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 アトモ・フィリオで騒動が勃発して一夜明けてからもそれは収まる事はなかった。

 現在、ジャック達がいるサリスもアトモ・フィリオから逃げてきた者や、これから金持ちの財産を奪いに行こうとする者でいつもより人通りが激しくなっている。

 そんな中、ジャックとアイラは

「こっちにも騒動が波及しているかもしれない。ルドルフォ達が無事か見に行って来る」

 と、言って大樹達三人に潜伏先の留守番をさせると、二人でやや町の中心部から離れたところにある茶屋へと来ていた。

 ちなみに、ルドルフォにはあらかじめ、アトモ・フィリオで騒動が起こったら工場を閉めて臨時休暇を取って避難するようにアイラが伝えているので、安否を確認せずともおそらく無事である。

「はい、これ」

 と言ってアイラはジャックに地図を渡す。

 それは、レックスの居城内部の地図であった。

 彼女は先日から町で城についての資料を集めており、それと現在の城を知っている者から聞いた話を突合させたりして、最新版の地図を作っていたのである。

 その地図は、現在は老朽化で閉鎖されている階段や、崩れたまま修理がされていない箇所、各部屋の用途といった現在の情報を事細かに盛り込んだ物だったので、

「どうやって作ったんだ? これ」

 とジャックは不思議に思った。

 城内で働いている者は、全員が全員レックスや騎士団を好いているので城の情報を漏らす事はまずない。城外から城内へと行く用事がある者に調べさせたとしてもここまで情報を盛り込む事は難しいだろう。

 曰く、

「大まかな所は城に用事がある反物屋とかにお金を握らせて見て来てもらったけど、残った細かい所は潜入して自分で調査したんだよ」

 とのことだった。

 彼女はその容姿の良さから昨日もかなりの数の暴徒に襲われたが、フリントロックピストルの弾が切れてからはずっと逃げたり隠れたりして、結果それらから逃げ果せて無傷でジャック達と合流していたので、あながち嘘ではないのかもしれない。

「村で喧嘩していた時は何気なく情報収集を頼んでいたが、まさかお前がここまで凄腕だとは思わなかった」

 と、ジャックは感服した。

 すると、

「昔は情報収集は俺たちの専売特許だったんだがな」

 と、二人の会話に割り込んで来る声があった。

 声がした方を見てみると、イズチがそこにいた。

「お前、まだサヴルムに行っていなかったのか?」

 ジャックが尋ねると、

 イズチは

「いや、行って今帰って来た所だ。正確には俺は一つ目の宿駅まで行って、そこからは別の人間がサヴルムに向かったんだがな」

 そう前置きをし、

「サヴルムはあと八日後には一万三千人の勢力を引き連れてアトモ・フィリオに到着する予定だ。サカノは半日もあればそこまで行けるから、必要になったらまた連絡をくれとのことだ」

 と彼に報告した。

「流石、遊牧民だな。俺が三日かけて行った所へと一日で往復して行って来るとは。ついでにしばらく会えないだろうとか言っていたが、再開も早かったな」

 と、ジャックは冗談を交えつつ彼を賞賛した。

 この日、彼は非常に機嫌が良く、いつもであれば自分のサヴルムまで三日というスピードを遥かに上回られた事を気にして、どうすればサカノの遊牧民以上の機動力を持てるか考える所だが今日は一欠片も悔しさを感じない。

 とにかく、これであとは騎士団の動向を確認しつつ待つだけになった。

 唯一の懸念はサヴルムとサカノを味方につけたジャックに大樹が協力するかどうかだが、

(奴はアトモ・フィリオで自国の軍人を相手に戦っているから、それは簡単だろう。そもそも、奴は流され易いから説得せずとも俺がその二カ国に着いて戦い始めたら奴も共に戦い始める可能性すらある。アドリアーナの妨害も最近は弱まっているしな)

 と、そこまで心配はしていない。

 が、一応軽く手を打っておこうと考え、

「イズチ、バッシブ族長に略奪は王城を落とし終わってからにして欲しいって言って貰えないだろうか。いきなり略奪を始めたら仲間の魔法使いが間違ってお前らを攻撃してしまうかもしれん。俺はサヴルムのバルミロに同じ事を言いに行く」

 と言った。

「こっちは心配しなくていいぞ。極悪非道という印象を他国に植え付けようとしてきたから、サカノと言ったら略奪というイメージがあるが、そもそも略奪は昔から禁じられているからな。戦いに勝ったら金銀財宝を一箇所に集めて、それをみんなで分け合うのが伝統だ」

 この一言で懸念は無くなったに等しい。

 サヴルムはジャックに大恩があるためおそらく大抵の事を聞いてもらえるが、サカノとはビジネスライクの域を出ていない関係だったので、どちらかと言えばこちらの国の方が心配だったのである。

 サカノの遊牧民は先祖や伝統の事に関しては嘘はつかないので、イズチの言う事は間違いないだろう。

 ジャックはアイラだけでなくイズチにも茶と菓子を奢ってやると、サヴルムへと向けて馬を走らせた。

 一日と少しかけてバルミロの陣へと行き、事情を説明すると

「元々、今回の戦いは貴殿への恩に報いることが目的だ。だから、この国の宝などには興味はないが、その恩人がそういうのであれば皆にも宝は捨て置けと伝えておこう」

 との事だったので、ジャックは満足して帰った。

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