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57話 スキード・ワゴン倒れる

 例によってヒキャク鳥車で爆走に次ぐ爆走で飛ばした結果。

 人間の住む領域からそれなりに離れた場所にある第四試練の場に、かなり短い時間でたどり着いた。

 ポルマレフの兄ちゃんは元気よく荷台から飛び降りると、ポーズをつけて景色を見回した。


 「よーしよし! 絶景かな、人外の領域! ここにいるってぇ鬼人オーガのボスのオーガ・チャンピオンを倒すのが第四試練の内容だ。今日はここでキャンプして明日からクエスト出発だ。シーザ、がっつりしたメシ頼むぜ」


 超人か、この兄ちゃん!

 こっちは内臓がひっくり返ってメシなんか入りそうもないってのに。


 いや、そんなことより深い疑問が俺の頭をよぎった。

 この場所は人外の魔境だけあって、果てしなく深い森がどこまでも続いている。

 さらにあちこち、険しそうな崖や岩肌なんかも見えている。

 さらにさらに、森のあちこちから狂暴そうな魔物のうなり声が聞こえてくる!

 この森に入るだけでもAランク相当クエストだってのに、オーガのボスを討伐だって?


 「エルフィリア、期間はあとどれくらいだっけ?」


 「あと14日ですね。ここまで時間を短縮できるなんて、さすがはスキード・ワゴン財団です」


 あと14日でこの森を進んで、オーガのボスを倒す⁉

 いや、最終試練への移動時間を考えれば、もっと短い!

 無理だろ、どう考えても!


 …………いや、ド田舎Ðランク冒険者の常識で考えるのは待った方がいい。

 幸いここには、斥候探索の専門家Aランクレンジャーがいるではないか。


 「なぁウサウサ。Aランクレンジャーとして聞きたいんだが、かつての【緑の大樹】がフルメンバーでこのクエストを受けるとしたら、どのくらい時間がかかる?」


 「二か月だね。もっとも標的が鬼人オーガの大物じゃ、ウチら単体でやるのは危険すぎるから、他にも腕のたつパーティーを参加させるけど」


 だよなぁ。

 このポルマレフ兄ちゃん、大丈夫か?


 「あの、ポルマレフさん。この試練はどのくらいでおやりになるおつもりで?」


 「んん? なんだ口調が変わったぞシーザ。まぁちっとは範囲がデカイし、5日くらいはかかるかな」


 ヨロリ……


 「ポ、ポルマレフさん……スピードに狂いすぎて、常識までもどこかへ飛んでいる? いや、まさか頭が魔素病に⁉」


 しかし、頭ヤバイ奴におののく俺に対して、女達は冷静だった。


 「落ち着きなさいシーザ。トップクラスの冒険者は、わたし達の思いもよらないスキルを持っているものです。ましてや相手はあの世界一と言われるスキード・ワゴンのパーティー。5日で何とかできるのでしょう」


 「そうそ。たかだかAランク端くれの常識なんか参考にならないって。あのおじいちゃん、あの年で現役のレンジャーなんだよ。世界最高の冒険者になれるスキルがあるんだよ」


 そうだ。たしかに身軽さや機敏性を要求されるレンジャーという職業において、スキード・ワゴンはあの年で現役のレンジャーをつとめている。

 そしてあのジャウギがまったく不満をもっていないということは、そうなんだろう。


 ともかく俺達は仕事だ。

 安全そうな場所にテントを張り、食事の用意をする。

 しかししばらくすると、皆が同じ気がかりを抱えた。

 もう一台のヒキャク鳥車が、いつまでたっても到着しないのだ。


 「遅いな……やっぱあの揺れとスピードじゃ中の人間は耐えられないだろうし、スピードを落としたのか?」


 「いや。同じように見えて、あっちの車は最先端の魔法技術がつめこまれている。揺れもほとんどないし、自走する力もこちらと段違いだ。魔法にたけたアムドウルが御者やってんのはそのためだ。あっちがついてこられないなんてことはない」


 くそっ。王族様め。

 てめぇのクエストだってのに、付き合いの俺達にだけこんな地獄を味あわせてんのかよ。


 「とすると、やはりスキード・ワゴンの容態か?」


 途中でスキード・ワゴンの容態がかんばしくないとの話があった。

 そのため、クージーQキューがあちらに乗るようになったのだ。


 「スキード・ワゴンさんの容態はわたしも診ました。治癒術師として言いますが、スキードさんにこのクエストは無理です。ここで療養し、迎えを呼ぶことをおすすめします」


 「おいおい冗談じゃないぜ! じいさん抜きで、この試練をどうやって期間内にやれってんだよ!」


 先ほどまでの余裕から一転、いきなりポルマレフはあわてだした。

 この普通の反応に、安心してしまった俺がいる。



 「つまり試練のスピード攻略は、スキード・ワゴンのスキルあってのものだと?」


 「戦闘面じゃ俺とアムドウルでどうにでもなるがな。標的の探索は、じいさんがいないんじゃ、どうにもならん。スキルの名はS級探索スキル【遠見神眼】というんだがな」


 そのスキルの力とは、肉体はこの場に居ながら視線だけを遠方に飛ばし、その場所を観察するというスキルだそうだ。

 スキード・ワゴンはこのスキルの力であらゆる最高難易度のクエストを踏破し続け、莫大な財産を稼ぎ、財団を立ち上げるまでに至ったという。


 「それってノーリスク、ノータイムで危険な場所も偵察できるってこと? そんなレンジャーいたら最強じゃん! あ、できるから世界一冒険者なのか!」


 ウサウサが一番驚いてるな。

 やはり同じ職業は感じるものがあるってことか。


 「残念だが、この仕事はあきらめるしかないかもな。王家の威信がかかってるらしいんで、じいさんもあの年で引っ張り出されたんだがな。それでも、じいさんが死ぬのは王家としても本意じゃあるまい。このスキルは軍事にも重宝されているからな」


 なるほど。こんなスキルがあったなら、やはり一番使いたいのは軍事面。

 ノーリスクで危険な場所を偵察できるからな。

 しかしスキード・ワゴンがリタイアするとして、ジャウギは納得するのかね? 

 そのとき、ウサウサの耳が「ピクン」と跳ねた。


 「ヒキャク鳥車の音がする。スピードは遅いけど、無事についたみたいだよ」


 その言葉通りしばらくすると、低速でもう一つのヒキャク鳥車が到着した。


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