第3話
「さあ、皆さん! 試験を始めますよ! 早く集まりなさい!」
というわけで、さっそく試験が始まってしまった。クラスメイトの視線が背中に突き刺さる。すまん、本当に申し訳ない。
「まずはルールを説明します。皆さんは各々使える魔法で、こちらの的を攻撃してください。ただの石ですが、特殊な強化魔法でコーティングされています。簡単な力では壊れないので、手加減せず思いっきり攻撃してください」
トシリアス先生の前には、西洋風の墓石みたいなのが置かれている。前面にはザ・魔法陣って感じの模様が刻まれていた。
「魔法の精度、威力などによって点数が表示される仕組みです。最高は100点、及第点は50点。落第点を取った者には厳しい補習が待ってますからね!」
あの~、こっちを見ながら言わないでもらえます?
「時間がありません、さっさと始めますよ!」
ふーん、ゲームと同じっぽいな。実際のプレイ画面では、ロックオンマークが的の周りをフラフラしていて、ちょうど的に重なったタイミングでタップするのだ。
的に近いほど得点が高い。高得点なら攻略対象ズが「すごいね、君」的なことを言って近づいてくる。低得点なら「勉強を手伝ってあげよう」的なことを言って近づいてくる。どのイケメンと過ごすかはご自由に。
魔法が的に当たるたび、《72点!》とか、《67点!》とか甲高い音が出る。うん、ゲームと同じだ。それにしても、みんなきちんと魔法が使えてすごいなぁ。
「おい、挙動不審女」
は? 誰だよ、私に向かってそんな暴言を吐くクソ野郎は。胆力を溜めながら後ろを振り返る。赤髪のワイルド野郎が立っていた。ゲッ! アンガー!
「あ、あら、アンガー様。ご機嫌いかがでございましょうか?」
「とぼけるんじゃねえ。お前、他国の密偵だろ」
……なんでそうなる。貴族ギャグか?
「オホホ、何のことでございましょうか。私はれっきとしたヴィラニール家の娘ですわ」
「あの身のこなしと謎の魔法。誤魔化そうとしてもムダだぞ」
……マジか。どうやら、アンガーは私を密偵だと本気で勘違いしているようだ。
「だが、簡単に吐かせちゃつまらんな。ちょうどいい、この試験で勝負しろ。俺が勝ったら洗いざらい話してもらおうか」
だから、なんでお前はそんなに勝負したがるのだ。
その間にも試験は着々と進む。ちなみに、私はメイナの次。もちろんゲームでは落第点。直前にテストしたメイナのせいで点数が出なかったとかなんとか言って、周囲のヘイトを溜めるのであった。
さて、ここからは攻略対象ズのターン。
「次! ブレッド・アリストール!」
「はい」
「「キャ~! ブレッド様~!」」
来たぞ、来たぞ、来たぞ。ゲームで一番人気のブレッド王子。思った通り、現実世界? でも大人気だ。金髪は黄金のように輝いて、顔の周りからはキラキラエフェクトが飛んでいる。スマホの解像度じゃ表現しきれていなかった爽やかさを感じる。
だが、そんな彼には隠れた一面がある。それは……重度の魔法オタクなのだ。だから、珍しい聖属性のメイナに惹かれていくというわけ。
ブレッドは手の平を的に向けて、魔法を発動する。
「<ライトニング・ショット>!」
その両手から黄色い雷の球が放たれ、的に勢いよく当たる。
《92点!》
「「おおお~!!」」
ブレッドはホッとしたような、満足したような表情で戻ってくる。まったく嫌味を感じさせないのが、さすがは王子様だ。女子生徒たち(メイナ以外)の目はハートになっているよ。
たしか、次はアンガーだったな。
「次! アンガー・レシピエント!」
「はい」
あの狂戦士が素直に「はい」と答えているのがウケた。てっきり「ああ」とか言うと思ったのに。
「見てろよ、密偵女。力の差を証明してやるから」
「アンガー様は本当に面白い殿方ですこと、オホホ」
さっさと行けや。
「<ファイヤー・ボール>!」
アンガーのかざした手から火球が放たれる。
