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たとえ世界が壊れても  作者: 霧島 奏
第1章 創造者の血を引き継ぐ人々
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11話 もうひとつの条件

 隼人は母の姿を思い出した。


「殺人……。それがもうひとつの条件……」


桜の言葉を反芻(はんすう)した。

自分が不思議な感覚に襲われたのは、確かに、母を殺めた直後であった。

そして桜もこの物理法則を改変する力を持っていたことから、ひとつの事実に気付く。


「ということは、おばあちゃんも、その……人を殺したことがあるの?」


「……えぇ。戦時中のことよ。隼人の母さんを守ろうと必死だったの。やらなきゃ、やられていたわ」


祖母にどこか精神的な強さを感じるのは、戦時中を生き抜いた経験によるものなのだろうと隼人は思った。

父の彰に戦争の話を聞いたときに感じたのとは別の臨場感が、祖母の人を殺したという事実に内包されていた。


「だから、俺が不思議な感覚に襲われていたことも分かったんだね。おばあちゃんも体験してたから」


桜はゆっくりと頷いた。


 桜は空になった湯飲みに、お茶を入れ直していた。

隼人はそれを眺めながら、考えを張り巡らせた。

物理法則を改変する力があるということは受け入れられたが、なぜ殺人がその条件のひとつなのか。


「ねぇ、でもどうして、殺人が条件のひとつなの?」


桜は再びをお茶を飲みながら答えた。


「この力には生贄(いけにえ)が必要なの。人殺して、それを供物(くもつ)として神に捧げるのよ」


「え、神?神って、昔、宗教があった時代に信じられていたあれ?確かに歴史の授業で聞いたことがあったけど、本当にそんなの存在するの?」


「今私が言った『神』というのは、かつてキリスト教やイスラム教が崇めていた唯一絶対の神でもなければ、昔の日本の多神教的な八百万(やおよろず)の神たちでもないわ。この世界の設計図を創り上げた存在を『神』と、そう呼んでいるだけ。<創造者の血を引き継ぐ者>の『創造者』と同じ意味よ」


ここまでの会話を通して、隼人は気づいた。

母の最期の願いの本当の意味に。


「母さんは、<創造者の血を引き継ぐ者>のことも、力を得る条件も知っていたの?」


「知っていたわ。目の前でその力を使ったこともあるのよ」


「じゃあ……、母さんが自分を殺せと言ったのは、このため……」


「そう……隼人のお母さんは、隼人にこの力を遺したのよ。隼人が戦えるように」


隼人ははっとした。


(この力がうまく使えれば、この日本を変えられるかもしれない……)


「おばあちゃん、この力の使い方をもっと教えてほしい!これで政府と戦える……」


待ちなさいというように、桜は手で隼人を制した。


「もちろん、力の使い方は教えるわ。ただ、しっかり扱えるようになるには、長期的な訓練が必要よ。それに……」


桜は何かをぐっと堪(こら)えるように一度口を閉じた。

隼人は続きを待った。


「それに政府、いや、宮松家もおそらく<創造者の血を引き継ぐ者>なの」


隼人はますます自分が生きてきたこの社会のことを何も知らないのだと思い知った。


 外はいつの間にか真っ暗になっていた。

桜は夕飯の支度をしながら、隼人にお風呂に入るように促した。

体を洗い終えて湯船に浸かると、今まで体を強張らせていたものが、少しずつ解(ほど)けていった。

湯船の縁に頭をもたれかけ、今日の桜の話を思い出していた。



***



 現在の王家、宮松家が<創造者の血を引き継ぐ者>であるかもしれないと聞いた隼人は、その場で立ち上がった。

もしそれが本当ならば、「科学的な」<MiKO>の存在が否定されかねない。

物理法則の改変によって神託が行われていたのだとすると、現在の国民が絶対と信じている正しさとは何だったのか。


「えっ……ということは、<神託>は全くの幻想にすぎなかったわけ?」


あくまで<MiKO>の言う通りにするという政治が、実は恣意的に行われているなら、それはもはや独裁である。


「いや……詳しいことは私にも分からないの。<MiKO>という人工知能があることも本当よ。ただ、<創造者の血を引き継ぐ者>の力が関与しているに違いないわ。例えば……あれ」


