必殺の一撃
会話で時間を稼いでいるが、出血が止まらない。どうにか身体をまっぷたつにされずには済んだものの、かなりの深手を負ってしまった。
「ふ、死に瀕してもふざける余裕を見せるか。剛毅なことだ」
話が続いているうちに頭を整理。現状を確認し、どうするべきかを考えなければ。
まず、この傷を早いうちにシャミナに観てもらわなければならない。
が、シャミナは鈴の音を使った状態異常魔法の効果に苦しみ、まだ頭を抱え込んでいる。
となればここは俺がやるしかない。
かといって長期戦は不利。血が足りなくなり動けなくなってしまう。
故に、いつになるかわからないシャミナの回復を待っていることは出来ない。
やや有利に戦いを運んでいたと思われたが、仕組まれていた鈴の音と仕込まれていた雷の魔法刀によって立場が逆転。一気にこちらが危機に陥ってしまった。
ここから俺は再逆転しなければならない。いや、するのだ
「いくぞ!」
目を見開き、決意の声をあげる。
覚悟は決まった。ここからは力の限り攻めて勝ちを掴みにいく!
「来なさい!」
駆けだした俺は左手を掲げ手裏剣をイスズズに向かって連射。
イスズズは錫杖を旋回させ飛来する手裏剣を弾いて防御。
俺は防がれつつもおかまいなしに手裏剣を飛ばし、イスズズを中心として円を描くように駆け回る。
巧みな杖捌きで手裏剣を防ぐイスズズ。まもなくして杖の先に魔法組成式が顕れる。
防御しながらも魔法を放つつもりのようだ。
行くしかない!
俺は急に方向転換。今度はイスズズに向かって突進していく。同時に鉄の指輪をダマスカスハウルに重ねておく。
俺の動きに合わせるように、イスズズが魔法によって火球を放つ。
燃え盛る火の球と俺が向かい合い、疾走によって瞬時に距離が詰まっていく。
火と俺が真正面からぶつかる寸前、ダマスカスハウルにプラーナを注ぎ、盾を顕現。
火の玉を鉄の大盾で防ぎつつ、イスズズの元へひた走る。
俺はイスズズの手札をまったく知らなかったが故、苦戦してしまった。お前にも未知の技を味わう怖さと愉快さを教えてやる!
全身に火の粉が降りかかりつつも炎を突破した俺は、視界が塞がれることをいとわず、大盾を掲げたままイスズズへ突進。
すぐに前方から特大の包み紙を勢いよく破ったような雷音が聞こえてくる。
どうやらイスズズは、先に使った雷刀で俺を迎え撃つつもりらしい。
盾で斬撃を防いだとしても、雷を盾へと伝達させ、さらに盾から俺の身体へと電撃を伝播させて、身体を痙攣させる算段なのだろう。
「うらっ!」
俺は大盾を前にし、視界に映らない雷刀を無視しそのまま体当たりをかます。
――――と、みせかけて。
瞬時に大盾を鉄指輪の状態へと戻す。連動して半身になりつつ、さらに右手の剣を突き入れる。
「なっ!」
大盾が唐突に消失し虚空が生まれ、その空間に間断なく銀剣の突きが放たれたことにイスズズが驚愕。
俺の方も彼女の振り下した雷刀を半身になって躱すも完全に避けきることが出来ず、腹が浅く裂かれる。
「くうっ!」
腹を刺されたイスズズが苦悶の声をあげるも、執念で俺の腹に触れている刀の先から、雷を傷口へと這わせていく。
「っ!」
激痛が迸り、雷撃により俺の身体の自由が奪われてしまう。
イスズズが錫杖刀を振り上げ鞘を捨て、これが止めとばかりに両手持ちで大上段に構える。
問題ない! 身体が動かずとも、俺の意思は止まらない!
