前編
いつでも土下座の準備は出来ているんです。
遠い昔、音楽……特に歌は神様に捧げるものだった。
それは感謝であったり、畏れであったり、祈りであったり……とにかく色々。
そんな『歌』を生業としている私達は、アイドルとして東の京ドームでライヴが出来るくらい売れっ子になれた。
私達の夢であり、憧れであったドームでのライヴ。
私こと草花イチゴは、友達であり仲間の橙ミカン、間空来メロンの三人で夢と憧れの舞台に立つことが出来たんだ。
でも、世の中そんな甘くない。
宇宙から来た謎の生命体『宇宙蟲』と呼ばれるソレは、私達が今まさに歌いだそうとした時に襲いかかってきたんだ。
ドームの屋根を食い破って、風で巻き上げられる舞台の機材や、お客さん達の悲鳴を聞いて、私達は逃げるでもなく呆然とするしかなかった。
そして、湧き上がったのは悲しみ。
私は悲しかった。
せっかくの大舞台。聴かせたかった歌はもう歌えない。
だって、もう、こんなにめちゃくちゃだったら、歌っても意味は無い……。
防衛軍といわれる人達が駆けつけて、何度銃で撃っても倒れないソレらは、どんどん増えていく。
もう終わり?
私達はこのまま歌わずに、何もせずに終わるの?
ううん。そんな事はない。
私達三人は、何も無い所から始めた
歌を歌って、聴いた人に喜ばれて、たくさんの思いをもらってここまで来た。
歌おう。
私達の歌は、こんな事くらいじゃ負けないんだから。
ミカンもメロンも、私に合わせて歌ってくれた。
そして宇宙から来た謎の生物は私達の歌に動きを止め、防衛軍が再度銃で撃った弾はソレの体を貫通し、光となって消滅した。
後から聞いたけど、私達の歌にはその宇宙生物を弱らせる力があるみたいで、原理は分からないけど「地球を守るためにはとにかく歌え」ってことだと私は思っている。ミカンは「これだからイチゴは」って言ってたけどやる事が分かってれば良いよね?
こうして私達は専用機である『ディーバ』に乗って、歌って戦うアイドルになったのだ。
◆
「兵はどうなりました?」
「どうやら殲滅されたようだね」
「ああ?今の地球の技術じゃ、あれは倒せねぇんじゃなかったのか?」
「ふむ……もう一度、兵を出してみよう。良いかな王子」
「許します」
「面倒くせぇな。直接行こうぜ」
「それはもう少し先だよ」
「……チッ」
◆
また『宇宙蟲』が来た。
あのドームでの戦いから一ヶ月。数回ほどの来襲に、私達は少しずつ戦いに慣れていった。
まぁ、戦いといっても歌うだけなんだけどね。
「なんかなし崩しに戦うことになってるけど、いい加減に原因とか分からないのかなぁ」
ミカンが通信で不機嫌な声を出す。ミカンは頭が良くて、学校でも私の勉強を見てくれたりする。小学校からの幼馴染で親友だ。
「お父様が言うには、蟲には何も情報が無いとの事ですわ。生け捕りのしたけれど、時間が経つと消えてしまうそうですし……」
違う通信から、おっとりと話すメロンは父親が防衛軍の長官だというお嬢様だ。今の中学から一緒に行動するようになったのだけど、メロンのお父さんの事を聞いたのはドームでの戦いの後だった。
その時はびっくりしたけど親友には変わりないから、私達は仲良しのままだ。メロンはちょっと泣いていた。
ちなみに、どこがとは言わないけどメロンはメロンサイズだ。
イチゴとミカンは将来性を重んじている。
どこがとは言わない。絶対。
今回の蟲は、とにかく飛び回っていて、とにかく光って眩しかった。
いっぱい倒したけど、数匹逃げていった。
「うう、悔しいよぅ!」
「なんか今回派手に光ってるだけで、どっか襲われたとかじゃなかったね」
「何か……ありそうですわね」
蟲が逃げていった方向を見る。
そこには青白い月が、私達を白く照らしているのだった。
草花イチゴ…元気いっぱい。頭悪い。友達思い。
橙ミカン…冷静。頭脳明晰。イチゴの姉ポジ。
間空来メロン…おっとり。お嬢様。メロン持ち。
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