19話 亡きエルフィリアに誓う
宿に帰ってみると、そこは静かなものだった。
宿の主人のおやっさんが暢気に外で散歩をしていただけだった。
「おい、おやっさん! みんなは無事か? ここにゾンビは来なかったか!?」
「おいおい、静かにしてくれ。もう寝ている奴だっているんだ。朝早ぇ奴とか、うるせぇからよ。お前さんも、宿の”しきたり”ってやつは守ってくんな」
「あ、ああ、すまなかった……いや、それどころじゃないんだよ! 街に、アカラチア山から来たゾンビが襲ってきているんだ! そいつは人間にも化ける厄介な奴で、もうどれくらいゾンビにされてるか!」
「へえ……そいつは大変だ。よく知ってたねぇ。そんなこと……」
「おやっさん?」
俺ははじめて、おやっさんの様子がおかしいことに気がついた。
よく見れば、おやっさんとは何かが違うような来がする。
後ろのエルフィリアがあきれたように言う。
「いい加減、気がつきなさい。宿の主人とは、声も細かい部分も違うでしょう。そいつは別人。いえ、屍生人が宿の主人に化けているのです」
「そうだよォ! この服を着ていた奴はとっくに喰っちまったぁ! ニンゲン食べてみたかったからなァ!!
「うわあああ!」
俺に襲いかかる、じつはゾンビ。
しかし後ろのエルフィリアがボーラを投げて顔にぶつける。
「ガツン!」と派手な音でぶつかったにも関わらず、ゾンビはそれに怯まず俺から距離をとった。
「へっへっへ。お嬢ちゃん、スルドイねぇ。オデ様の変装を見破るとは」
「わたしの目はスキルの関係で、生命なき者を見分けることが出来るので『スルドイ』と褒められるわけにはいきませんが。アカラチア山で屍生人になった者がどのくらい知恵があるのか知るためにあえて黙っていましたが、相当に頭がまわるようですね」
「ハッハッハ、そうだ! アカラチア山で屍生人にされた者は、こうやって頭を使って仲間を増やすことができる! いま、宿の中の奴らを全員仲間にしている最中なんだよぉ!」
な、なにいい!?
ヤバイ! ジョイスロウ殿下が!!
エルフィリアも一転、顔を青くしている。
「そんな! ではジョイスロウ殿下はすでに!? ……ジョイスロウ殿下ーー!!」
ドッゴォォォォォォンッ
え?
エルフィリアの呼びかけに応えるように、宿の一部が爆発した?
「エルフィリア!! いるのか!?」
そこから飛び出したのは、心配していたジョイスロウ殿下。
エルフィリアを探してキョロキョロしているので、彼女を背の後ろに隠した。
「ジョ、ジョイ? 無事なのか? ゾンビになったりは………」
「ああ、シーザ。人間のフリして襲っているゾンビか。たまたま、宿の人の血を吸っている現場を見てね。それで奴らの襲撃を知った。とりあえず、中のゾンビどもは全員倒しておいたぞ」
「さ、さすがだな」
それを見た宿の主人に化けていたゾンビは、もの凄い跳躍で屋根の上に飛び乗った。
「くそっ、失敗か! だったら別の場所で仲間を増やしてやる!」
そう言って踵を返し逃げようとする。
「お前のような危険なゾンビを逃せるか! シーザ、その剣を貸せ!」
昼間買ってきた剣を殿下に渡すと、ゾンビを追って飛び上がった。
ジョイスロウ殿下も、もの凄い跳躍だ。
「【七星崩剣】!」
剣から眩い光が溢れたかと思うと、その光は真っ直ぐゾンビを貫いた。
「ぎゃわあああ!!」
ゾンビは空中で粉々に砕けて消滅した。
凄ぇ。これがS級戦闘スキルか!
「シーザ、ところで、ここに金髪の貴族女性はいなかったか? いま、彼女の声が聞こえたんだ!」
「あ、あーいや、そんな人はいなかったよなぁ。こんな所に貴族女性なんているわけないし」
「……そうか、そうだよな。でも、たしかに聞こえたと思ったのに」
周囲を見回したジョイスロウ殿下は、彼の望む彼女がいないことが分かると肩を落とした。
「それにしても、あのゾンビはいったい? まるで人間のようにふるまっていたが」
「ああ、それなんだけどよ。じつは………」
俺はギルドで出会った屍生人のことを話した。
「………というわけだ。どうやらアカラチア山のリッチが、あのゾンビを作っているらしい。多分、勇者シェインの討伐に刺激されて、街に襲撃をかけたんだろうって話だが」
「そ、それじゃぁ、シェインの勇者パーティーは……」
「多分、壊滅したんだろうな。そのサポートメンバーは俺の仲間だったんだが、全員屍生人になっていたし」
「それじゃぁ、エルフィリアも!」
「え? あ、いや、それはその………」
不味いぞ。
エルフィリアは俺の後ろでピンピンして生きているのに。
いや、彼女は自分が死んだことにするつもりだから、これはこれで良いのか?
「ハッ! まさか、さっきの声は彼女が僕に別れを告げに来たのか?」
…………ああ!
そうそう、そういうドラマチックなことが起こったことにしておくれ。
そのままエルフィリアを綺麗な思い出にして、未来に進んでくれ。
彼はしばらくアカラチア山の方向を見ていたが。
「いくぞ! 彼女の弔いだ。この街を襲っている屍生人どもを殲滅する!!」
決意をしたように叫び駆けだした。
彼は本当に街中を駆け巡り。
それにつき合った俺達もスキルで屍生人を狩りまくり。
翌朝には屍生人を一掃し、平和な街を取り戻すことができた。
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