そう言うと窓の外を指差した。

その先には遠くの方で浮かんでいる飛行ドローンがいる。


「あれってどうやって飛んでいると思う?」


隼人は今まで全く考えもしなかった。

飛行ドローンにはプロペラのようなものは一切付いていなかった。

それによって夜でも静かに飛行し、人々の眠りを妨げることはないことを知っていたが、確かにそれではドローンはどうして飛べるのか。

重力に逆らう何かしらの力がないと飛べるはずがない。


「ドローンはおそらく改変された物理法則で飛んでいる……ということは、そのドローンを管理している政府も、<創造者の血を引き継ぐ者>の可能性が高い。そういうことなんだね?」


「えぇ。そしてこれは隼人のお父さんも知っていたことなの。彰さんは戦時中、日本軍の科学技術部に所属していたでしょ?そこで何かおかしな点に気付いたそうよ」


 隼人は、彰に歴史の話を聞いた時のことを思い出した。

父が今の政治が正しいとは言わなかった理由、それがここにあると分かった。

彰は真澄と結婚してから<創造者の血を引き継ぐ者>の存在を知った。

それから今の政治が完全なる「科学的な」ものではないと確信したのだろう。


「私が隼人の家族と関わらなくなったのも訳があるの。柑奈が殺されたことを隼人のお母さんから聞いたときは、もちろんつらかったわ。でもお母さんはすぐに自分たちとの関わりを断ってほしいと言ってきたのよ。これから先、何が起きるか分からない。だから私はそういう時のための助け舟になって欲しいと」


隼人は理解した。

桜が辺境の地で暮らしていることや、長いこと会わなくなったのも、この前の事件のようなことが起きたときの備えだったことを。

関わりが深かったら、桜も処刑の対象になっていたかもしれない。


「そしてあれだけの数のドローンを、しかも広範囲に渡って飛ばすだけの力があるということは、他にも私たちの知らない何かが秘められているはずよ。これは予想でしかないけど、<MiKO>もその能力が使われているんじゃないかしら」


「この力には個人差があるの?」


「おそらく気付いているでしょうけど、この力には限界があるわ。今この家の周辺に雨が降るように改変してみてごらん?」


隼人は家の周辺の気圧を下げるように意識したが、全く変えられる気がしなかった。

能力を発動させようとした時に、直感的にそれができないと分かるのだ。


「じゃあどうして、宮松家は広範囲に及ぶドローンを?」


「ある程度の訓練によってこの力を強化することはできるけれど、あれだけの力を得る方法はひとつしかないわ」


「もしかして……」


桜は頷いた。


「おそらく隼人が想像した通りよ。それだけたくさんの『生贄』を捧げたんだわ。<魔女狩り>の時期に」


かつての<魔女狩り>で、無数の人々が処刑された。

もしそれが全て、<創造者の血を引き継ぐ者>によってなされたのだと思うと、隼人はぞっとした。

自分が今から立ち向かおうとしている敵の強大さを、意識せずにはいられなかった。


「だから、この政府を倒そうと思うなら、まずは限界までこの力の能力を高める必要がある。そして、一緒に戦う仲間も必要だわ。長い時間がかかるかもしれないけれど、それだけの準備をしないと」



***



 隼人はお風呂からあがり、貸してもらった寝巻きに着替えると、夕飯の準備を手伝った。

夕飯を食べながらこれからのことを話した。


「まずは監視に怪しまれないことが大事ね。改変の力で誤魔化しも効くけれど、できるだけ今まで通りに生活するのよ。学校にも行きなさい」


高校のことをすっかり忘れていた。

事件の日が金曜だったからちょうど学校を休むことがなかったが、今度の月曜からまたいつものように学校に行かなくてはならない。


 高校のことを思うと、憂鬱な気持ちになった。

おそらく<神託>によって自分の両親が処刑されたことは噂になるだろう。

そうすると<魔女>の子だと、冷ややかな目で見られるかもしれない。

それでも隼人には覚悟があった。

この間違った、そして多くの人々を騙し続けていた王を倒すと。

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― 新着の感想 ―
[一言] 第1章、読了しました♪ SFと能力モノが合わさった感じなんですね(^^) 説明がわかりやすかったです。 あれほどの惨劇と妹のことがあったのに、主人公もおばあちゃんも意外と冷静(^-^;。 …
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