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第5話 ラッキーアイテムが引き合わせたのは赤い百合の花

最終話です。

「ごめんなさい!」

「えぇ……私、委員長に謝られるようなことされたっけ?」

「昨日、藍さんを遅刻扱いにしてしまいました」


 え、そんなこと? 遅刻なんていつもしてるから一つや二つ増えたところで怒りゃしないよ。


「藍さんの言ったことを信じないで嘘だと決めつけてしまいました」


 委員長は心底申し訳なさそうに言う。

 なるほどなー。嘘だと思っていたのに本当だったから罪悪感に苛まれたと、そういうことかー。


「私は全然気にしてないよ。遅刻常習犯の言うことを信じるほうがおかしいって」

「怒って、ないんですか?」

「委員長に怒るわけないじゃない。今までもこれからも怒られる側だよ私は」

「ひぐっ……本当……ぐすっ……ですかぁ?」


 うぇええ!? 急に泣き始めちゃったよこの子!

 目に涙がじわじわ溜まって今にも零れそうだ。あ、零れた。


「ワタシ、ウソツカナイヨ」


 動揺してカタコトを喋る某外国人タレントみたいになっちゃったじゃないか。


「よがっだぁ。ぐすん……怒ってながっだぁ」


 安心したのかさらに涙が溢れて眼鏡を取り、腕でグシグシ目を擦っている。

 あらあら、きれいなお顔が台無しよ。って本当にきれいな顔してるな委員長。


「ひぐっ……昨日の夜、藍さんに嫌われたんじゃないかってすっごく怖くて怖くて。朝は笑いかけてくれたけど、裏ではどう思ってるかわからないから。私、藍さんの隣にいる資格なんてないんじゃないかって思って」


 考え過ぎだよ。私に裏表使い分ける器用さなんてないからね。

話している内にやっと涙もおさまってきたようだ。


「何言ってんのさ。私と委員長の仲じゃない」

「……藍さんと私の仲って何ですか?」


 うぐっ。改めて聞かれると困る。クラス委員長とただのクラスメイト? そんなことこの場面で言ったら怒られそうだ。うーん、友達……なのかなぁ? 委員長と遊びに行ったことなんて一度もない。よく考えたら委員長のこと何も知らないや。好きな食べ物もそうだし、趣味も得意なことも家族構成も何で委員長をやっているのかも知らない。あっ、でも……。


「委員長ってぬいぐるみに詳しかったよね。好きなの?」

「ちょ、誤魔化さないで下さい! ぬいぐるみは好きですよ。自分で作ったりもします。悪いですか!」


 自作するほどだったとは、意外だ。


「私も小さい頃からぬいぐるみ好きでさ、集めるだけだけど結構たくさん持ってるんだよ。だから今度さ、うちに見に来ない?」

「な、何ですかいきなり!?」

「だって、私たち友達でしょ」


 別に遊んだことなくたって相手のことを知らなくたって、お互い仲良くしたい想いがあるなら友達でいいじゃない。そんなに難しく考える必要なかったんだ。


「友達、ですか……?」

「うん!」

「じゃあ……名前で呼んで下さい」

「へ?」

「友達なら私のこと名前で呼んで下さい」

「あー、名前ね。うん、名前名前。名前かぁ。名前だよね。え? 名前?」


 やべえ! 名前が思い出せない! みんなが委員長のこと委員長としか呼ばないからだぁ。これはクラス全体の連帯責任ですよ。一年前の自己紹介の時に言ってたはずなんだけどなぁ。我が脳細胞よ、今こそ真の力を発揮する時だ! えーっと、なんだか珍しい名前だったような…………くぅ、思い出せねぇ!

 真冬なのに冷や汗が出てきたんですけどっ。


「……ぁかるです」

「え? 何だって?」

くれないに瑠璃色の瑠と書いて紅瑠あかるです!」


 あらやだ、かわいいお名前。


「かわいいとか言わないで下さいよ、もー! これだから自分の名前はあまり言わなかったんです」


 つい心情が口からポロッとこぼれ出てしまったようだ。

 でも名前以上に、照れ隠しで怒って頬を膨らませる委員長かわいいと思ってしまった私はおかしいのだろうか?


「それじゃ、一旦教室戻ろうか? 荷物置きっぱなしだし、ここはあまり長居したい場所じゃないしね」

「名前、呼んでくれないんですか……?」


 ほぼ毎日顔つき合わせてるのに今更になってから名前呼ぶのって気恥ずかしいじゃない?

けれども、今の私は彼女の名前を呼びたい気分だった。


「行こうか、紅瑠ちゃん」

「はい、藍さん!」


 二人連れ立って歩いていると、私の歩幅の方が大きいのか少し前に出る。置いていかれないように主張するためなのか、紅瑠ちゃんは私の服の袖をちょんと掴む。その仕草がなんだか初々しくもどかしくて、私は紅瑠ちゃんの腕を取り、自分の腕を絡める。初めて触れ合った彼女の身体は柔らかくて暖かくてとてもいい匂いがした。

 教室に戻ると、性懲りもなくまだ残っていたクラスメイト達に出迎えられる。


「みんな早く帰りなよ」

「目を赤く腫らして藍さんの腕にすがりつく委員長。そしてその腕をぎゅっと絡める藍ちゃん……これは決まりですな」

「で、いつ結婚するの?」

「どこまでやっちゃった? A? それともB? キャー、Cだなんて早すぎるぅ~」


 うるさいぞ、そこの友人ABC。紅瑠ちゃんが恥ずかしがって俯いちゃっているじゃないか。私の腕を抱きしめてかわいいことになっちゃってるぞ。教室内は「ゆりゆりじゃのう」「わたくしの藍ちゃんがあああ!」と、放課後とは思えないほど騒がしい。このままここにいるとずっといじられそうだ。


「帰ろっか?」

「はい」


 紅瑠ちゃんがうちに来たらどのぬいぐるみを見せようかと、持っているぬいぐるみを思い浮かべてみた時、なんとなく気になったことがあるので聞いてみる。


「ねぇ、紅瑠ちゃんって何月生まれ?」

「10月ですけど」

「ふふっ、やっぱりね」

「ええ? どういう意味ですかぁ」


 私はこっそりとポケットに仕舞ったままだった犬の編みぐるみを握りしめた。


女の子同士の関係が変わる瞬間っていいよね

書き終えてみたら百合度が低かった

ぐぬぬ……

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