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18話 古巣と再会、そして別れ

 送り出した冒険者パーティーが屍生人(ゾンビ)になって帰ってきたことで、ギルド内はパニックになった。


 「いいい一体どういうことだ!? 山に行かせたアダムス達がゾンビになって帰ってきちまったーーッ!!」


 「そ、それより親爺(オヤジ)! ってこたぁ、勇者パーティーの奴ら、リッチの討伐に失敗してんじゃねぇか! こりゃ、上にも知らせなきゃならねぇぞ!!」


 「他にも、街にゾンビが化けている奴がいるかもしれねぇ! 警戒出そうぜ!」」


 そんな彼らの騒ぎをよそに、俺とエルフィリアはギルドの隅っこでこれからのことを話しあう。


 「どうやら【洗濯++(ダブルプラス)】とは、一種の魔法のようですね。対象物から異物を剥離(はくり)させる力を持つもののようです。特殊な解呪(ディスペル)能力といったところですか」


 「それよりこれ! アカラチア山に行った冒険者がゾンビになって帰ってきたってことは、勇者パーティーは!」


 「ええ、失敗して壊滅したでしょうね」


 シェインはともかく……【疾風の仕事屋】は大丈夫か? サポートメンバーは現場には行かないのが通常だから、上手く逃げてくれれば良いけど。


 「それより目下の問題があります。このゾンビども、人間のフリをしてこの場に来ていました。こんな知能を持ったゾンビの存在を聞いたことがありますか?」


 「いや。ゾンビってのは、生前の知能は失われて、人肉や血を求めてさ迷うだけの存在ってのが定説だが」


 「そうです。ですがこのゾンビを見る限り、その常識は捨てた方が良いでしょうね。それと今夜は危ういかもしれません。まずはジョイスロウ殿下にこのことを知らせて、宿で警戒しましょう」


 「ああ、そうだな。急いで帰ろう!」


 と、ギルドを出ようとしたのだが、ギルドマスターに呼び止められてしまった。


 「シーザ! お(めぇ)、ゾンビをシャボン玉でまとめて倒しちまったな? それに、そっちのお嬢ちゃんは、アダムス達がゾンビになってることを一発で見抜いたうえに、『浄化』を使えるみてぇだな?」


 さすがギルドマスター。

 あちこちに人材を出す仕事をしているだけに、人の才には敏感だ。

 面倒なことになりそうな予感。


 「こうなった以上、街は警戒態勢をとらにゃいかん。上町のお方にも報告して、近く対策を協議することになるだろうがよ。お前らにも役割が与えられるだろうから、その時には頼むぜ」


 メディスン街は、ここら俺らが住む”下町”に対して、北の方にはここらを治めている貴族や大商人の住む”上町”というものがある。

 勇者パーティーは国王陛下の直属案件であり、それを壊滅させて街にゾンビを送ってきたリッチは街の防衛問題に発展するだろうから、上町の方々を動かすことになるだろう。


 「わかりました。同居人が心配なんで、今夜は帰らせてください」


 「ああ。明日からしばらくギルドに顔を出してくれ。何か決まったらすぐ知らせる」



◇ ◇ ◇


 ギルドを出て、宿へ夜道の早歩きで急ぐ。

 さて、エルフィリアのことはマスターにどう説明しよう?

 まさか勇者パーティーを脱走した聖女様とか言えないし。


 「シーザ、待ってください。服と靴に”加護”がなくなったので、追いつけません」


 その声に後ろを振り返ると、エルフィリアが「ハァハァ」してはるか後ろにいた。

 ヤベェな。彼女の警戒がおろそかになっていた。


 「悪かった。いくらヤバイことがあったからって、今夜すぐに何かあるってわけじゃないよな。少し落ち着こう」


 「ええ、そうですね…………シーザ! 右手を見て!」


 彼女はやけに緊迫した声で叫んだ、

 そちらを見ると、向こうの方から複数人の人間がフラフラとこちらに向かって歩いてくるのが見えた。

 その先頭にいる奴らは冒険者の恰好をしている。

 いや、あの装備。見覚えがあるぞ?


 「よォ、そこにいるのはシーザじゃねぇか。お前、生きてたのか?」

 「あーホントだ、シーザだぁ」

 「また会えるなんて運が良いなぁ。もうずいぶん、会ってない気がするよぉ」


 妙な集団の先頭にいたのは、俺の仲間の【疾風の仕事屋】。

 そしてそのリーダーのメッシーナさんだった。


 「メッシーナさん! それにみんなも! そちらも無事だったんですね!」


 ――「気をつけてください! そいつら、全員屍生人(ゾンビ)です!」


 ……………なわけないか。

 いまさっきアカラチア山に行った連中が、屍生人(ゾンビ)になって帰ってきたのを見たばかりだってのに。


 「そっか。みんなゾンビになっちゃったんだ。俺がいなくなってから大変だったみたいですね」


 「……ああ。勇者パーティーの奴ら、ロクな対策もなしにリッチの森に飛び込んで、それにつき合わされちまった。で、今おれらは、そのリッチの【カズス様】の下僕ってわけだ。(わり)いが、お前も仲間になってもらうぜ」


 彼らの後ろを見ると、「アー」「ウー」としか言っていない普通の屍生人(ゾンビ)がいた。

 彼らの服装は冒険者のものではなく、この街に住んでいる一般の人達のものだ。


 「後ろの人達……みんなが屍生人(ゾンビ)にしたんですか。本当に屍生人(ゾンビ)になっちゃったんですね」


 「ああ。だがアンデッドになっても、変わらずみんな一緒だ。おれらに仲間にされた奴は、おれらみてぇに考えることは出来なくなっちまうがな」


 すると、一斉に【疾風の仕事屋】のみんなは俺に向かって動き出した。


 「お前も来いよォ、オレらと共によォ-」

 「ゾンビになっても楽しいぜぇ。楽しく夜ンなか歩こうぜぇー」

 「ヒヒヒ。みんな……みんな一緒だぁー。ずっと……ずっとなぁ」


  俺は魔物に成り果てたかつての仲間をやけに悲しい思いで見た。


 「家族に伝えておきます。みんなはアカラチア山で死んだって」


 握りしめた石けんから泡が生まれ、シャボンとなって屍生人(ゾンビ)にからみつく。


 「な、なんだこりゃ?」

 「お、おおー? 昇天しちまう?」

 「あ、ああ? き、消えるぅ。魂が飛んでいっちまうーっ」


 みんなはバタバタと倒れていく中、メッシーナさんは最後まで残っていた。

 彼が最期に見せた笑顔は、俺のよく知るものだった。


 「ハ……ハハハ。リーザ……おめぇ、大したスキルを手に入れたらしいな……ジョゼフにあったら……伝えて……やる……」


 バタリ。

 メッシーナさんも倒れ、ただそこには、大勢の死体だけが残った。

 割れていくシャボン玉が、みんなの魂のように見える。


 「残念だけど、兄貴はそこにはいないよ。ここで俺の聖女様になってんだ」

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