《90点!》
おおお~! と、拍手が沸き起こる。さすがはレシピエント家の嫡男だ。ブレッド王子にも負けていない。アンガーは満足気に戻ってくる。そして、私をドヤ顔で見てくるのはやめろ。
「次! カルム・トランクイル!」
「……はい」
おっと、最後の攻略対象だ。メイナ以外で唯一の平民出身者。属性は水でそこまで珍しくはないけど、類まれな才能の持ち主だ。そのため、メイナと同じ特待生枠で魔法学院に入学した。
でも、周りが貴族ばかりなためか、引っ込み思案で他人とあまり話さない。それを同じ平民出身であるメイナが明るく話しかけ、心を開いて仲良くなる……という寸法だ。まぁ、こいつはこっちから接触しなければ問題ないだろう。
「<アクア・ブレード>!」
カルムが手を剣のように振ると、水の刃が打ち出された。
《91点!》
「「おおお~!」」
試験会場はどよめいた。王子に次ぐ高得点だ。アンガーは悔しそうな顔で、ブレッドも興味深げな様子。
「次! メイナ・キャラバン!」
「はい」
我らが主人公、メイナの出番だ。彼女は非常に珍しい聖魔法の使い手。ゲームでは白っぽい光の槍? みたいなのを飛ばしてたな。一番エフェクトに金がかかってそうだった。何度も見た光景ではあるけれど、ちょっと楽しみかも。
「<セイント・ランス>!」
ゲームで見たのと同じ光の槍が勢いよく的へ向かう。ド真ん中に当たった。
《94点!》
「「おおお~!!」」
すっげ。ここまでの最高得点。攻略対象ズが驚く中、メイナは恥ずかしそうに戻る。さっそく、ブレッドがさりげなくメイナに話しかけた。
「僕はブレッドというのだけど、メイナ嬢と言ったね。素晴らしい魔法だ。ぜひ、話を聞かせていただきたいな」
「いえ、それほどではございませんわ……」
いいぞ、いいぞ。シナリオ通りだ。ゲームではすかさずノエルが間に割って入るけど、私は何もしない。だから、何も起こらない。いいねぇ。私は静かに学園生活を送るから、アンタらは勝手に仲良くなってくれ。
「では、次!! ノエル・ヴィラニールさん!!」
「は、はい」
なんか私のときだけ声がキツいんですけど。とりあえず、このイベントの処刑フラグは何とかなりそうだ。だけど、試験はどうしよう。
寮で少し練習したけど、むあ~っという魔力の球体しか出せなかった。ロイア曰く、何もできない純粋な魔力とのこと。
ここでむあ~を出したら余計目立つ。というか、あんなへなちょこ弾では及第点にも届かない。
不合格なら補習。攻略対象ズとメイナからは隔離されるが、トシリアス先生と二人っきりはかなり嫌だ。
ぐぅ……どうする。そうだ、忍術なら……。
初級忍術くらいならどうにか使える。今度は風遁の術を試してみようかな。
一応、どんな忍術が使えるかチェックしときたいかも。でも、せっかくの新しい人生でまた忍者要素が出てくるのは……。
「どうしたんですか、ノエルさん!? 早くしなさい! まさか、こんな試験受けるに値しないと思って……!」
「ません! 思ってません! すぐやりますから!」
葛藤する時間もないのか。
ええい! ここまで来たらもうしょうがない!
高速で印を結ぶ。
胆力を腹の中心に集めて一息に放て!
「<風遁の術・風玉>!」
ゴオオオ!! と巨大な空気の玉が的に向かって放たれる。
《☆※〇▲!》
的に当たった瞬間、魔法陣ごとバッカーン! と木っ端みじんに砕けちゃった。
「「……え?」」
トシリアス先生とクラスメイトは、みんなポカン。でも、それ以上に私の方が驚いていた。
……え? 忍術ってこんなに強かったっけ?
というか、点数はどうなるんだろう。
ちらりとトシリアス先生を見る。プルプルと細かく震えていた。
「ノエルさん!! なんてことをしてくれたんですか!」
「ぃえええ!?」
思いっきり怒鳴られた。
なんで? 的を壊すほど強い魔法が使えるなんてすごい! 的な展開じゃないの?
