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手紙の国  作者: ぺんぎん
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手紙の国 前編

こんにちは、ぺんぎんです。手紙や思いがテーマな作品です。読んで下さったら幸いです。

 僕の国は手紙が主流だった。

 相手に伝えたい思い、感情、考え、言葉。

 それらすべてを会話だけでなく、手紙のやり取りによって、伝え合っていく。

 そんな国だから、手紙に自分の声を乗せることもできてしまう。

 そんな文化も普通だった。


 手紙は特別で、手紙を入れる封筒も、かけがえのないもの。

 ――だから、かもしれない。

 偶然、目にした光景がおかしく思えたのは。


 手紙を破っては捨て、破っては丸めて捨てる少女がいた。

 僕の国でそんな風に手紙を扱う人はいない。

 少なくとも僕の周りにはいなかった。


 それは少女を見つめる周囲の眼差しからも明らかで。

 しかし、少女は気にする様子もない。というより、様子が変だった。


 のどかな公園で、家族連れも多い中、ベンチに腰掛ける少女の姿。


 その手元には、白い封筒もあって、便せんも複数ある。

 そして、手紙を書こうとしている。

 なんらおかしな光景ではない。

 だけど、手紙を破り捨て、何かを書こうとする姿は真剣で、苦しく喘いでいるようにも見えた。

 なんだか、放っておいたらいけない気がした。

 

「なにしてるの?」


 突然、話しかけれたせいか、少女は驚いた表情を見せる。


「……手紙を書いてるの」


 ぽつり呟いた言葉は警戒心よりも疲れが滲んでいるようだった。


「誰に手紙を書いてるの?」


 初対面で話しかけた上に、こんなことまで聞けば逃げられるかもしれない。

 そう思ったけど、少女はすんなりと答えた。


「亡くなった友達に」

「……亡くなったの?」

「そう、亡くなった」


 その言葉には、『友達』への親愛の情が宿っていてもおかしくないのに。

 何故か、少女の声はもっと別の感情が込められているように感じた。


「だから、書こうと思ったの」


 友達を弔う言葉を。大切に思う綺麗な言葉を。

 その声を。


 だけど――


「どうしても、書けないの」

「書けないの?」

「そう、書けない。どうしても、浮かばないの」


 綺麗な言葉が。優しい声が。

 友達に向けるべき感情が、どうしても浮かばない。

 書かないといけない哀惜の念。

 たった一言。

 

 ――ご冥福をお祈りします。

 だとか。

 ――天国でも元気でね。

 だとか。

 ――私たち、ずっと友達だよ。

 だとか。


 そんな綺麗で、優しい言葉を綴らないといけないのに。

 書こうとすればするほど、汗が出て、手が震え、息が苦しくなって。

 文字が掠れてしまって、何枚も便箋を無駄にしてしまう。


 ――そんな自分が嫌だった。


 そんな風に語る少女を見て、僕は思った。

 多分、少女が『友達』に綴りたいのは、綺麗な言葉じゃない。

 だけど、その言葉が何なのか、僕には分らない。

 だからこそ、僕は尋ねた。


「友達は何で亡くなったの?」

「なんで?」

「聞かれたくないなら、聞かないよ」

「……」

「だけど、初めて会ったからこそ、気兼ねなく話せることもあるんじゃないかって思うんだ」


 家族にも他の友達にも言えない言葉。手紙では書けない思い。

 それが少女にはある気がした。


「亡くなった後、手紙が来たの」


 しばらくして、少女はポツリと呟いた。

 『友達』が少女に死ぬ直前、綴った手紙。

 あえて、時間差で届かないようにしておいて。


 ――『友達』は自ら命を絶っていた。


 だけど、その事実にショックは受けたものの、あまり驚かなかった。

 何故なら、『友達』が少女に向けて宛てた手紙の多くに、自殺を仄めかす言葉や声が綴られていたからだ。


 ――手首を切ったの。

 ――飛び降りようとしたの。

 ――睡眠薬を過剰に飲んだの。

 ――毎日が地獄なの。

 ――寝ぼけて、手のひらを傷つけたの。


 手紙には、ただ心配して欲しさに書かれた『嘘』も多かった。

 それでも少女は、『友達』を必死に止めていた。


 ――死んだら悲しい。

 ――死んだら怒るよ。

 ――そんなことを言うの?

 ――何かあったの。

 ――死ぬとき痛いよ。


 そんな言葉に、手紙に、『友達』は嬉しそうな声と共に、手紙が届く。


 ――『分かったよ』

 そのたった一言の手紙を、少女は完全に勘違いしていた。

 もうやらないという意味にとっていた。

 だけど、違っていた。


 あの『分かった』は、単に少女の思いは『分かった』という意味だったのだ。

 ただ、それだけの話だった。

 そのことを、『友達』が死んでようやく理解した。


 呆然とする中で、『友達』からの手紙を読んだ。

 その内容はあまりにも酷すぎた。


 ――私にとっての幸福の女神様は、あなただった。


 責任を、押し付けられた気がした。

 何故、死んだ今になって、こんな言葉を自分に向けてくるのか。

 この言葉で少女がどれほど傷つくのか。

 どれほど無力感を味わうのか、苦しむのか。

 そんな感情を味わわせた『友達』をどれだけ、どれだけ――


 憎いとすら、死んでしまってせいせいするとすら。

 そんな言葉ばかりが思い浮かぶ自分が何より嫌だった。


「分かってる、そんなつもりで書いた言葉じゃない。分かってるのに、どうしても」


 ――あの言葉が、『友達』から受け取った言葉を、手紙を。

 どうしても手放せない自分がいる。


 死んだ相手に手紙を届けてくれる郵送がある。

 実際に届けるわけじゃない。

 書かれた手紙は、死者に届けるため、多くの人が見守る中で燃やされていく。

 生きている人の心を少しでも癒し、軽くするための制度の一環だった。

 月に一回、それは行われる。


 少女はそれに参加したいと思っていた。

 だけど、そのための手紙を書こうとしても、感情が邪魔をしてうまく書けない。

 それが、少女の手を止める原因だった。


 苦しむ少女に、僕は言った。


「なら、送り返せばいい」

「え?」

「その友達から貰った手紙も全部」


 そんなことなど考えもしなかったのだろう。

 驚く少女に、僕は言った。


「それで数行でも一文でいいから、『友達』に伝えるんだ」

「伝える?」

「そう、自分の本当の気持ちを」

「でも、相手は死んでるのよ?」

「そうだね」

「そんなの、したら――」

「でも、嘘の手紙を書き連ねるよりずっといいと思うんだ」


 少女は黙る。

 僕は続けて言った。


「それに何より、手紙は気持ちを伝えるものだから」

「……」

「生きてた時、言えなかったことも。死んだ後だからこそ伝えられることもあると思うんだ」


 僕の言葉に、少女は――


 一枚の便箋を手に取った。

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