俺は右手に持った銀剣にプラーナを流し込む。
イメージするのは化け物を屠るための大型大剣ではなく、槍よりもはるかに長い、規格外の長剣。
意思がプラーナに伝わり、想いのこもったプラーナが銀剣に伝播した刹那、銀剣が俺の意思に応え形をかえていく。
剣身一メーテルほどだった銀剣の先が猛烈に伸び始める。
「なんっ!」
驚愕するイスズズを余所に、刺さった剣が伸び始め、彼女を後方に押し込んでいく。
「なんたる面妖な剣!」
「るうううおおおっ!」
イスズズのふんばりで剣の伸長が止まりかけるも、怒涛の勢いで銀剣にプラーナを注ぎ、鍔から生える剣身を強引に伸ばしていく。
「むううう!」
その場に踏みとどまろうとするイスズズの踵が石畳を削りとっていくと、彼女の身体が後ろへと追いやられていく。
剣身を限界まで伸ばした結果、イスズズと俺との距離はおよそ十メーテルを越えていた。
「せいやっ!」
俺は息つく間もなく腕に力をこめ、さらには加護の力を発動させながら十メーテルを超える長剣を勢いよく振り上げる。
剣の先に刺され縫いとめられたイスズズを空高く放り投げ、同時に銀剣を指輪形態へと戻す。
すると、イスズズに刺さっていた剣が消失し、彼女は空に放り投げられた状態となった。
同時に、俺の方は金の指輪をダマスカスハウルに重ねプラーナを流し込み、必殺の杭打ち機を左手に顕現。
連撃の締めは、俺の持つ最大攻撃である杭打ち機に託すことにした。
さらに銀の指輪を再びダマスカスハウルに重ね銀剣を生成、右手に持って剣の先を地面の石畳に突きたてる。
「勝負!」
裂帛の気合いと共に、剣にプラーナを流し込み剣身の長さを伸ばすと、地面に突き刺さった剣が伸び始め、柄を握る俺の身体を空に放ったイスズズの元へと押し上げていく。
銅・鉄・銀・金の四種の指輪から生成される、飛び道具、盾、剣、杭打機。
この四つの武器を組み合わせることが俺の基本戦術であり、同時に切り札にも成り得る。
事実として、今も全ての指輪を使うことでイスズズの意表をつき、隙を生み出し、好機を造り出したのだ。
空から落下を始めたイスズズを、左腕に無骨で巨大な杭を携えた俺が迎える。
「せいやああっ!」
俺は巨人の腕の如き拳を引きしぼり、錫杖刀を構えかろうじて防御姿勢をとるイスズズの腹へと打ちこむ。
「くっ」
イスズズが咄嗟にはった防御結界をとっ突きで強引にこじあけ、さらに斜めに構える錫杖刀を砕き腹へと杭を突きたてていく。
――――手ごたえあり!
左手には不可視の壁を破りイスズズの胴をとらえた感触。
俺は再び銀剣を指輪状態に戻しつつ、突き出した左腕の勢いを利用し、イスズズを巻き込んで空中で反転。
落下が始まると共に、イスズズを大地に押し付けようと空いている右手で彼女の身体を掴み強引に固定。
「見事、だ」
拘束から逃れようとするイスズズだったが、錫杖刀は折れ、腕力で強引に押さえ込まれ、自身の膂力では対抗できないと察したらしく、讃嘆の言葉を紡いでいた。
剣技と魔法の融合は脅威だったが、イスズズには力が足りなかった。
結果として、最後は力で押し込むことが出来た。
杭を突き立てたままイスズズを石の地面へと叩きつける。
鈍い音が響き石の地面へ激突。落下の衝撃により、放射状に石が割れていく。
「死んでも恨むなよ!」
俺は連撃の最後として、プラーナの弾を装填した杭打ち機の引き鉄を引く。
張りつめた風船が破裂したような音が響きわたり、筒の中に装填したプラーナが弾け杭が押し出される。細かい光の粒が筒内から外へ舞い散り、杭が穿たれた衝撃により、地に転がる石ころが震える。
イスズズの肉を突き破り、杭はさらに石を掘削していく。
腕を引き抜くと、イスズズの胴が野太い杭に穿たれ千切れ、上半身と下半身が分かれてしまっていた。




