第一四話 能力者として生きる
十月風成と本条啓子はデータ室の前に立っていた。
啓子は説明を始める。
「ここがデータ室よ。口では言ったと思うけど、色んな情報がある場所よ」
「資料室とは違うのか?」
「資料室は会議の資料とか報告書がある場所よ、データ室は能力者について……要は異能の力に関する事について記録されてるわ」
「例えば?」
「最高能力者とか東京十長についてのデータがあるわよ」
「うん……は? なにそれ?」
「後、四聖獣についてもあるわよ」
「なんだよ四聖獣って、なんだよ東京十長って」
「とりあえず部屋に入るわよ」
「おう……」
疑問しか残らなかった風成を置いてけぼりにして啓子は部屋に入っていった。
データ室の壁にはモニターが幾つも掲げられている。更に縦長のテーブルが八台置いてあり、一台のテーブルに対して椅子とパソコンが二台ずつある。
更に部屋には二人の女性が居た。一人は、ぱっつん前髪で耳が隠れてるミディアムショートヘアの女性で水菜瑠那と同じセーラー服を着ていた。特に通常の日本人と違い薄茶色の透き通るような眼をしてるのが特徴的である。もう一方は三つ編みで一つ結びしているオレンジブラウン系の髪色で白衣を見に纏った女性だった。前を開けた白衣からも同じセーラー服を着ているのが見えた。
部屋に入るなり、白衣の女性は声を上げる。
「来たか少年!」
「本条、お前少年だったのか」
「絶対、言うと思った」
「はっはっ、面白い子やな」
啓子は風成の発言に呆れ、白衣の女性は愉快そうに笑った。
次いで、女性は適当に座ってくれと言った後、風成は自身が座った席にあるパソコンの電源を点け始めたので彼の隣にさり気なく座った啓子が疑問に思う。
「え? なんで点けてんのよ」
と彼女は言った。
「ボタンがあるから思わずな、参ったな」
「参ってるのは私の方だから……」
とやり取りをしてると白衣の女性が本題を切り出した。
「じゃ、自己紹介をしような、自分の名は木馬才華! 宜しく頼むで」
「宜しくお願いします、十月風成です」
啓子が「いつもふざけてたのに今回は普通に自己紹介するのね」と言うと彼は
「なに言ってんだ、初対面の相手にふざけるのは失礼にもほどがあるだろ」
「あんたにそっくりそのまま言葉を返すわよ」
「正直、気持ちは分かる」
「分かるんかい」
二人のやり取りを見て才華は言う。
「漫才としては、どっちもボケとツッコミが弱いで」
「そんなつもりないですから」
と啓子は否定した。
「そうだ、黒菜ちゃんも自己紹介してくれ」
才華はぱっつん前髪の女性に自己紹介を促した。
「うち……城ケ崎黒菜……よろしく」
「よろしく、あの元気ないみたいだけど、ご飯食べてる?」
「いや、城ケ崎さんはいつも通りよ。あんた失礼よ」
啓子が答える。
すると風成は驚く。
「いつも飯食ってないのか! 大丈夫か!」
「誰もそんな事言ってないわよ、後タメ口で喋ってるけど城ケ崎さん年上だからね」
啓子は手刀で風成のクビを叩く。
「うっ」
と風成は声を漏らした。
黒菜が「ご飯……食べた気がする」と呟くと、才華は答える。
「黒菜ちゃん、皆と一緒に食べたはずやで」
「そう……」
「そっけない黒菜ちゃんも可愛いで」
「そう……」
「うん、そうや」
啓子はおもむろに立ち上がって風成に話し掛ける。
「これで挨拶回りは終わりよ」
「ん、じゃあ失礼しまーーす」
「才華さん、城ケ崎さん、ありがとうございます」
啓子は二人にお礼を言うと。
「風成少年、宜しくなー」
「じゃあ……またね」
と二人は言った。
啓子は自室に向かい、自分の部屋の前で立っていた。彼女は後ろを振り向くと、まだ風成が居た。
「あんた、なに着いて来てんのよ」
「間違えた」
「訳分かんないわよ」
「気になる事がある」
「なに?」
「今あった人達で全員なのか?」
「……うん」
「そっか、今日は面倒掛けさせたな」
「自覚あるなら、しっかりしてよ。じゃあ、また明日ね」
「ああ‼‼」
「うるさっ」
と言い啓子は自室に戻った。
風成は与えられた部屋に戻る道中、思案してた。
(ここに居る人達を良い人だ。それもで気になる事が多すぎる)
風成は昨日、啓子と病院で会った時に、『神戸特区能力所』についての資料を一枚渡されていた。資料には風成を正式な一員として迎える前に保護という形で迎え入れるという事や在籍人数が九人という事など基本的な事が書いてあったが風成には気になる点があった。
(九人……? 考えても仕方ないか、とにかくこの世界に早く慣れないと)
――――こうして十月風成は能力者として異能の世界に足を踏み入れたのであった。