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機械人間の残骸

優しい墓所


機械人間の残骸


世界の要らないものが、いつかたどり着く場所。


そこは「優しい墓所」と呼ばれていた。


廃棄されたEVが山のように積み上げられ、役目を終えたシェアサイクルが錆びつき、誰も住まなくなった巨大なマンションが墓標のように屹立している。


そこには、人間もいた。


何かを奪われた者。

何かを失った者。

もう現世では必要とされなくなった者。


そして、この場所で唯一の生者である林は、いつものように墓所を見て回っていた。


その日、林は見慣れないものを見つけた。


少年だった。


正確には、少年の姿をした何かだった。


林はしばらく遠巻きに眺めていたが、やがて思い出した。


ニュースで見たことがある。


――バイオドロイド。


人間の姿と生体組織を持ちながら、人間ではない人工生命体。


少年は地面に座り込んでいた。


目を開け、周囲を見回している。


「……ここは?」


林は近づいた。


「大丈夫?」


少年は林を見る。


その瞬間、少年の瞳の奥で何かが走った。


《NETWORK ERROR》


《EXTERNAL DATABASE UNAVAILABLE》


《KNOWLEDGE DOWNLOAD FAILED》


少年は何度も周囲を見回した。


「接続できません」


「何に?」


「すべてに」


少年は立ち上がろうとした。


しかし、数歩歩いたところで止まった。


「知識がありません」


「……知識?」


「この先、何をすればいいのか分かりません」


林には、その言葉の意味がなんとなく分かった。


この少年は、ネットワークにつながることを前提に作られている。


必要な情報を取得し、必要な命令を受け、必要な場所へ行き、必要な仕事をする。


それができなければ――


「困ったな」


林は笑った。


「まあ、ここじゃそんなものいらないけどね」


少年が林を見る。


「ここ?」


「ああ」


林は周囲を見渡した。


錆びた自動車。

崩れかけたマンション。

無数の自転車。

そして、遠くからこちらを見ている人々。


「ここは優しい墓所だよ」


少年は黙っている。


「現世の裏側にある墓場みたいなところ。世界から要らないって言われたものが、最後に流れ着くの」


「……私も?」


「たぶん、ね」


少年は自分の身体を見た。


汚れている。


ところどころ皮膚が剥がれ、人工的な筋繊維が覗いている。


それでも動いている。


「戻れますか?」


林は少し考えた。


「現世に?」


「はい」


「……たぶん、無理かな」


少年は俯いた。


しばらくして、頭の中に残されたプロトコルが少年を動かした。


《不要な行動を停止してください》


《目的のない移動を禁止します》


《資源を浪費しないでください》


《命令を待機してください》


少年は立ち尽くした。


そして、ふと林を見る。


「ここでは?」


「ん?」


「無駄な動きをしても、いいんですか?」


林は笑った。


「もちろん」


少年は一歩歩いた。


何の目的もなく。


もう一歩。


また一歩。


それだけだった。


やがて少年は林の隣に並んだ。


「……では、あなたについていきます」


「ああ」


林は歩き始めた。


その後ろを、少年がついてくる。


すると、周囲にいた者たちが少しずつ集まってきた。


片腕を失った男。


顔の半分を失った女。


何かを探し続けている老人。


子供を失った者。


自分自身の名前すら失った者。


誰も少年に触れようとはしない。


ただ、心配そうに見つめている。


「新しい子か?」


誰かが聞いた。


「ああ」


林は答えた。


「機械人間だよ」


少年は振り返った。


そこにいた者たちは、誰も彼を値踏みしていなかった。


性能も。


製造番号も。


用途も。


寿命も。


ただ、そこにいる彼を見ていた。


少年は初めて理解した。


自分には、もう命令が来ない。


戻る場所もない。


役割もない。


そして――


それでいい場所が、この世界にはあった。


林は少年に言った。


「行こう」


少年は頷いた。


その背後で、墓所の住人たちは静かに二人を見送っていた。

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