617.【後日談7】猫パ その20
・トミタ(猫)視点
ふむ、バトルロイヤル相撲、リングの外に出たら残機減少、残機が0になったら失格、か。
「にゃー(質問だが、残機は班ごとになっているのか? それとも個人で別々になっているのか?)」
「にゃ!(もちろん班ごとだよ!)」
つまり、だ。
例えば俺が、いくらリングの中で頑張ったところで、班の誰かがリングの外に出て残機が無くなってしまえば、負けてしまう。
逆に言えば、俺やケンイチ君のような、1対1では到底勝てない相手が居ても、うまく立ち回れば勝てるというわけか。
「にゃー(もう1つ質問だが、リングの外に出た者が再びリングの中に入ることは可能か?)」
「にゃ!(可能だよ! そのままリングの外に居てもいいよ!)」
なるほどな。
「にゃー(よーし、だいたいわかった。今から作戦会議にするか)」
言いつつ、俺は四次元空間から、ありったけの自慢の魔道具達を取り出す。
「にゃー(まずはこいつの使い方だが……)」
「にゃ!(こーらー! 生命活動に必要な魔道具やスキル以外は、使用禁止だよ!)」
「にゃー(そんなルールは聞いてないぞ)」
後からルールを追加するのはやめてもらおうか。
貴重な相談時間が20秒、無駄になったじゃないか。
「にゃー(仕方ない。魔道具にならない程度の道具を錬金術で作って……)」
「にゃ!(だから、生命活動に必要な道具以外は、ダメー!)」
「にゃー(そんなルールは聞いてないぞ)」
「にゃ!(己の肉体と、リング内のギミックだけで戦ってね!)」
「にゃー(最初からそう言えっての)」
貴重な相談時間がさらに30秒、無駄になってしまった。
とりあえず錬金術で、簡易的に空気の壁を作り、作戦会議の声が漏れないようにする。
「にゃー(改めて作戦会議だが、おそらく俺とブラディパンサー、猫トラあたりは、身体能力に制限をかけられるだろう。
だから俺達の戦力にはあまり期待しないでもらいたい)」
ブラディパンサーは赤い豹の魔獣で、しかも魔獣幹部達より強い。
猫トラは図体が大きく、突進すれば普通のネコ科魔獣ならぶっ飛ぶ。
「にゃー(おそらくだが、この3種目目の勝利の鍵は、ゴースト・キャットだろう)」
「ピィア(俺が? 言っちゃ何だが俺はそんなに強くねぇぞ?)」
「グルルゥ(むしろ弱いの~♪)」
「にゃー(だが体を透明化出来るだろう?)」
「ピゥッ(出来るが、ネコ科魔獣ならば普通に触れられるし、浮遊禁止のルールだぜ?
俺の体の特性は役に立たなそうだがなぁ?)」
ま、それはゴースト・キャット単体で見た話だ。
「にゃー(ネコ科魔獣は、動体視力こそ優れているが、視力はそれほどでもない。
つまり動く物をきちんと見ていない。そこでゴースト・キャットの体の特性だ)」
「ピァ?(???)」
「にゃー(まぁ俺に任せておけ。一緒に勝つぞ)」
俺は詳しい作戦会議を始めた。
◇ ◇ ◇ ◇
・ゴースト・キャット視点
半霊半ネコ、それが俺ことゴースト・キャット。
父はネコ科魔獣、母は精霊魔獣。
そして俺ぁ、両親の特性を半々ずつ受け継いだ。
その両親は俺を産んで5年で、仲良くこの世を去った。
特性を受け継いだとはいえ、俺ぁネコ科魔獣としても、精霊魔獣としても中途半端。
だからネコ科魔獣なら普通に出来る簡単な狩りが、俺ぁ出来ねー。
精霊魔獣なら普通に出来る精霊スキルも、俺ぁほとんど使えねー。
そして中央都市チザンでは、俺の地位は下っ端も下っ端。
魔獣の世界では、力こそ正義。
子どもの頃の俺ぁ、弱者として扱われていた。
大人になり、両親の庇護も無くなった俺ぁ、とにかく頑張った。
ネコ科魔獣らしからぬ、透明化による卑怯な狩りを行うようになった。
精霊魔獣らしからぬ、血を吸うことによる魔力吸収も行うようになった。
生きるために手段を択ばなかった。
だが他の魔獣からは卑怯者、邪霊扱いされるようになった。
中央都市チザンに官僚制度が導入されて、戦えない魔獣の地位も多少は良くなったものの。
いまだに世間の、弱い魔獣への扱いは悪い。
どうしてこんなに頑張っているのに、俺ぁ半人前の扱いなのだろう?
生まれ持った能力が低いと、努力してもどうにもならねーのか?
舐められないように強気の態度を取っているが、結局どこに行っても俺ぁ雑魚扱い。
俺ぁ、生まれた時から負け組だったわけだ。
だが、この猫パに参加し、肉球魔王様に出会い、
肉球魔王様は、ただの1度も、俺の事を半人前扱いしなかった。
魔獣都市マタタビのネコ科魔獣達が、やたらと肉球魔王様を敬う理由を何となく理解出来た。
強いだけじゃなく、優しいというかお人よしというか、人徳、いやネコ徳があるというか。
この3種目目、俺が鍵となるらしい。
これほど期待されたのは、生まれて初めてだ。
オス猫なら、やるしかねぇよなぁ!