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 サヴルム軍は到着予定日に打ち合わせ通りにサリスを素通りしてアトモ・フィリオへと入った。それから半日ほど遅れてサカノ軍が、こちらもサリスには危害を加えずにアトモ・フィリオへと入っている。

 アトモ・フィリオ全体を守る惣構(そうがまえ)は投機目的のインスラや、小金持ちのドムスブームの際にそれらを建設、販売する団体によって潰されていたため、二国の軍は難なくそこへ入る事が出来た。

 ジャック達はその二国の軍の内、サヴルム王国のバルミロの率いる勢力と同行している。

 ただ、その二つの軍はどこからどう見ても他国から入って来た軍なので、大樹は

「ジャック、他国からの侵攻を防ぐという話だったのに他国の人間と一緒にラヴィスヴィーパと戦うとはどういう事です」

 と混乱したが、ジャックは

「俺とアイラとお前、そしてアドリアーナとベラを攻撃して来たのはラヴィスヴィーパの軍だっただろう。連中はアトモ・フィリオの町を壊したがバルミロ達はサリスには全く手を出さなかっただろう。この結果を見ればどちらに義があるか、お前にも自ずと見えてくるはずだ」

 と言いつつ重ねて、

「お前らもそう思うだろう」

 と、横で見ているアイラ達に同意を求めた。

 アイラは笑いを(こら)えながら頷き、ベラも先日のドムスでの恐怖を思い起こしたのか、小さい声で、

「うん」

 と答えるが、アドリアーナは呆れたような目をしながら

「まぁ、もう何でもいいんじゃない」

 と、小さく答えた。

 ともあれ、これで賛成派が三、反対派が彼一人、中立が一である。他人に流され易い大樹の心境はかなり揺れた。

 さらにトドメに、

「アトモ・フィリオでの騒動の次の日にはサリスもざわつき始めていただろう。ここでラヴィスヴィーパ軍の横行を止めなければさらに拡がるかもしれんぞ」

 と、付け加える。

 すると、次第に大樹にはジャックが言っている事が正しい事であるように思えて来た。確かに、あの騒動が自分たちの村に波及する可能性は無きにしもあらずなのである。

(ここは仲間を信じよう)

 そう思うと、

「分かりました。共にラヴィスヴィーパの平和を守りましょう」

 と、答えた。

 その後ジャックと大樹は、残りの三人をサヴルム軍の陣へと預け、城へと向かって行った。


 サヴルム軍とサカノ軍は、まずジャックと大樹が魔法で広範囲を攻撃して大まかな兵力を削った後、サカノ軍が騎射でさらに敵を減らし、残った兵をサヴルム軍が殲滅するという流れで徐々に城へと近づいて行った。

 ラヴィスヴィーパ軍の兵士も死にたくはないので必死に抗戦を始めるが、少し前まで財産を奪い合ったり、殺し合っていた自軍の兵士達とは中々連携が取れずに次々と倒されて行く。

(これは余裕だな)

 そう思ってジャックと大樹は魔力を回復させるために後方に退き、それ以降しばらくはサカノ軍と、サヴルム軍だけで攻めていたが、ある地点まで侵攻すると勢いが落ち始めた。

 ラヴィスヴィーパ軍はすっかりビビっているため、いきなり強くなるわけがない。

 と、なれば理由は一つであろう。

(騎士団が出て来たのか)

 そう思った瞬間に鬨の声が聞こえて来た。


 騎士団は基本的に籠城して敵を迎え撃つつもりであったが、一時間だけ城門を開けて、街に残った民間人を城内の地下通路から町の外に逃すという事に決まったので一部を外に出して時間稼ぎをする事になった。

 外に出て来たのは八百人程だったが、恐ろしく強かった。

 指揮を執っているのはヒースコートではなく、将軍レナである。

 当初は、騎士団長である彼が出撃しようと考えていたのだが、彼女が王に

「私も騎士団とは信頼関係で結ばれていますし、街中では軍が抗戦しているとの事なので私が向かうのが最適でしょう。切り札である騎士団長殿はまだ出すべきではありません」

 と進言した結果、彼女が出て来ている。

 騎士団と彼女の存在はそれだけで敵の侵攻を遅らせる事ができたが、流石に押し返す事は出来ない。

 そのためレナの関心ごとは、

(どう軍人達を奮い立たせるか)

 という一事に絞られていた。

 こういった場合は恐怖によって背後から追い立てるという方法が一番手っ取り早いが、現在恐怖は彼等の眼前から攻めて来ており、それを超える恐怖を作る事はレナには出来ない。

 報酬で釣るという事も今更無意味だし、頭を下げて頼んだら今度は騎士団の士気が下がるだろう。

 結局、彼女は自分自身が死兵と化して、

「よく戦う気になってくれた軍人供、褒美に私の武勇を見せてやろう」

 と、軍人達に言い聞かせつつ、槍を持って突っ込んで行った。

 普段舐められている自分が一番奮闘する事で、後に続かせようという狙いであった。

 彼女もカストゥルムで習っていた事があるので小規模ながら土属性の魔法が使える。

 その魔法を使って、地面に段差を作って突っ込んでくるサカノの遊牧民を転倒させ、サヴルム兵に対しては砂煙を浴びせて視界を奪ってから槍で突いて倒して行く。

 それに触発されてラヴィスヴィーパの軍人達は士気を取り戻し、銃士が弾を発射して相手を怯ませた後、槍兵を突っ込ませるというような連携の取れた戦い方を始めて、少しづつだが押し返し始めた。

(あの将軍、魔法使いだったのか。それよりも、遊牧民は銃に弱いから俺が出て行かないとまずいだろうな)

 そう考えるとジャックは前線にいるサカノ兵達より前に出て流水で段差を全て流しつつ、敵の銃撃と砂煙の目潰しを水の壁を作って防ぎ、自軍の兵が再び侵攻できる環境を作った。砂煙はもとより、鉛弾というものは速度が速ければ速いほど水面で砕け散り易くなるという性質があるのでどちらも水魔法で防御が可能である。さらに、自身もサカノ兵やサヴルム兵に混じって敵と戦った。

 その結果、彼の愛刀は物打ちの部分が折れて無くなってしまったものの、その膂力(りょりょく)を活かした我流剣術は誰にも止める事は出来ずラヴィスヴィーパ兵を三十人は斬り殺した。

 レナには再び魔法を発動する程の魔力が残っておらず、兵士達の銃撃も効かなくなったので再びラヴィスヴィーパ勢は押し返され始める。

 しかし、彼女と軍、さらに騎士団員達は諦めずに戦い続けた。

 それでも戦局はそれ以上覆ることは無く、騎士団と軍人達は奮闘して民間人達が城の中に逃げ込む時間を稼ぐ事には成功するものの、ほぼ全員討死した。

 将軍レナ・ウォーベックも敵を突いた槍が抜けなくなった隙に、毒矢を放たれて動きを鈍らされ、最終的には敵の槍に心臓を貫かれて死んだ。

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