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推し見守り日記~見守りたい彼女と捕まえたい彼の攻防記録~  作者: 池中織奈


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プロローグ

 前世の記憶を思い出したのは、幼い頃のことだった。

 元々国名などを聞いた際に、違和感があった。初めて聞くはずの単語を私はなぜか知っていた。




 それがどうしてなのかその時まで分かっていなかった。




 ――ノルケーシア・チェレンダ。

 その名を聞いた時に、私は電撃が走ったのだ。だってそれは私が前世で愛してやまなかった乙女ゲームに出てくる推しだったから。




 私が住まうガルディ王国は、五つの有名な侯爵家が存在している。彼等は国を覆う結界を維持し、国を守る剣でもあった。




 ノルケーシア様は、そのうちの一つの嫡男である。ただしその人生は平穏とは言い難いものだった。

 ノルケーシア様のスチルを全て見るために様々なエンドを見た。ほとんど全てのエンドを見たと言いたいところだが、隠しルートなどは見れていないだろう。

 ファンブックも購入し、イベントにだって参加した。

 ノルケーシア様に出会って、推しになってからというものの、推し活に必死で恋愛なんてものもしてこなかった。




 中学生の頃に出会い、ずっと推していた。

 私が大学生に入る頃に出た続編ももちろん、プレイしていた。ノルケーシア様のことを攻略出来るのは一作目だけだったけれど、続編でもノルケーシア様のことを見られることが嬉しかった。

 だけれども……続編ではノルケーシア様が闇落ちする展開もあった。




 もちろん、彼が幸せになるエンドもあったけれども……。私はノルケーシア様が不幸な目に遭うのが苦しすぎて、大泣きしていたものである。夜中に電話をかけて幼なじみに「ノルケーシア様が……っ!」と語ったら呆れながらも付き合ってくれた。




 ショックすぎて大学を数日休んだりもしたことがある。どれだけゲームに必死なんだと思われてしまうかもしれないが、私にとっては大好きなゲームだった。




 大学を卒業する時にも、私のノルケーシア様愛は止まらなかった。 

 ――私が生を終える瞬間も、私はノルケーシア様に夢中だった。就活を終え、来年から新しい生活が始まることに胸を高鳴らせていた。




 引っ越しをする前にまたノルケーシア様に会いに行かなければ。

 就職して忙しくなったら、ノルケーシア様の声を聞く暇もなくなるかもしれない。ノルケーシア様のことを考えて胸がいっぱいで、私は妄想ばかりをしていた。

 だってヒロイン相手に見せるノルケーシア様の様々な一面のことを考えるだけで幸せだった。

 そしてノルケーシア様のことばかりを考えていた私は信号無視をした車に引かれて、その生を終えた。





 ――そして私は大好きな乙女ゲームの世界にクライネア・ルーファブルという少女として生まれ変わった。

















「やっと見つけた。俺の天使」

「……ななななな、何の御用でしょうか!!」





 私は今、窮地の中に居た。目の前にはこの世で最も美しいと私が思っているお方――前世からの私の推しであるノルケーシア・チェレンダ様の姿がある。




 美しい橙色の髪と、瞳を持つ青年。

 私は平均よりも背が低いから、より一層ノルケーシア様のことが大きく見えた。




 乙女ゲームの世界に生まれ変わって早十七年。……推しには近づくべからず、陰から見守りその生活を邪魔することべからず。その信念の元、行動をし続けた。

 だからこのように至近距離でノルケーシア様のことを見るのも当然初めてのことだ。





 顔が良い。声が良い。何もかも素敵。

 そんなノルケーシア様に私は学園で壁ドンをされていた。私はモブとして目立たぬように過ごそうとそう思っていた。

 だから見た目だって目立たないものに変えていたし、息を殺していた。





 私のちょっとしたヘマで、私の存在は……もしかしたらノルケーシア様に知られていたかもしれないけれど、推しの幸せを望む私はそれを邪魔したくなかったから徹底的にばれないようにしていたつもりだった。

 なのに、どうして推しから“俺の天使”などと言われているのか甚だ疑問である。私は大混乱だ。




「可愛いな」



 そんな言葉を囁かれて、私は身体をびくっと震わせる。お、推しが可愛いって言った!! なにこれ? 夢??




「クライネア」



 推しが私の名を呼ぶ。

 その声が想像よりも甘くて、私は驚いた。



「――もう、逃がすつもりはないから」



 そしてそんな宣言をされてしまった。








 ど、どうしてこんなことに!?

 私は戸惑いながら、過去へと思いをはせる。


 ――そう、私が前世の記憶を思い出したのは今から十年も前のことだ。


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