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ワーム探偵事務所はれっきとした部活動ですが、今日もなんだかヌメっています。  作者: 沙φ亜竜
第1章 ワーム探偵事務所はれっきとした部活動です!
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-1-

「まったく、和夢子は……」


 無意識に独り言がこぼれ落ちる。

 和夢子が証拠品ともども会議テーブルを溶かしてしまったのは昨日のこと。

 それを思い返しながら、その当人を待っているところだ。


 この部屋で使っていた会議テーブルはなくなってしまったけど、使っていなかったテーブルを融通してもらうことができた。

 今の僕は、会議テーブルに肘をつく格好でパイプ椅子に座っている。


 僕の名前は、側杖(そばづえ)命中(ひっと)

 外見的には、とくにこれといった特徴もない。いまいち冴えない印象、と和夢子が感想を述べたことがあったくらいに。

 頭のアホ毛が特徴といえば特徴だけど、昨今その程度では個性として認識されない、などと容赦なく言ってのけたのもやっぱり和夢子だった。


 そんな僕は、ここ不死樹谷(ふしぎだに)中学校に通う中学二年生。和夢子も同じく二年生だ。

 クラスが違うため、こうして到着を待つ時間ができてしまうのは、少々難点と言えなくもない。


 学校名となっている不死樹谷は、昔、この近辺の地名になっていたのだとか。

 その由来でもある大樹が、うちの中学校の中庭に、でんっ! と凄まじい存在感を伴ってたたずんでいる。

 不老長寿の樹と呼ばれていて樹齢数千年とも言われる大樹には、青々と大量の葉が茂っている。

 縦よりも横に広がっているのが特徴的なその木は、見上げるだけで元気を分け与えてもらえるようにも思えるくらい、生命力に満ち満ちた印象だ。


 遥か昔、天空より一条の光が差し、一夜にして一本の大きな樹が生えた。

 その巨大な樹の魅力に惹かれ、人々が集い、村ができた。

 それがこの付近一帯の繁栄の始まりだとも言われている。


 ちょうど僕の今いる部屋の窓から、中庭にある不老長寿の樹が見える。

 まぁ、いくら特別な謂れのある樹が見えるからといって、大した退屈しのぎになんてなるわけがない。


 和夢子……早く来ないかな。

 僕はそう思いながら、ぼーっと時間を費やす。


 ここで、不死樹谷中学校の部活動に関して、少し解説をしておこう。


 僕の通っているこの学校では、生徒の自主性を重んじているらしく、部員がたったひとりだけであっても部の発足が可能となっている。

 ただし本当にどんな部でもいいわけではなく、顧問となる教師は必須との決まりがある。

 つまり、教師が部活動の内容を聞いて顧問を引き受けてくれることが発足の条件で、それ以外にはこの学校の生徒である部員さえいればいい。

 顧問の取り合いになるのを防ぐため、教師は複数の部の顧問を兼任することが可能、といったルールも存在している。

 なお、三年生の卒業によってもし部員数がゼロになったら、その部は自然消滅することになる。


 さて、僕が今いるこの部屋。

 実はそんな部活動の拠点、すなわち部室だったりする。


 『ワーム探偵事務所』


 それが僕の所属している部の名前だ。

 探偵事務所と名乗っておきながら部活だとか、ここではそんな細かいことを気にし始めたらキリがないので、華麗にスルーしてもらいたい。


 ところで僕たちはべつに、金銭を受け取って依頼を解決する仕事をしている、というわけではない。

 探偵事務所を名乗ってはいても、実体は部活なのだから、当然といえば当然だけど。

 でも、部長である和夢子は完全に探偵気取り。一般生徒からの依頼を大々的に受けつけて、様々な事件に首を突っ込むのを生業としている。

 ワーム探偵事務所の生みの親、及び名づけ親が和夢子なのは語るまでもなく明らかだろう。


 一年ほど前、僕はまだ発足したばかりのこの部に、半ば強制的に引き込まれてしまった。

 無論、和夢子によって。


 僕と同様、入学したての一年生だった和夢子が、よく顧問の先生を見つけられたものだと感心してしまうけど。

 どうやらその先生とは、もともと知り合いだったようだ。

 若干、裏技的な気がしなくもないものの、顧問が知り合いだと無効といった規則はないため、とくに問題はないのだという。


 ワーム探偵事務所としての活動期間は、今のところ一年強。

 すでに二年生、三年生のあいだでは随分と話題に上り、誰も知らない人がいないのではないかと思うくらいに有名となっている。

 それが良い方向でならばいいのだけど、言わずもがな悪い方向なわけで……。


 和夢子は名探偵を自称している。

 といっても、周りからは「めいたんてい?」と棒読み調な上、疑問符つきで言われるような感じ。

 さらには、「めいたんてい」をもじって、こんな呼称までをも受けている。


 迷宮入り探偵、

 メイクトラブル探偵、

 冥凶死衰(めいきょうしすい)探偵、

 名状しがたいほどアレな探偵、

 迷惑千万探偵、

 冥土の土産探偵、

 などなど……。


 いろいろと存在してはいるけど、全部が全部、マイナスイメージの異名でしかない。

 和夢子に依頼したが最後、骨の髄まで溶かされてしまう、とまで噂されているのだとか。


 証拠品やら会議テーブルやらを溶かした前科はあっても、実際に生徒を溶かしたことなんてないはずなのに。

 噂とは勝手にひとり歩きするものだ。

 和夢子関連の話に限って言えば、十中八九事実なのが問題だとは思うけど。


 そんなわけで、本当の意味での依頼が来るとしたら、まだなにも知らない一年生に期待するしかないのが現状となっている。

 二年生以上からの依頼があるとすれば、面白半分か冷やかしか、もしくは和夢子の美貌目当てか……。

 理由はどうあれ、部活動で探偵なんてしているところにまともな依頼が来るとも思えない。


 今日も今日とて、僕は不平不満を抱えながらも、和夢子の到着を待ちわびていた。

 しばらくのあいだ時計の秒針の音だけが響く時間が過ぎ去ったのち、ようやく待ち人が現れる。


「諸君、お待たせ!」


 大きく音を響かせてスライド式のドアを開け放ち、威風堂々と部室の中へと踏み入ってくる。

 もちろん、和夢子。

 我が部の部長。


「諸君ったって、僕しかいないけどね」


 ため息まじりの言葉を吐き出しつつも、僕の顔面の筋肉は自然と笑みを形勢するのだった。


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