「ぃえええ!? じゃありません! 的が壊れたんじゃ試験ができないでしょう! まだ受けていない生徒もいるんですよ!」
「新しく用意すればいいんじゃ……」
「お黙りなさい! 口答えは許しませんよ! 今のでさらに補習追加です!」
「そ、そんな……」
「あなたには基礎の基礎から教えないといけないようですね! こんなに出来の悪い生徒は初めてです! そもそも、その態度から……!」
ガミガミ怒られながら、心の中でスキップボタンを連打していた。もちろんスキップできるはずもなく、結局私だけ補習(四時間)になった。メイナと攻略対象ズに悪目立ちした挙句、トシリアス先生にみっっっちり絞られた。最悪の初日だった。
□□□
翌日。
トシリアス先生に睨まれながら午前の講義(よくわからない魔法の論理だった)を終えると、さっそく学園生活特有の悩みにぶち当たった。昼飯だ。ゲームの世界でも腹は減る。
人の流れに沿って歩いていくと、大変豪華な食堂があった。さすがは一流貴族たちが通う学院。ここまで来てなんだけど、食堂はイベント多発の魔境なので、寮で食べようと思っていた。その方が安全だからね。今朝もロイアが作ってくれたし。
食堂の前を素通りして寮に帰る……ことはできなかった。足が固まって動けない。なぜか? ……なんともまぁ、良い匂いがしてくるのだ。
食堂の前で棒立ちになる私を見て、クラスメイトのモブ令嬢たちがヒソヒソ声で相談する。
「ね、ねえ、ノエル様もお誘いした方がいいんでしょうか……お一人でいらっしゃいますわ……」
「い、いや、おやめした方がいいと思いますわ。私たちのような下級の者たちに誘われてもご迷惑でしょうし……」
「怒りを買って、あの不思議な魔法で襲われたら粉々になってしまうでしょう……」
やはり、初日の立ち回りはまずかったらしい。ただでさえヴィラニール家は三大公爵家なのだ。距離を置かれてもおかしくはない。
さて、さっさと帰るか。寮で過ごすとはいえ、昼休憩はイベント多発ポイントだ。思い出すだけで「メイナが作ったお弁当をブレッドが食べに来るが、ノエルが台無しにする」、「メイナが一人でご飯を食べていたらアンガーがやってくるが、ノエルが台無しにする」、「メイナがカルムを食事に誘ったら、ノエルもくっついてきて台無しにする」……挙げだしたらキリがない。
でも、いずれもノエルが自分からイベントを破壊している。つまり、寮で食べれば安全だ。
「「ノエル様。お昼ご飯をご一緒してもよろしいでしょうか?」」
「え?」
気がついたら、悪役令嬢顔の女生徒三人に囲まれていた。威圧感が半端ないんですけど。
「な、なんでしょうか?」
「せっかく同じクラスになりましたので、ぜひお昼ご飯を一緒に食べたく存じますの」
なんか見たことあるメンツだな……。そう思った瞬間、私の頭に衝撃が走った。
こ、こいつらはノエルの手下三人衆だ!
ノエルと一緒にプレイヤーをいじめてくる性悪な貴族令嬢たち。私は勝手に手下ズと呼んでいた。
「わ、私は寮で食べますので、どうぞお気になさらず……」
「「何を仰いますか。ノエル様は食堂で召し上がるべきでございますわ」」
「あ、いや、ちょっと!」
あれよあれよと食堂に連行される。知らないうちにパスタを買わされ、「さあ! さあ! さあ!」と無理やりテラス席に連れてこられてしまった。なんか、座りたそうにしていた人たちが怖そうに逃げて行ったのは……気のせいよね? そして、一番見られたくない人に会ってしまった。
……ゲッ、メイナ!
「「邪魔よ、どきなさい! この平民が!」」
「も、申し訳ございませんっ!」
メイナは手下ズに怒鳴られ、すぐに逃げてしまった。
まずいよ、まずいよ、まずいよ?
悪役令嬢たちの親玉として認識されたのは間違いない。これでは処刑フラグに近づいてしまうじゃないの。席に着くや否や、手下ズはメイナの悪口で盛り上がる。
「ノエル様。あのメイナとかいう平民出のこと、どう思われますか?」
「ちょっと珍しい聖魔法が使えるから調子に乗っていますよね」
「みんなのブレッド様に色目を使うなんて、本当にはしたない女性ですわ!」
賛同できるわけないので適当に無視する。貴族令嬢も田舎の女子高生も変わらないな。
パスタだけはめちゃくちゃ美味しかった。
その後、午後の講義もトシリアス先生に睨まれながら無事に終え(よくわからない語学の勉強だった)、寮に歩いていた。昼間、事件はあったけどメイナとは相変わらずだ。怖がられているようだが、まだ嫌われてはないはず。それがいいのかはわからないけど……。
とりあえず、このまま少し様子を見るか。部屋に戻ったら、今後の立ち回りを検討し直そう。まずは手下ズをどうにかしないと。
寮まであと少しというところで、どこからか女性の声が聞こえてきた。何やら抵抗するような声だ。
「や、やめてくださいっ!」
「いい加減にしなさい! 目立とうとするんじゃありません!」
「あんたは鬱陶しいのよ! 平民出身のくせに良い気にならないで!」
「ちょっと点数がいいからって自慢げにするなど、はしたないですよ!」
……マジか。手下ズがメイナをイジメていた。




