010 猫じゃなかった
どれくらい泣いていただろう。気が済むまで泣いてようやく帰らなければという思考に至る。慌てて町へ戻り始めるが、私は歩いていない。
「ありがとね、ノンちゃん」
「……」
腰が抜けて歩けずノンちゃんの背中に乗せて(しがみつかせて)もらっている。情けない状態だけど頬の緩みを隠しきれない。“ノンちゃんの背中に乗っている“。動物の背中に乗るという夢が異世界で叶うと思わなかった!嬉しすぎる。
しがみつく私の背中にはモグーの討伐証明部位である前歯が大量に入ったリュック。巨大モグーは部位がわからない為そのまま持ち帰ることにした。但し大型犬くらいあるのでリュックに入るはずもなく。ノンちゃんに咥えてもらっている。
「いや~。ノンちゃんの毛はクロヒョウでも触り心地いいねぇ」
なでなでさわさわもふもふ
「………」
「大きいけどこれはこれでかわいい!」
「………」
怒っているようだが、巨大モグーを咥えていて喋れない。ここぞとばかりに触りまくる。後が怖いけど、目の前にこんな良い物があるんだから逃すわけにはいかないわ!もふもふ。
町の入口に着いたら大騒ぎになってしまった。巨大モグーを咥えた体高1メートルのクロヒョウと、その背中にへばりつく女。傍から見ると意味不明すぎる。そりゃ騒ぐな。
門番さんと野次馬に囲まれてしまい、テンパって「アレグラさん呼んでー!」しか言えなかった。
「本当にノンちゃんなのね」
「この尊大な態度と白ソックス脚はノンちゃん以外いません」
「お前は黙ってろ」
以前、ステータスを見て固まったアレグラさんのおかげで「クロヒョウはノンちゃんなの」しか言えない私の説明を理解し、周囲を退けてくれてなんとか人ごみから抜け出してギルドへ。個室にて3人でお話という名の詰問中である。
「クロヒョウとあったけど記載間違いかと思ったわ」
「私はノンちゃんに言語の加護があったことに驚きだよ」
「ノンちゃん言うな。ずっと言いたかったんだが俺はノクターンだ!」
そう。ノンちゃんの本名はノクターン。母がつけた。しかし私はかわいい名前がよかったので「ノンちゃん」と呼んでいる。不満だったのね。変える気ないけど。
それと巨大モグーはモグーキングというらしい。討伐証明部位は巨大前歯だった。
「子供でも知ってることでしょう。なんで知らないのよ」
「ラクビトですから」
「あ、そうだったわね。迂闊!常識の違いに気付かなかったわ」
「私も異世界にテンション上がって、そういうことから目を背けてました」
「まずはこれを覚えて。近い狩場の魔物は網羅されているわ」
『子供でもわかる☆図解魔物図鑑』
拙い魔物の絵とともに特徴とランクが書かれている。これらは一般常識レベルらしい。モグーキングも載っていた。
『モグーの巣に稀に王として現れる。ラケット手で殴られたら粉砕骨折レベル。ランクDなのでランク不足で遭遇したら即逃げること。』
逃げられる状況じゃなかったよ!
「そういえばモグーキングはどうやって倒したの?凄い音がしたけど」
「殴った」
「つまり猫パンチ?」
ワンパンか。もしかしてノンちゃんて強いのかな。よくわからない。
「もう猫には戻れないの?」
「戻れる。というか成れる」
「それも不思議ね」
「寝る時狭いから猫になってよ」
「ちっ。しょうがねえな」
「…こんなに生意気な猫だとは思わなか(うぷっ)」
顔面に肉球を押し付けられる。鼻と口が覆われるなんて猫型時よりかなり大き……苦しい!力いっぱい両手でずらす。
「ハァハァ。窒息するわっ」
「あんたたち、明日から周りが騒ぐだろうけど頑張ってね」
「うぇぇ、メンドクサイ」
「死ななかった代償として我慢しろ」
「メンドクサイものはメンドクサイ。でもこの手触りがあるなら我慢する(もふもふ)」
「…お前ほんとウザいな」
お父さんお母さん。うちの猫はめちゃくちゃ口が悪かったようです。




