56話 巨乳聖女に誓う
エルフィリアは俺の体をあちこち調べて傷の有無を調べた。
「ケガはまったく負っていませんね。傍から見ても当たってはいませんでしたが」
「そうだったな。精神の方はプレッシャーでボロボロだけどな」
まったくエルフィリアの教えてくれた防御テクはたいしたもんだ。
あんな凄え連撃すら、シャボン・バリアー抜きで回避して捌いちまった。
「ふふっ。でもこの経験で、シーザはまた強くなれますよ。大物喰いは人を大きく成長させますから」
そして立ち上がり、一緒に来ていたクージーQに言った。
「クージーQ、シーザをお願いします。ジャウギ殿下がジョイスロウ殿下に余計なことを言いすぎました。彼のことも見ておかなくてはなりません」
「あなたの正体を言うの? ジョイスロウ殿下、あなたが死んだと思っているようだけど」
「まだエルフィリアとして出るわけにはいきません。クージーQも、黙っていてくださることを願います」
もうちょっと話していたかったんだけどな。
そう思いながらエルフィリアの小さな後ろ姿を見送った。
ふと視線を感じると、クージーQが俺を見ていた。
「ねぇあんた。どうして、こんな危ないことをしたの? いくら自信があったって、ジャウギ殿下に立ち向かうなんて正気の沙汰とは思えないわ。これから本気で狙われるだろうし」
「今さらだな。メディスン街で奴の手下を全滅させてからずっと狙われている。ジョイスロウ殿下に友情ってやつも感じているし、それに……」
遠くなっていくエルフィリアの背中をもう一度見て言った。
「強くなりたいんだ」
10年後までに。
エルフィリアは10年後にはたくさんの男達の心を奪う絶世の美女になってしまう。
それまでに俺自身が彼女を守れるだけの力を身に着けていなければ、手の届かない存在になってしまうだろう。
あと、いつまでも前世からの弟でいたくないしな。
クージーQは俺の視線で察したようだ。
「エルフィリアのために、か。アンタ、平民のくせに、やけにいい男だとおもったら、そういうわけだったのね」
「いい男? そんな評価をされたのは初めてだ。俺をおだてて何をさせるつもりだ。……ああ、自分の好きなメシでも作らせたいのか。何を作ってほしい?」
「バカねぇ。女のために強くなろうとする男って、いい男になっちゃうのよ。そういう男達、エルフィリアの側にいて、いっぱい見てきたんだから」
「そういうもんか。ま、彼女と会う前よりかなり強くなったしな」
思えば遠くへ来たもんだ。
この旅の終わりには俺はどうなっているのやら。
「で、強くなってあの娘の護衛官にでもなりたいの? 競走たいへんよ。下級貴族とか希望者いっぱいいるし」
「いや、エルフィリアを嫁にする」
クージーQはもの凄いあきれた目で俺を見た。
「…………アンタ、バカでしょ。身分差ってものを知らないの? エルフィリアは伯爵令嬢。さらに婚約希望者は王族、大貴族からいくつもきているのよ。アンタに割り込む余地あると思ってんの?」
「さーてな。あとどれだけ強くなれば、この先待ち受ける修羅場に生き残ることができるやら」
わかってはいたけど、改めて言われると険しい道のりだなぁ。
身分差で殴りつけてくる高貴な方々を出し抜いて、彼女を手にしなきゃなんないんだから。
けど、中身が兄貴なのは承知で、彼女を女として本気で好きになっちまった。
「また、あの娘に魅かれてバカな男が破滅するのね。本当に……バカね」
「けど、止められないんだ。俺が死んだら花でも捧げてくれ」
クージーQは何か言いたそうに俺を見た。
その目は微かにうるんで、遠いものを見るような目だった。
やがてプイッとそっぽを向いて言った。
「好きにしなさい、あなたの命だもの。あなたが死んだら、笑い話のネタにでもしてあげる」
「そりゃいい。クージーQはやさしいな」
俺が死んだあと、俺の無謀な冒険を語ってくれるなら、それは嬉しい。
クージーQは驚いた顔で俺を見たあと、また顔をそむけた。
一瞬みせたその顔は、ほんのり赤かったように思えた。
サブヒロインって、こんな感じでいいのかな?
ともかく第3章を終わります。
次回から第4章開始!
第四試練に待ち受ける罠と強敵の話になります。




