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この混乱は騎士団達の実力を確認するのにはちょうどいいものである。
彼等は絶滅危惧種のような存在であり、普段はアトモ・フィリオとサリスの広範囲にポツポツと点在しており、今回のように全員が一堂に会して同じ仕事をするという事が滅多にないからである。さらに、今回は滅多にお目にかかれない騎士団長自らが外に出てきているという付録まで付いている。
そのため、ジャックはアイラを探しつつも、騎士団の動きにも目を配っていた。
彼等は人数が少ないながらもなかなかいい動きをしている。
まず、斥候を使って特に騒動が大きなところを調べ上げ、そこに人員を集中させて、大きな火を徐々に小さくしていくという作戦を取っているようだ。
しかし、民衆の不満が王へと向いてしまう事を危惧して、暴徒をできるだけ斬り殺したりせずに捕縛しているため、少し時間がかかっている。
(やはり、人員不足ではどうしようもないようだな。確かに個々の能力やなかなかに統制の取れた動きは目を見張るものがあるが、大した驚異にはなり得ない)
そう分析しながら、暴徒と衝突している騎士団の横を通り過ぎていく。
すると、
「この騒動なのに、随分と落ち着いているな」
と、ジャックは大男に話しかけられた。
見るとその男は騎士団長、ヒースコート・エリオットであった。
隣には将軍のレナ・ウォーベックもいる。
(怪しまれたか?)
そう思って、
「こういう時にこそ落ち着いて行動する事が重要だと考えています。とりわけ、今は人探しをしている最中ですので尚更でございましょう」
と、もっともな事を言った。
「人探しか。我々も忙しい身だが、君の探している人を職務の途中に見かける事があるかもしれない。探している人物の名前や特徴、それと一応君の名前と住所を教えてくれ」
ヒースコートは眼少し細めて言った。
彼は親切で有名な男なので、本当に探してくれるのだろうが、どちらかといえば、ジャックの名前を聞き出す事が自ら捜索に協力する事を提案した真の目的だろう。
(この男、まだ怪しんでいるな)
と、なれば本名を言うわけにはいかない。デウマルム家が魔王の系譜である事はヒースコートも知っているはずである。
そう考えると、誰にも気づかれないように水の魔法で後ろにいるアドリアーナと、ベラの耳に栓をして、その隙に
「私はダニエル・サークリスと言って郊外にあるドムスに住んでいます。探しているのは妹のアイラです」
とやや早口で言い、言い終わると魔法を解除した。
さらに重ねて、
「身長はそこにいるアドリアーナより少し高いくらいで、赤みがかったショートヘア、さらにレンガの壁のような柄の服を着ています」
と、アイラの身なりの説明する。
「レンガの柄か…」
ヒースコートはそう呟く。
(喋りすぎたか?)
と、ジャックは少し後悔した。
アイラのその衣装は町の景色に溶け込む事ができるようにするための物だった事を思い出したためである。
もしかしたら、アイラは諜報活動に長けていると気づかれてしまうのではと少し危惧したが、
「分かった。もし、見かける事があったら君に伝えよう」
と言ってヒースコートとレナは行ってしまった。
ヒースコートはジャックから充分離れると、隣を走っていたレナに
「さっきの男の妹とやらを探してくだされ。見つけたら城へと連れて帰り、取り調べをします」
と、言って自身は次の現場へと向かって行った。
結局アイラはジャック達が先に見つけており、彼等は大樹と合流した後、サリスへと逃げ果せている。
ヒースコートは騎士団を指揮して夜通し暴徒を制圧し続けたが、暴徒のあまりの多さに流石に対処しきれず一時的に騎士団を撤退させた。数も厄介だったが、暴徒や軍人の中には密輸品の銃を持った者がかなり多く、それが彼らを苦戦させる一因になっていた。
そういった事もあって、この一晩で騎士団は百人以上の怪我人を出してしまったが、幸運にも死人はいなかった。
しかし、城の兵士詰所のベッドは怪我をした騎士団のメンバーで埋まっているという光景は彼等自身の士気を低下させ始めている。
「暴徒の数がアトモ・フィリオの人口の一パーセントだったとしても五千人以上はいる事になる。見た感じはそれよりも遥かに大人数だった。訓練された騎士とはいえ流石にどうにもならん」
騎士団長ヒースコートは自室でそう愚痴をこぼしながら、自分も怪我の手当てをしていると、将軍レナが入って来た。
が、あまり浮かない表情をしているところを見ると、敵の首領の手がかりとなり得るアイラという女性を見つける事は叶わなかったという事が見て取れた。
「駄目でしたか…」
そうヒースコートが悲しそうに呟いたので、余りにも可哀想だと思った彼女は
「アイラという女性を見つけた者に褒美を与えるという名目で手配してみてはいかがでしょう」
と、彼へと提案してみた。
「提案して下さったのは有難いが、犯罪者でもない者を手配する訳には行かないでしょう。それに、暴徒は与えられるよりも殺して奪う事の方が簡単だという事に今まで以上に気付いてしまっている。どんな褒美を見せても食いつきはしますまい」
彼はそう力なく返す。
「思えば、諜報員かもしれない女性と通じているダニエルという青年も敵の首領と通じている可能性があったかもしれませんね。彼はあんな騒動の中で妙に落ち着いていましたし」
「いや、そのアイラという女性であれば怪しい服装をしている事を口実に取り調べができたかもしれないが、彼に関してはただ怪しいだけで、何も無いから引き連れて行くのは無理でしたでしょうな。それに、彼は常に目撃者を連れていた。彼が謂れのない事で城へと連れて行かれたという話を後ろにいた二人の少女のどちらかが敵の首領へと伝えたら、敵はそれを使って暴徒の敵意を城へと向けさせるかもしれませんな」
そのように二人で議論を重ねて行くうちにどんどん気持ちが沈んできた。
どう議論しても最終的に行き着く先は『落城』の二文字なのである。
(戦士である私はまだ気持ち的には軽い。それはウォーベック殿も同じだろう。しかし、自分よりも大衆のためを思って行動してきた国王がこれでは余りにも不憫だ)
そう思うとヒースコートは気合を入れ直し、
「本当であれば他国に間諜を潜入させて確認するところですが、派遣する人員がいないので仕方ありません。後詰は望めませんが他国の侵攻に備えて籠城戦の準備を致しましょう」
とレナに言うと、部屋から退出して無事な騎士団のメンバーと共に籠城戦の準備を始めた。
今後は既に敵が他国と通じているという前提のもと動いていくつもりである。
ただ、彼は自分を鼓舞したものの、人手不足のため兵を他国に協力要請に向かわせる事すらできないことに情けなさのようなものを感じており、それは消える事はなかった。




