12話 変わらないもの
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しばらくの間、隼人は桜の家から高校に通うことにした。
それにはいくつか理由があって、まずはできるだけ監視の目を逃れることを優先したからだった。
隼人がもともと住んでいた家は都心からは離れていたが、それでも監視ドローンやパトロボットが少なくなかった。
それにまだ自分のもとの家に帰る気はなかった。
処刑が行われると、その残骸はロボットが速やかに片付ける。
だから既に隼人の家はきれいになっているのだった。
それでもあの記憶は、掃除してきれいさっぱり克服できるような代物ではなかった。
高校に近付くと、生徒の姿がちらほら見えた。
そして案の定、隼人の方にちらっと視線をやると、友達同士で何かこそこそ話していた。
知らない人は構わない。
隼人が気にしていたのは、聖也や雫であった。
今まで通り接してくれるのか、不安で仕方なかった。
そして気付くと教室まで着いていた。
みんなの顔を見るのが怖かった。
その一歩、それが踏み出せないでいると、頭にずしっと衝撃が走った。
「おいっ」
振り向くと聖也がいた。
隼人の頭に手刀で一発かましていたのだ。
「そんなとこで何突っ立ってんだよ?早く入らねぇと邪魔じゃねーか」
そしていつもと変わらぬ感じで、教室の中に入っていった。
恐る恐る教室を見渡すと、隼人の予想に反して、今まで通りの様子の教室があった。
訳が分からず呆然としていると、聖也が後ろで囁いた。
「あまり詳しいことは知らねぇけど、俺は、いや、みんな、お前のこと信じてるぜ」
そしていつものように、サッカー部仲間と和気あいあいと話し始めたのだ。
これは後から知ったことだが、聖也が事件のことを知ったとき、すぐにクラスのみんなに声をかけたのだった。
隼人は悪い奴でいはないと。
そしてそのことはみんな納得した。
物理バカで、どんなに変な質問でも馬鹿にせず教えてくれる存在は、既に信頼を得ていたのだった。
隼人は自分が多くの仲間に囲まれて生きていることを改めて実感した。
そしてこうした仲間を大切にしたいと思った。
そのことが改めて、王政に戦いを挑むという気持ちを奮起させる。
クラスの様子もいつもと変わりがなかった。
朝から勉強している生徒、朝練終わりの生徒。
藤田も相変わらず淡々と話し、相変わらず難しい質問は隼人に当てる。
変わらぬものがそこにはあった。
ただ隼人には気になっていたことがあった。
それは雫の視線である。
いつもは窓の外を向いているのに、今日はずっとこちらを見ている。
睨んでいるに近いかもしれない。
(天音さんはやっぱり俺を<魔女>の子だと思っているのかもしれないな……)
どうしたのかと聞く勇気もなかった。
物理の話ができなくなるのは悲しかったが、仕方のないことだと割り切った。
放課後帰ろうと校門のところまで来ると、そこには紗那がいた。
隼人はあっと声を漏らす。
紗那との約束のことをすっかり忘れていた。
「先輩……もしかして、さなとの約束のこと忘れてませんでしたかぁ?」
ちょっと膨れて怒る様子は、怖いどころかむしろ可愛い。
「あぁ……ごめん」
言い訳ができなかった。
うつむいていると、隼人は服を引っ張られているのに気付いた。
紗那は小さい指で隼人の袖をつまんでいる。
「先輩……大丈夫ですか?」
隼人は紗那も事件のことを知っているのだと分かった。
それでも紗那はこうして自分を待ってくれていた。
思わず泣きだしそうになり、涙を堪えると喉の奥がぎゅっと詰まるような痛いような感覚が強くなる。
「……ありがとう。紗那は優しいな」
紗那は少しどきっとした。
隼人はあまり人の名前を呼ぶことがなかったのだ。
だから紗那はこの時初めて自分の名前を、しかも下の名前を呼ばれて嬉しかった。
「きょ、今日は徹底的に物理を教えてもらいますからねっ!覚悟してください!」
紗那は赤くなりながら目をそらした。
隼人は指で涙を拭うと、笑顔を浮かべる。
「もちろんだよ!何でも聞いてくれ」
そうして2人は近くの喫茶店に向かった。




