031 夜の依頼
モフモフと睡眠をたっぷりとって心身ともに復活し、ようやくみんなから外出許可を取り付けたのは十日後だった。ノンちゃんはどことなくげんなりしている。ちょっとモフモフしすぎたかな。たまにはいいよね。
「依頼請けてきますね」
「軽い依頼にしなさいよ」
ベルさんから注意を請けつつ気合を入れて宿のドアを開けると……空気が熱い!
「暑っ」
「おい。いきなり夏かよ」
突然の暑さに私とノンちゃんは慄いた。
店の出入り口で騒ぐ私たちにベルさんが教えてくれた。
この世界にも季節があるらしい。しかし四季の間の初夏や初冬などは無く、突然春から夏へ変わる。それが二日前だったらしい。太陽どうなっているのだろう。そもそも今まで春だったのか!
ロボちゃんとシホちゃんにとっては常識なので不思議そうな顔をしてこっちを見ている。事前に教えておくれよー。
季節を知らなかった私は当然夏服を持っていない。購入するほどの蓄えも無い。十日間収入無しだったのはかなり痛い。ヤバいね。暑さ凌ぎに袖を捲って応急処置をする。
暑さに対しノンちゃんとぶちぶちと文句を言いつつギルドのドアを開けると、誰かがカウンターを乗り越えてこっちに走ってくる。あれは…ティーノさん?なにごと?!
「シシシシシシホちゃん!ちょっと君をじっくり見てもいいかな?!」
「きゃー!なんですの?!」
ティーノさんは、逃げ遅れたシホちゃんを握りしめてハァハァしている。
「君は龍なんだよね言い伝えでは山より上に浮かんだ巨大な龍ってことだけど君はこれから大きくなるの普段どこに住んでるのなに食べるの好き嫌いあるブレスは何系がいけるのどうしてカノちゃんと契約したの翼は無いの古龍って火龍や水龍とかと何が違うの」
ノンブレス!
これは龍好きというよりマニアだ。マニアが本物を見た時、はしゃぐタイプと固まるタイプがいるけど、先日のティーノさんは固まるタイプだったようだ。で、今日ははしゃぐというよりリミッターが振り切れたとみえる。普段の軽い話っぷりと、仕事に関しては真面目な言動しか知らないのでこれはこれでギャップだ。…悪い意味で。
「はっ。放してくださいですわ!」
ボグッ!
「落ち着きなさい、バカ弟よ」
捲し立てていたティーノさんが横に吹っ飛び、後ろからアレグラさんが出てきた。止めていただきありがとうございます。ティーノさんの側頭部に巨大たんこぶが見えるが気にしてはいけない。
「怖かったですわ」と涙目のシホちゃんをよしよししつつ、アレグラさんに心配をかけたことを詫び、その上で依頼を請けたいと伝える。
「…カノちゃん、無理は厳禁だからね」
眉間に皺を寄せながらそう言いつつ紹介された依頼は“夜限定”だった。
《 ランクF 月夜に月凪草の夜露集め 報酬…一瓶5000N 》
月夜、川辺の月凪草につく夜露を集め。ポーション、MPポーションを作る際、月光を浴びた月凪草の夜露を使うとランク上のハイポーション、MPハイポーションを作れる。よって薬師からしばしば入る依頼だが、数日かけて一瓶というのが面倒で請け負う冒険者があまりいないらしい。…あれ。前回もこんなだったような。
月凪草が生えている川辺は街を横切る小川なので魔獣出没の心配は薄い。しかも月が出るのは日没後2時間のみ。太陽と同じく月の動きを気にしてはいけない。異世界の常s(ry)
長時間でもないし深夜にもならない。体力が落ちていて遠出はしなくない私たちにはうってつけの依頼だ。
即決でその依頼を請け、道具屋で栄養ドリンク瓶くらいの瓶を3つ購入して一旦宿の部屋へ戻る。
安全性に問題はほぼないと考えられるし、夜露集めに戦闘は必要としないのでノンちゃんとシホちゃんがいなくても大丈夫だろう。荷物も瓶一つだからロボちゃんもね。
「三人共、今回の依頼は休んでてね。数日で終わるだろうから好きにし「ついて行きますわ!」」
「夜露集めるだけだよ?」
「わたくしはいつでもお姉さまと一緒ですわ」
若干ストーカーだけどいいか。
「俺も行く」
ノンちゃんも?
「でも魔獣とか出ないと思うよ?」
「万が一があると困るからな。夜目も利くし」
「そっか。じゃあ悪いけどお願い。ロボちゃんはどうする?」
「キュウ」
「降りると思うか?」
うん、ノンちゃんの頭上から降りそうにないね。
私は「依頼をカノコだけに任せたら危なくて休んでいられない」とノンちゃんが思っていたとはついぞ知る由もなかった。
失礼な!
2015/08/28 「栄養ドリンク瓶くらいの瓶」追加。
瓶の数 1→3 に変更。




