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第2話 形見

優美は校内を迷いながらも駆け足で、なんとか屋上に着くとすでに坂上という男子生徒が待ち構えていた。



「…遅いぞ」


「す、すみません…!」


「まあいい。単刀直入に言う」



息を整える暇もなく、彼はゆっくりと優美に近付きながら話を進める。



「お前、クロスのネックレスを付けているだろ」




「え…?」




確かに優美の胸元にはキラリと光るクロスの形をした美しいネックレスが付いていた。


その端には、赤、青、黄、緑色をした四つの小さな玉がついており、不思議な造形をしている。


何故、彼はそれを知っていたのだろう。


制服の中に入れ、見えないように身に付けていたはずなのに。




「どこで手に入れた?」



「これは私の両親の形見ですが…」



そう、優美には両親がいなかった。

幼い頃に交通事故で亡くしたのだ。


このクロスのネックレスは毎日母親が身に付けていたもの。


両親を亡くした日から、優美はそのネックレスを肌身離さず身に付けるようになったのだった。




「お前、能力者じゃないのか?」




優美はジリジリと壁に追い詰められる。




「能力者? 何を言って…」




「いいか? そのクロスは特別な力が宿っている。ただの人間が持つべきものじゃないんだ」




優美は彼に強く両手首を掴まれ、身動きを封じられてしまった。




「やめてください! 能力者って…、何なんですか!? 訳が分からないです、そんな、いきなり…!」




優美に構わず彼は淡々と言葉を続ける。


 


「俺の名前は坂上温人さかうえはると。自殺した者だ。この世界の闇の勢力を消すことを条件にもう一度生きるチャンスを得る事が目的だ」




優美は状況が全く掴めなかった。


彼が何を言っているかもよく理解出来ず混乱するしかなかった。


それでも温人の力は弱まることを知らず、優美の手首を掴み、そのまま壁に強く抑えつける。






自殺?


もう一度生きるチャンス?




訳が分からない優美だったが、ふとその時、事故に遭った直後の息も絶え絶えの両親の最後の言葉が脳裏をよぎった。




――優美、どんな困難があっても、運命だと決めつけないで…、運命は変えられる、から…




――優美なら出来る……、まっすぐに生きるんだ。父さん達は、いつもお前の近くに……






そう言って両親が優美に残したクロスのネックレス。


優美にとって何よりの宝物である両親の形見がなぜ奪われそうになるのか。




優美は状況に付いていけず、呆然としながらも温人の言葉の続きに耳を傾けた。




「俺は生前、世の中の不平等さに絶望して自殺した。運命なんて変えられないってな。それでもなお、生きたいと思ってしまった…。おかしいだろ? それでも俺はもう一度生きたいんだ。このチャンスは必ず掴む。その為にはそのクロスが必要なんだ」




温人がふと、自身の制服のポケットから何かを取り出した。


よく見るとクロスのネックレスだった。


彼のクロスは中心に赤い玉が埋め込まれている。


次の瞬間、突然それは輝きだす。


光は温人の身体を包み込み、黒い服に身を纏まとった別の姿へと変身した。




「な…、何が起きてるの…?」




「大人しくクロスを渡せ」




無理やり優美のネックレスを奪おうとする温人の力は、先程とは比べ物にならなかった。




何が何だか分からない中でも、優美は真っ直ぐに温人を見つめ静かに口を開く。




「…本当にこれで良いんですか?」




「何?」




「運命が全てじゃないです!」




キッと力強く温人を見つめ反論する優美。




その瞬間、今度は優美のクロスが輝き出し、眩しい光に包まれた。


それと同時に温人の姿は元に戻ってしまった。




「くっ…! 変身が解けるほどの力…!? これは…!?」





あまりに眩しい光に耐えられず目を閉じる温人。


光が収まると同時にゆっくりと目を開けば、今度は優美が別の姿に変身していた。




その姿はまるで別人だ。


ボブくらいの長さの髪は長くなり、クロスは胸元へ、そして優しいピンク色の変わった服に身を包んでいる。


それはどこか神々しく、まるで天使のような美しさ。




今度は温人が混乱を隠せずに目を見開き彼女を見つめた。




「お前、その姿は…! 能力者だったのか…?」




「な、なにこれ…」




戸惑う優美と温人は状況が飲み込めないまま立ち尽くす。




「…なんだかワケありみたいね」





振り向くと、先程優美がぶつかった、赤髪のパーマをかけたロングヘアの女子生徒が立っている。




「空奈くうな、いたのか」




「ええ、温人。一部始終見てたわ。驚きね…、こういうパターンもあるのかしら…?」




状況にまったくついていけない優美に構わず、二人は知り合いなのか、淡々と話を進めている。




「ど、どういうこと…? 何が起きているのですか…?」




空奈は優美に近付き不思議そうに見つめながらも言葉を続ける。




「あなたは今、能力者として覚醒したのよ。そうとしか考えられないわ」




転校初日。平凡な高校生活を送るはずだった。


それなのに、この状況は一体…。





「なにが起こっているのでしょう…?」





「あっちゃー! 間に合わなかったかー!」





落ち着く暇もなく、今度は緑色の髪をした赤い目の少年が突然空から舞い降りてきた。





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