……まだ、まだだ…!」
詠蓮「ここで終わるわけには」
一歩、一歩押し返す。
全員の叫びが重なり、光が闇を食い破った瞬間、轟音が全てを飲み込んだ。
クロユリたちは次々と膝をついていく。
すると視界の端に、床に落ちていた一冊の古びた本が映った。
___イノの日記。
柚木が振り返ると、一瞬何かの影が見えた。
柚木「今の人影…」
りん「……あれがクロユリの隠し札」
柚木「さっきの電話の…相手?」
りん「うん…ありがとう犬神。」
りんは静かに呟いた。
彼は震える手でそれを拾い上げる。
淡い花の香りのような、けれど切なさを孕んだ言葉が零れ落ちる。
りん「……“あなたが信じてくれた日を、私は忘れない”」
その瞬間、クロユリの面々の脳裏に、かつてりんから聞かされた日記の断片が蘇る。




