私は……否、君は如何。
今此処にいる私と、目の前の「私」との唯一の相違は、虹彩の色だ。
瞳孔の周りの色が、私とは全く違うのだ。
私は、アジア圏に多いダークブラウン、つまり黒なのだが、「私」は、深海の様に澱み切った、でも何処か煌くものを持ち合わせた、澄んだブルーだった。
「私」は、今迄キュッと閉じていた口を漸くのこと開いて、言った。
「やあ、僕。現世が恋しいかい?」
気持ち悪く思える程微笑んだ顔だ。
「現世? 一体何をいってるんです?」
「現世は現世さ。ゼロはゼロで一は一であるように、現世は現世だよ。当然だろう?」
「私」が、一瞬の当惑を表すかのように首を傾げる。
「当然なんて言われても……まず、私にそっくりな君は、一体何者なんですか?」
「それも、今のと同じことだよ。決して君と私はそっくりじゃない、同じなんだ。
君は僕で、僕は君だ。どっちがどっちか分からなくなるくらい、同じなんだ。」
「同じ? そんな訳がありますか。
現にこうして、君と私は同一空間に同時に存在していではないですか。
同じ人間が同じ空間に二人も居る訳ないのでは?」
「私」は、馬鹿にしたように笑う。
「君、まさか此処が現世だなんて思ってないよね?
そりゃあ、現世じゃそんなことは有り得ないさ。なら答えは一つだよ。
此処は、現世……つまり、此岸じゃないんだ。」
「私」の言うことが理解できず、今度は私が首を傾げる。
「なら、此処は何処なのです? 夢?」
「あれ、覚えてないのかい?
何回目か分からないけど、僕は優しいからね、教えてあげようじゃないか。
此処は、生彼岸だ。」
……生彼岸?
今までの人生がそう長くはないのは承知しているが、私は今迄にそんな場所があるとは聞いたことが無い。そもそも、その単語を聞いたことすらない。
彼岸ではないのか?
「どうせ、生彼岸が何なのかも忘れているんだろう?
全く、此岸の僕はあの子に大分好かれているんだね、羨ましいことだ。」
皮肉めいた口調で私に針を刺す。もっとも、「好かれている」自覚は何処にもないのだが。
「ま、それは寛容な僕だから許してあげよう。
それで、生彼岸って言うのはだね? 簡単に言えば此岸と彼岸の狭間ってところだ。
これくらいは流石に想像がつくだろうけど……多分、君は『狭間の概念』を理解していないんだろう。
否、そうだろう?」
そうだろう、なんて言われったって、それより前にまず「生彼岸は此岸と彼岸の狭間である」という前提が呑み込めていないんだが……。
「私」は相変わらず、理解を待ってくれる素振りすらも見せてくれはしなかった。
前回から大分時間を空けてしまいました、すみません。




